ジャズベース革命児スコット・ラファロの代表名盤とアナログレコード聴きどころ完全ガイド
スコット・ラファロという存在
スコット・ラファロ(Scott LaFaro、本名 Rocco Scott LaFaro/1936年4月3日生〜1961年7月6日没)は、モダンジャズ史の中でも「ジャズベースの役割を作り替えた人物」として語られる伝説的ベーシストです。ニュージャージー州ニューアークに生まれ、ニューヨーク州ジュネーヴァで育った彼は、活動期間わずか6年ほどでありながら、ビル・エヴァンス・トリオやオーネット・コールマンらとの共演を通じて、ベースのあり方を根本から変えました。ウィキペディア
ラファロの最大の功績は、ベースラインを単なる「リズムとコード感を支える土台」から解放し、ピアノやサックスと対等に渡り合う“カウンター・メロディ”の担い手に押し上げたことです。高音域を自在に駆け回るフレーズ、コード・トーンから果敢にはみ出すスケールの選択、時に拍感さえ揺さぶるリズムの自由さ——これらは当時としては極めて革新的であり、その後のジャズベースのスタンダードとなっていきました。ウィキペディア+2All About Jazz+2
特にビル・エヴァンス(p)、ポール・モチアン(ds)と組んだトリオは、「ピアノが主役、ベースとドラムは伴奏」という従来の枠組みを壊し、三者が対等に即興しながら音楽を組み立てていくスタイルを確立します。このトリオの録音は、今なお“ピアノトリオの理想形”として研究され続けています。ウィキペディア+1
生涯とキャリアの軌跡
吹奏楽器からベースへ
ラファロはもともとベース専攻ではありませんでした。子どもの頃はピアノを習い、やがてベースクラリネットやテナーサックスを演奏するようになります。本格的にコントラバスに触れたのは18歳になってからで、音楽教育専攻には弦楽器の習得が必須だったため、イサカ・カレッジでダブルベースを始めたと言われています。ところが、ほんの数か月で大学を離れ、実地のジャズシーンで腕を磨く道を選びました。ウィキペディア
ウエストコーストでの修業時代
1950年代半ば、ラファロはトロンボーン奏者バディ・モロー楽団でプロ活動を開始し、その後ロサンゼルスに拠点を移して本格的にジャズ・ベーシストとしてのキャリアを積みます。ここで彼は、チェット・ベイカー、ヴィクター・フェルドマン、カル・ジェイダー、スタン・ケントンなど、西海岸を代表するプレイヤーたちと共演し、鋭いタイム感と高音域を駆使した革新的なプレイで頭角を現しました。All About Jazz+1
この時期の演奏の一部は、日本盤『Deep In A Dream: Scott LaFaro Live in 1958』や、コンピレーション『’58 Jazz Sessions – Live & Rare』などにまとめられています。ヴィクター・フェルドマン(p)、スタン・リーヴィー(ds)、フランク・ロソリーノ(tb)らと共演したこれらの音源を聴くと、ラファロがすでに20代前半で尋常ではないテクニックとアイデアを獲得していたことがよくわかります。極楽ジャズ+2jazzdisco.org+2
ビル・エヴァンス・トリオと革命的トリオ・サウンド
1959年、ラファロはビル・エヴァンス・トリオに加入します。ドラマーのポール・モチアンとともに作り上げたこのトリオは、ジャズピアノトリオの構造そのものを塗り替えました。ピアノがコードを敷き、ベースが四分音符でウォーキングし、ドラムがそれを支える——そんな伝統的な役割分担をやめ、3人それぞれがメロディとリズムの主張をぶつけ合う、極めてインタラクティブな音楽を提示したのです。ウィキペディア+1
エヴァンスはラファロのことを「ジャズで最も重要な才能のひとり」と評し、レイ・ブラウンも「彼の死はベースという楽器を10年後退させた」と語ったと伝えられています。短い活動期間にもかかわらず、ラファロの存在感がいかに突出していたかが、このコメントからも伝わります。ウィキペディア+1
