Deep Purple名盤をレコードで聴く魅力とコレクター必見のポイント完全ガイド

1. はじめに:レコードで聴くべきバンド、Deep Purple

Deep Purple(ディープ・パープル)は1968年に英国で結成され、ハードロック/ヘヴィメタルの先駆としてロック史に巨大な足跡を残したバンドだ。リッチー・ブラックモア(G)、ジョン・ロード(Key)、イアン・ペイス(Dr)という核を中心に、時代ごとにメンバーを入れ替えながらも、重厚なギター・リフ咆哮するハモンド・オルガン高速かつ緻密なドラム、そしてシャウトと叙情を使い分ける強靭なボーカルを武器に、数多くの金字塔を打ち立てた。とりわけ1970年代の“レコード時代”に刻まれた作品群は、作品本来のダイナミクスと演奏の熱量を最も生々しく伝えるアナログLPと相性が抜群で、今なお一級のリスニング体験を提供してくれる。

本稿は、レコード(アナログLP)というフォーマットに焦点を当て、Deep Purple の名盤を「音」「ジャケット」「プレス/レーベル」の観点から丁寧に解説する。Mark(マーク)体制の変遷や、コレクターが押さえておくべき初版プレスの特徴再発の選び方までを整理し、これから紫の深淵に歩み入る人にも、すでに愛蔵盤をお持ちの方にも役立つ内容を目指した。


2. 体制変遷の要点:Mark I から Mark III へ

  • Mark I(1968–69):Rod Evans(Vo)、Nick Simper(B)を含む初期編成。『Shades of Deep Purple』(1968)などを発表。

  • Mark II(1969–73)Ian Gillan(Vo)、**Roger Glover(B)**が加入し“黄金期”と呼ばれる。『In Rock』(1970)、『Fireball』(1971)、『Machine Head』(1972)、『Made in Japan/Live in Japan』(1972)など決定打が並ぶ。

  • Mark III(1973–75)David Coverdale(Vo)、**Glenn Hughes(B/Vo)**を迎えブルージーかつファンキーな色合いを獲得。『Burn』(1974)、『Stormbringer』(1974)を残す。
    (※以後の Mark IV 以降や80年代再結成も重要だが、本稿は“レコード時代の輝き”に主眼を置き、70年代中心に解説する。)


3. 名盤ガイド:レコードで味わう決定的作品

3-1. Deep Purple In Rock(1970 / UK: Harvest)

Mark II の狼煙。ハードロックの方向性を決定づけた名盤。
ジャケットはマウント・ラッシュモアを模した石像風デザインで、冒頭の「Speed King」から凄烈。10分超の「Child in Time」では、ギランの絶叫とブラックモアのトーン、ロードのハモンド、ペイスのドラミングが巨大なうねりを生む。

  • レーベル/プレス:UK オリジナルは EMI 傘下の Harvest。音の“厚み”と立体感は初期 UK 盤に分があることが多い。

  • アナログ的聴き所:ハモンドの倍音とドライブ感はアナログでこそ艶を帯び、ギターとオルガンが絡む中域の押し出しが快感。

3-2. Fireball(1971 / UK: Harvest)

『In Rock』の熱量を継承しつつ、実験性と多彩さを増した一枚。タイトル曲「Fireball」の加速感、「No No No」のグルーヴ、「Fools」の構築美など、作品トーンは“硬派”だが、録音の空気はやや柔らかく、アナログの中低域が楽しい。

  • レーベル/プレス:UK Harvest。初期マトリクスの盤は帯域の伸びが良好な個体が多い印象。

  • アナログ的聴き所:ベース(グローヴァー)の低域の厚みと、シンバルの減衰の自然さ。

3-3. Machine Head(1972 / UK: Purple Records)

Deep Purple 最大の代表作。レマン湖畔モントルーでの事故(有名な“カジノ炎上”)を巡る逸話から生まれた「Smoke on the Water」、疾走する「Highway Star」、重いグルーヴの「Space Truckin’」…一曲ごとの完成度が桁違い。

  • レーベル/プレス:UK オリジナルは Purple Records180g級の重量盤ではなく当時標準的な重量感。初期 UK 盤は中低域の押し出しが良く、金属的質感のエンボス調スリーブ(銀光沢のある見映え)もコレクション欲をそそる。

  • アナログ的聴き所:ハモンドの“唸り”、ツインのリズム隊が作る推進力、ギターのアタック。アナログだと塊で迫る

3-4. Made in Japan(1972 / UK: Purple Records / 2LP)

ロック史屈指のライブ名盤。 日本公演(大阪・東京)を収録。**2枚組(4面)**で、各面に長尺演奏を堂々と配した編集が痛快だ。ジョン・ロードのハモンド、ブラックモアの狂気すれすれのアドリブ、ペイスの切れ味、ギランのシャウト。会場の反応までもが音像に焼き付く。

  • レーベル/プレス:UK は Purple Records。日本では**『Live in Japan』**として先行発売された固有の来日盤も重要(帯・付属完備ならコレクション価値大)。

  • アナログ的聴き所観客の空気やホールの残響がアナログでこそ自然。ハモンドのローが床を這うように立ち上がる。

  • 注意:Deep Purple の鍵盤はハモンド・オルガンが軸。メロトロンではない(しばしば混同されるが誤り)。

3-5. Who Do We Think We Are(1973 / UK: Purple Records)

