16~17世紀イングランド宮廷音楽団「The King’s Noyse」の歴史とレコード収集の魅力
「The King’s Noyse」とは何か?
「The King’s Noyse(ザ・キングズ・ノイズ)」は、16世紀から17世紀初頭のイングランドに存在した宮廷の音楽団、すなわち「王の楽団」として知られています。「Noyse」という言葉は当時の英語で「音」「音色」「奏楽」を意味し、現代で言うところの「音楽隊」や「楽団」に相当します。当時のヨーロッパの宮廷では、音楽は王権の象徴とも考えられ、儀式や祝祭、狩猟、戦争に至るまで様々な場面で音楽が重要な役割を果たしていました。特にイングランド王室は、豪華かつ技巧的な音楽文化を持ち、国際的にも高い評価を受けていました。
歴史的背景と成立経緯
「The King’s Noyse」は、16世紀のヘンリー8世の時代に始まり、エリザベス1世の治世に最盛期を迎えました。ヘンリー8世は音楽に深い関心を持ち、多くの音楽家を宮廷に招き入れ、様々な楽器を使った壮麗な演奏が行われました。ヘンリー8世自身も作曲家・音楽家として知られており、彼の在位期間中に宮廷音楽の基盤が固められました。
続くエリザベス1世の時代、イングランドは宗教改革や政治的安定期を経て、文化芸術が花開いた「イングリッシュ・ルネサンス」の中心地となりました。「The King’s Noyse」はこの時代の宮廷音楽シーンで重要な役割を果たし、楽団員たちは洗練された音楽表現で王室の威厳を演出しました。
楽団の編成と楽器構成
「The King’s Noyse」は、通常のオーケストラや吹奏楽団とは異なり、主にブラス(金管楽器)を中心に編成されていました。具体的には、サックバット(古典的なトロンボーンの一種)、コルネット、トランペット、ショーム(シャウムとも呼ばれる古典的な木管楽器)、ルネサンス・トランペットなどが主要な楽器でした。
これらの楽器は当時の宮廷の儀式や祝賀の際に、その気品と荘厳さを表現するのに適していました。特徴的なのは、これらの楽団が野外での演奏も頻繁に行っていたため、遠くまで音が届く明瞭で力強い音色が求められたことです。そのため、現代の金管楽器とは異なる構造や演奏技法が用いられていました。
レコードに残された「The King’s Noyse」
現代において「The King’s Noyse」のサウンドを記録したレコードは非常に貴重であり、歴史的な雰囲気を忠実に再現するための試みとして注目されています。1970年代から80年代にかけての古楽運動の高まりの中で、古楽器による演奏を目指すアンサンブルが結成され、これらの曲目がレコードとして録音されました。
特にイギリスやドイツを中心に、ルネサンスやバロック時代の音楽を専門とする古楽団体が、「The King’s Noyse」のレパートリーを取り上げました。これらの録音は、当時のルネサンス・ブラス奏者たちの技術や考証に基づいた復元演奏であり、現代の高音質録音技術で古の音を蘇らせています。
- 代表的なレコード例:
- 「The Art of the Renaissance Trumpet」 - David Munrow & The Early Music Consort(1970年代)
- 「Renaissance Brass & Cornetts」 - Oxford Camerata Brass(1980年代録音)
- 「The King's Noyse: Music for Trumpets & Sackbuts」 - His Majestys Sagbutts & Cornetts(1980年代以降)
- 録音の特徴:
- 古楽器使用により当時の音色を再現
- リバーブや空間配置に工夫を凝らし、宮廷や野外での演奏環境を想起させる録音技術
- 音響的に限られたマイク配置で、楽団の自然な音のバランスを保持
レコード収集のポイントと価値
「The King’s Noyse」に関するレコードは、歴史的演奏に関心のある音楽愛好家や専門家の間で高い価値を持っています。特にLPレコードでの収集は、音質の良さやオリジナルジャケットのデザイン性、当時の録音文化を感じ取る点で重宝されています。
- ヴィンテージ・レコードの探し方:
- 専門的な古楽専門店やオークションサイトを利用する
- 国内外の古楽フェスティバルや音楽博物館の物販コーナーをチェック
- ディスクユニオンや中古レコード店の古楽コーナーを訪問
- 注目すべきレーベル:Archiv Produktion(ドイツ)、Harmonia Mundi(フランス)、EMI Reflexe(英国)などは古楽録音の名門として知られています。特にこれらのレーベルからリリースされた「The King’s Noyse」関連音源は、復刻盤としても人気が高いです。
まとめと現代における意義
「The King’s Noyse」は、ルネサンス音楽の中でも金管楽器を駆使して王室の威厳と文化を象徴した重要な音楽団です。当時の音楽文化を学ぶ上で欠かせない存在であり、その音色や演奏スタイルは現代の古楽演奏に大きな影響を与えています。
レコードという形態で残された音源は、単なる音楽作品の収集にとどまらず、歴史的空間の体験や時代背景の理解、楽器と演奏技術の研究にも資する資料でもあります。CDやデジタル配信の時代にあっても、アナログレコードの温かさや深みを通じて「The King’s Noyse」の世界に触れる楽しみは特有のものがあります。古楽ファンのみならず歴史愛好家や音楽学者にとっても貴重な宝物として輝き続けています。


