マイルス・デイヴィス名盤レコード5選|オリジナル盤で味わうジャズの革新と歴史

はじめに

ジャズ界の巨匠、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)は20世紀を代表するトランペッターであり、作曲家、バンドリーダーとして数々の革新的な作品を生み出しました。彼の音楽はモード・ジャズからフリー・ジャズ、フュージョンへと変遷し、多くのミュージシャンに影響を与え続けています。本稿では、彼の代表的なレコード作品を中心に、マイルス・デイヴィスの代表曲について解説していきます。なお、CDやサブスクリプションではなく、特にオリジナル盤のレコードに焦点を当てながら、音楽的な特徴や歴史的背景を交えて紹介します。

1. 『Birth of the Cool』(1957年リリース)

『Birth of the Cool』は、その名の通り「クール・ジャズ」の誕生を象徴するアルバムであり、マイルス・デイヴィスが1949年から1950年にかけて録音したセッションのコンピレーション盤として1957年にリリースされました。このアルバムは、当時のビバップの激しいスタイルとは異なり、より洗練され抑制されたサウンドが特徴で、後のジャズの潮流に大きな影響を与えました。

代表曲としては、「Jeru」、「Move」、「Boplicity」などが挙げられます。これらは、ギル・エヴァンスやレニー・トリスターノらと共に編成された非公式の10人編成ビッグバンドによる録音で、木管楽器の多用やアンサンブルの精緻さが特徴です。オリジナルのアメリカ盤はブルーノートやプレスターといったレーベルからではなく、キャピトル・レコードでのリリースが特に評価されています。

  • Jeru: 軽快なリズムとホーンのハーモニーが魅力。意外にシンプルながら洗練された旋律が特徴。
  • Move: トランペットを中心としたエネルギッシュな演奏が印象的。
  • Boplicity: ユニークなハーモニーが随所に散りばめられ、ジャズの可能性を拡げた。

レコードとしては、初回プレスは希少価値が高く、状態の良いものはコレクターズアイテムとなっています。ジャケットのクールなデザインも当時のジャズアルバムの中で異彩を放っています。

2. 『Kind of Blue』(1959年)

マイルス・デイヴィスの代表作であり、ジャズ史上最も影響力のあるアルバムとされるのが『Kind of Blue』です。コロンビア・レコードからリリースされ、今なお多くのジャズファンや音楽愛好家に愛聴されています。特にモード・ジャズの金字塔とされ、その革新性はレコードリスナーの間でも熱く語られています。

このアルバムには、ジョン・コルトレーン(テナーサックス)、キャノンボール・アダレイ(アルトサックス)、ビル・エヴァンス(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、ジミー・コブ(ドラム)という超一流メンバーが参加しています。マイルスのトランペットはこのアルバムでの演奏で、余計な装飾を排除したシンプルなフレーズが逆に深い感動を呼び起こします。

  • So What:アルバムの冒頭曲であり、代表的なモード・ジャズの例。AABA形式だが、スケールベースの即興演奏が主体。
  • Freddie Freeloader:ブルースの要素を取り入れた明快なナンバー。ピアノはワッツ・ギャレットでなくビル・エヴァンスが担当。
  • Blue in Green:ビル・エヴァンス作曲との説もあるこの抒情的なバラードはレコード史上屈指の名曲。
  • All Blues:6/8拍子のブルースで、シンプルながら深みのある演奏が特徴。
  • Flamenco Sketches:リズムパターンを最小限に抑え、旋律と即興を織り交ぜるモーダルジャズの代表作。

オリジナルのアナログLPは、コロンビア・レコードの33C 149というカタログ番号でリリースされ、初期プレス盤は特に高値で取引されています。レコードとしての重量感ある音質と、マスターテープに近い音源が楽しめるため、コレクターにとってはマストなアイテムです。

3. 『Miles Ahead』(1957年)

『Miles Ahead』は、ギル・エヴァンスとの最初の大規模な協働作品として知られています。1957年にリリースされたこのアルバムは、オーケストレーションとジャズトランペットの融合を目指す意欲作で、マイルス・デイヴィスの音楽的幅の広さを示す作品です。