ギラン/グローヴァー在籍期の最後。バンドは内情不和で揺れるが、「Woman from Tokyo」など粒のそろった楽曲も多い。録音の質感はやや乾いた中域で、カッティングの差が再生印象を左右しやすい。

  • レーベル/プレス:UK Purple。米・独など各国盤のキャラクター差が大きく、聴き比べ向き

  • アナログ的聴き所:ギターのエッジ、オルガンの抜け。帯域バランスの違いが出やすいので盤選びが楽しい。

3-6. Burn(1974 / UK: Purple Records / Mark III)

Mark III の名刺代わり。 デヴィッド・カヴァーデイル(Vo)とグレン・ヒューズ(B/Vo)加入で、ブルーズ/ソウル/ファンクの色合いが加わる。タイトル曲「Burn」はギターとオルガンのユニゾンから一気に畳みかける名演で、A面を一撃で支配する。

  • レーベル/プレス:UK Purple。“トッテンハムのプレス工場”という説明は不正確で、実際の初期 UK プレスは EMI Hayes(Middlesex)系など。UK 初版はキレと腰のバランスが良く人気。

  • アナログ的聴き所:中低域の粘りと、ボーカルの押し出し。デュアル・ボーカルの厚みがアナログで映える。

3-7. Stormbringer(1974 / UK: Purple Records / Mark III)

ファンク/ソウル色がさらに前面に出た意欲作。ハード一辺倒ではない多彩さは、カヴァーデイル~ホワイトスネイク路線の萌芽とも重なる。アナログでは乾いたスネアぱりっとしたギターのカッティングが生々しい。

  • レーベル/プレス:UK Purple。独盤・米盤も良個体が多く、国別の音像差を楽しみやすい一枚。


4. レコードで聴く意義:アナログが描く「音の温度」と「空気」

Deep Purple の録音は、スタジオでもステージでも“熱”を含んでいる。アナログ再生はこの熱の質感を損なわず、倍音の重なりを立体物のように再現する。特に以下はアナログ優位の聴き所だ。

  • ハモンド・オルガンの倍音:Jon Lord のドライブは、アナログで厚く、温かく、そして圧がある。

  • ギターのアタックと減衰:ピックの立ち上がり、ビブラートの尾を自然に描写。

  • ベースとバスドラムの分離:低域の質量を保ちつつ、リズム解像が得られる。

  • 会場の空気感(ライブ盤):反響、歓声、残響が自然。音の“塊”が前に出る。


5. コレクター向け:プレス/ラベルの基礎知識と選び方

5-1. レーベルの要点(UKオリジナル基準)

  • 『In Rock』『Fireball』:Harvest(EMI傘下)

  • 『Machine Head』以降:Purple Records(自社レーベル)

5-2. “重量盤”の誤解

1970年代当時の UK オリジナルは現代の180g級ではない。厚み・重量は当時の標準。音の良さは重量そのものではなく、カッティング/スタンパー/盤質の総合要因で決まる。

5-3. 盤質・付属品

  • 盤面:キズ/反り/スレ/ノイズ

  • ジャケット:抜け・角潰れ・日焼け

  • 付属品:インナー、ポスター、ブックレット、日本盤なら帯
    付属完備・保存良好は価値が跳ね上がる。

5-4. 国別のキャラクター

  • UK 盤:中低域の押し出しと立体感に優れる個体が多い。

  • 独盤:レンジ広く解像度高い傾向。

  • 米盤:タイトで前に出る音像の個体が目立つ。

  • 日本盤:静寂性が高くクリア。帯・解説・歌詞カードで資料性も抜群。

5-5. 再発・リマスターの楽しみ

オリジナルの熱感に対し、良質再発はノイズフロアが低くS/Nに優れる
一方で、EQやコンプの違いにより“熱の出方”が変わる場合がある。
理想は「初版系」と「良質再発」の両取り。聴き比べはコレクションの醍醐味だ。


6. 主要アルバムの「針を落とすべき一曲」

  • 『In Rock』「Child in Time」—静と爆発の振れ幅、ギランの絶唱とハモンドの重層。

  • 『Fireball』「Fireball」—イントロの加速と低域の押し。アナログでこそ痛快。

  • 『Machine Head』「Highway Star」—疾走のグルーヴ。ハモンドとギターのユニゾンが塊で迫る。

  • 『Made in Japan』「The Mule(Drum Solo含む)」—会場の空気とペイスの推進力を体感。

  • 『Burn』「Burn」—Mark III の新潮流を示す決定的チューン。

  • 『Stormbringer』「Soldier of Fortune」—カヴァーデイルの“渋さ”と空気の静まり方。


7. まとめ:紫の熱はレコードの溝に生きている

Deep Purple の名盤は、レコードの溝にこそ本来の熱と厚みを残している。スタジオではハモンドのうねりとギターの咆哮が絡み合い、ステージでは観客の息づかいまでが音像に焼き付く。オリジナル UK 盤の“押し”、独盤の“レンジ”、日本盤の“静寂”――盤によって“紫”の見え方は変わるが、いずれも音楽的歓喜に満ちている。

これから集めるなら、まずは
『In Rock』『Machine Head』『Made in Japan』『Burn』 の4作を軸に、『Fireball』『Stormbringer』へ広げるのが王道。
初版系を追う楽しみもあれば、良質な再発で“ノイズの少ない迫力”を選ぶ道もある。正解は一つではない。レコードはあなたの装置と部屋で完成する
からだ。

針を落とした瞬間に立ち上がる、あの空気の圧
Deep Purple の輝きは、今日もアナログの回転の中で新しくなる。