1961年6月、ビル・エヴァンス・トリオはニューヨークのジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」で2週間の公演を行い、最終日のステージがあの歴史的ライブ録音として残されます。しかし、そのわずか10日後の7月6日、ラファロは自動車事故により25歳で急逝。エヴァンスはしばらく演奏活動を休止するほど深いショックを受けたと記録されています。ウィキペディア
スコット・ラファロのベーススタイル徹底解説
カウンター・メロディとしてのベース
ラファロの最大の特徴は、ベースを「第2のメロディ楽器」として扱ったことです。従来のようにコードトーン中心に四分音符で歩くのではなく、しばしば上声部に飛び出し、ピアノと会話するようにフレーズを紡ぎます。
例えばビル・エヴァンス・トリオの演奏では、ピアノがテーマを弾いている最中にも、ラファロのベースラインは独立した歌心を持った線として輪郭を持ちます。単純なルート音ではなく、テンションやパッシングノートを多用し、リズムもシンコペーションやポリリズムを交えながら自由に動くため、ベースパートだけ追いかけて聴いても一つの即興ソロのように楽しめます。ウィキペディア+1
高音域の積極的な活用と和音的アプローチ
ラファロは、当時としては珍しくベースの高音域を積極的に使用し、二重音(ダブルストップ)やコード的な押さえを取り入れました。これにより、ただ低音を支えるだけでなく、ピアノの響きに対して別の色彩をつける“和声の追加レイヤー”として機能しています。
また、左手のポジション移動と右手のタッチコントロールが非常に滑らかで、音の立ち上がりが速くサステインも長いため、フレーズが「ベースらしからぬ滑舌の良さ」で聞こえるのも特徴です。
リズムの“時間軸”を揺り動かす感覚
トリオの中で明確に拍を刻むことをあえて手放し、スラーやポリリズムを多用して「リズムの揺れ」を作り出すのもラファロらしさです。これにより、ビル・エヴァンスの繊細なルバートと、ポール・モチアンの空間の多いドラミングが有機的に絡み合い、音楽全体が浮遊感と緊張感を併せ持つ独特のグルーヴを生み出しています。
名盤で辿るスコット・ラファロ——レコードで聴くべき作品
ここからは、ラファロの魅力が最もよく伝わるレコードを、「ビル・エヴァンス・トリオ作品」と「ラファロ名義・関連盤」に分けて紹介しつつ、アナログで聴く際のポイントも押さえていきます。
1. Bill Evans Trio – Portrait in Jazz(Riverside, 1960)
ラファロ加入後のビル・エヴァンス・トリオのスタジオ録音としては最初期に位置づけられる重要作。ここではまだ後年のヴィレッジ・ヴァンガードほど自由度は高くないものの、すでに三者対等のインタープレイの萌芽がはっきりと感じられます。ウィキペディア+1
アナログでの聴きどころ
「Witchcraft」「Autumn Leaves」などで、ラファロのウォーキングラインがどれだけ多彩な音程とリズムで構成されているかに注目してみてください。
ピアノのハーモニーに対して、ベースがわずかに「ずれた場所」を歩くことで、サウンドに立体感が生まれているのがよくわかります。
オリジナル盤は高価ですが、Riverside系のリイシューや国内盤でも、十分にラファロのクリアなベーストーンを楽しめます。
2. Bill Evans Trio – Explorations(Riverside, 1961)
『Portrait in Jazz』からさらに進化し、トリオのコンセプトが明確になったスタジオ盤。エヴァンスの内省的なハーモニーと、ラファロの開放的なベースラインが絶妙なコントラストを生み出しています。ウィキペディア+1
注目トラック
「Nardis」
長大なフォームの中で、ラファロがモーダルな発想を取り入れつつ、テーマの雰囲気を損なわないフレージングを展開します。「Elsa」「Israel」
バラードや中庸テンポの曲においても、ベースが常に静かなメロディ楽器として機能しているのが分かります。
レコードでのポイント
ピアノとベースの音量バランスが繊細なアルバムなので、カートリッジや針圧のセッティングを詰めると、低域がだぶつかずにラファロの細かなニュアンスまで聞き取れるようになります。
3. Bill Evans Trio – Sunday at the Village Vanguard(Riverside, 1961)