レコードとしては、コロンビア・CL 1026などでリリースされ、その独特のジャケットデザインも目を引きます。立派なビッグバンド編成に近いアンサンブルと、マイルスのトランペットを中心としたメロディーの絡みが特徴です。録音当時のアナログ機材特有の暖かみのある音質がレコード盤から良く伝わってきます。

  • Springsville:バップのテンポ感とオーケストラの壮大さの融合。
  • New Rhumba:ラテンリズムを取り入れたポップな曲調。
  • Moon Dreams:アンビエントな雰囲気で情緒的な名曲。

このアルバムは、マイルス・デイヴィスとギル・エヴァンスの後の名作『Porgy and Bess』『Sketches of Spain』への序章とも言える重要作です。

4. 『Miles Smiles』(1967年)

1960年代後半のマイルス・デイヴィスは、メンバーを一新し新たなサウンドを追求していました。『Miles Smiles』は、その第一期「セカンド・クインテット」として知られるメンバー、ウェイン・ショーター(サックス)、ハービー・ハンコック(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、トニー・ウィリアムス(ドラム)とともに制作されました。1967年にワーナーに属する当時のレーベル(当初はブルーノートからリリースされる事もあった)を通じて録音され、革新的なリズム感やフリーかつ構造的な即興演奏の可能性を示しました。

  • Footprints:ミステリアスなマイナーブルースで、メロディックな反復とハードバップの融合。
  • Orbits:複雑なハーモニーの中に透明感のある旋律が息づく。
  • Freedom Jazz Dance:オリジナルはエディ・ハリス作。レコードのドラム録音の迫力が映える。

オリジナルのアナログLPは、CTIレーベルからリリースされ、ジャズファンの間で高く評価されています。特にオリジナル盤のサウンドは、当時の革新的なジャズを生々しく体験できる貴重なものです。

5. 『Bitches Brew』(1970年)

このアルバムは、ジャズとロックを融合させたフュージョンジャズの旗手として、マイルス・デイヴィスの音楽史上もっとも革新的かつ商業的に成功した作品とされます。1970年にコロンビア・レコードからリリースされ、当時のレコード業界に大きなインパクトを与えました。

マイルスの実験的なサウンドと当時若手だったジョー・ザヴィヌル(キーボード)、ウェイン・ショーター、チック・コリア、ジョン・マクラフリン(ギター)、ジャック・ディジョネット(ドラムス)、ハービー・ハンコック(エレピ)らの参加によって、従来のジャズの形式を超えた音楽性が展開されました。

  • Pharaoh's Dance:長尺曲で、多層的なリズムとハーモニーが交錯。
  • Bitches Brew:タイトル曲で、混沌としたグルーヴと電子楽器の絡みが特徴。
  • John McLaughlin:ギターのテクニックとサウンドに焦点があたる。

レコードとしては重量盤仕様の初回盤(コロンビアPC 7238/7239)が有名で、音質やジャケットデザインもアート的評価が高いです。これによりジャズはより広範な層に聴かれるようになり、マイルスの音楽は新たな時代の象徴となりました。

おわりに

マイルス・デイヴィスは、その音楽的探求心と先駆的な精神によって、ジャズの歴史に計り知れない影響を与えました。彼のレコードは単なる音源の集合ではなく、時代の息吹や技術の進歩、そして彼自身の精神的成長の記録でもあります。今回紹介した『Birth of the Cool』『Kind of Blue』『Miles Ahead』『Miles Smiles』『Bitches Brew』といった名盤は、アナログ・レコードのフォーマットで聴くことで、より一層その深さと迫力を体感できます。

コレクターであれば、初期プレスのオリジナル盤を探し、その音質とジャケットの細部にまでこだわった再現性を楽しむことをおすすめします。マイルス・デイヴィスのレコードは、ただの音楽を超え、歴史を味わうタイムカプセルとも言えるのです。