ラファロの名前を語るうえで外せない、ジャズ史上屈指のライブ盤。1961年6月25日、ニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガード最終日のステージから選曲されたアルバムで、ラファロのベースはまさに主役級の存在感を放ちます。ウィキペディア+1
注目トラック
「Gloria’s Step」
ラファロ作曲の代表曲。テーマからしてベースラインとメロディが密接に絡み合っており、「ベースが曲をリードする」とはどういうことかを体現した一曲です。「My Man’s Gone Now」
ダークなハーモニーの中で、ベースが陰影をつけるように動き、エヴァンスのソロを押し上げていきます。
アナログでの聴きどころ
ライブ録音特有の空気感、客席のざわめき、グラスの音なども含めて、ラファロのベースが空間の中でどの位置にいるかを意識して聴いてみましょう。
良質なプレスほど、ベースのサステインと倍音が豊かに再現され、「張り詰めているのにどこか暖かい」独特のサウンドが立ち上がります。
オリジナルRiverside盤はコレクターズアイテムですが、重量盤リイシューや日本盤の再発も評価が高く、実用的にはこちらがおすすめです。
4. Bill Evans Trio – Waltz for Debby(Riverside, rec. 1961 / rel. 1962)
『Sunday at the Village Vanguard』と同じ日に録音された音源から編集された姉妹盤。こちらはよりリリカルで柔らかな選曲が多く、ラファロの“歌うベース”が存分に味わえます。ウィキペディア+1
注目トラック
「Waltz for Debby」
ピアノの繊細なワルツに対して、ラファロが高音域を使ったメロディックなベースラインで応答します。ベースがしばしば“第2の旋律”として前面に出てくるため、ヘッドフォンよりもスピーカー再生で空間ごと味わうのがおすすめです。「My Foolish Heart」
低音をあえて控えめにしつつ、音符の間の“間”や、弓ではなく指だけで作る柔らかな音色が、楽曲の儚さを際立たせています。
レコードでのポイント
音量を上げすぎず、少し抑えめのレベルで再生すると、ピアノとベースのダイナミクスの差が自然に感じられます。
日本盤リイシューは全体的にクリアでSN比が良く、ラファロの細かなタッチまで鮮明に再生される傾向があります。
ラファロ名義・関連盤で深掘りする
5. Scott LaFaro – Pieces of Jade(Resonance, 2009)
『Pieces of Jade』は、長らく幻とされてきた1961年のトリオ音源や、ビル・エヴァンスとのリハーサルテープなどをまとめたポストヒューマス(死後編集)アルバムです。ピアノはドン・フリードマン、ドラムはピート・ラロカという編成で、ラファロのベースがスタジオ空間の中でどう鳴っていたかをより生々しく確認できます。ウィキペディア+1
収録内容のポイント
1961年録音のトリオ曲では、エヴァンス・トリオとはまた違う、やや攻めたモーダル感の中でラファロが自由奔放にソロを展開しています。
ビル・エヴァンスとの「My Foolish Heart」リハーサル音源では、スタジオで試行錯誤する過程がそのまま記録されており、楽曲の解釈が形になる前の“素顔のやりとり”を垣間見ることができます。
レコード/CDでの聴きどころ
元は日本盤『Memories for Scotty』として一部が世に出ていた音源で、その後Resonanceによる丁寧なリマスタリングを経て再編集された経緯があります。ウィキペディア+2Discogs+2
ベースの生々しい“木の鳴り”や、ピチカートの立ち上がりをチェックするのに最適なアルバムで、オーディオ的な楽しみも大きい1枚です。
6. Deep In A Dream: Scott LaFaro Live in 1958(SSJ, 2012)
日本のレーベルSSJからリリースされたライブ編集盤で、1958年のウエストコースト時代のラファロのプレイをまとめた重要な資料的アルバムです。ヴィクター・フェルドマン(p)、スタン・リーヴィー(ds)、リッチー・カミューカ(ts)、フランク・ロソリーノ(tb)、カル・ジェイダー(vib)、ルース・プライス(vo)といった精鋭たちと共演しており、ラファロがまだ“エヴァンス以前”の段階でどれほど完成されたプレイヤーだったかが分かります。極楽ジャズ+2jazzdisco.org+2
アナログ/CDでのポイント
TV番組「Stars of Jazz」やクラブでのライブ音源が含まれ、音質は一様ではないものの、どのトラックからもラファロ特有の速いランニングフレーズと、高音域の鮮烈なアタックが聴き取れます。
特にアップテンポのナンバーでは、まだ20代前半とは思えないほどの安定感と大胆さを兼ね備えたソロが連続し、「なぜ彼が短期間でトッププレイヤーとして引っ張りだこになったのか」が理解できます。
レコードでスコット・ラファロを聴くときのポイント
1. プレスと盤質にこだわる
ラファロのベースは、高音域の細かなニュアンスと、低音の立ち上がりが命です。スクラッチノイズや盤の歪みが多いと、その繊細さがマスクされてしまいます。
できれば盤面のスレが少ないEX以上のコンディションを狙う
国や時期によるプレス違い(USオリジナル/日本盤/重量盤リイシューなど)で、ベースの出方が変わることも多いので、聴き比べる楽しみもあります
2. カートリッジとセッティング
弾力的な低域とスピード感を重視するなら、MCカートリッジ系が有利な場合も多いですが、MMカートリッジの素直な音色でラファロの“木の響き”を味わうのもおすすめです。
針圧を適正より少し軽めにすると、高域の抜けが良くなり、ベースのアタックがくっきり聴こえやすくなります。ただし、行き過ぎると針飛びや歪みの原因になるので注意が必要です。
3. ベースだけを追いかけて聴いてみる
ラファロを理解する近道は、「一度ピアノを無視してベースだけを追いかけて聴いてみること」です。
「今、ラファロはコードのどの音を使っているのか」
「どこで拍の表と裏をずらしているのか」
「ピアノと同じようなラインをなぞっているのか、それとも対立するメロディをぶつけているのか」
といった観点で聴くと、1枚のアルバムでもまるで別の作品であるかのような発見があります。
4. デジタルとの聴き比べ
ハイレゾ音源やCDリマスターと、アナログレコードを聴き比べるのも面白いポイントです。
デジタル:分解能が高く、一音一音がクリアに分離して聴こえる
アナログ:帯域の端がわずかに丸まり、その分“空気感”や“奥行き”が強調される
という傾向があり、ラファロの場合、アナログではベースがやや太く温かく感じられることが多いです。どちらが“正しい”というより、音楽のどの側面を楽しみたいかで選ぶと良いでしょう。
まとめ:スコット・ラファロをレコードで聴く意味
スコット・ラファロは、わずか25年の生涯と短いキャリアにもかかわらず、ジャズベースの歴史を決定的に変えた存在です。
ベースを“伴奏楽器”から“メロディとリズムの共演者”へと引き上げた革新的なスタイル
ビル・エヴァンス・トリオにおける三者対等のインタープレイ
『Sunday at the Village Vanguard』『Waltz for Debby』『Explorations』『Portrait in Jazz』、そして『Pieces of Jade』『Deep In A Dream』といった名盤群
これらをレコードでじっくり味わうことは、単に名演を楽しむだけでなく、“ジャズという音楽がどのように進化してきたか”を体感することでもあります。
針を落とし、盤の回転音とともに立ち上がってくるラファロのベースに耳を澄ませると、60年以上前の録音でありながら、今もなお瑞々しい驚きと発見に満ちていることに気づくはずです。ジャズベースファンはもちろん、ピアノトリオ好き、レコードコレクターにとっても、スコット・ラファロの作品群はぜひ手元に置いておきたい“必携の宝物”と言えるでしょう。
参考文献
エバープレイの中古レコード通販ショップ
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