トム・ジョビン(アントニオ・カルロス・ジョビン)名盤LP完全ガイド|名盤一覧・オリジナル盤の見分け方・保存と高音質再生法
序論 — トム・ジョビン(アントニオ・カルロス・ジョビン)の名盤とレコード文化
アントニオ・カルロス・ジョビン(Tom Jobim)はボサノヴァを世界に広めた作曲家/ピアニスト/編曲家として知られ、その作品群はジャズやポップスのスタンダードになっています。CDや配信で聴くことが簡単になった現代でも、ジョビンの音楽はアナログ・レコードで聴くと独特の温度感や空気感が得られ、オリジナルのLPはコレクターズアイテムとして高い価値を持ちます。本稿では、特にレコード(アナログLP)に注目して、代表的な「名盤」を選び、音楽的特徴、レコード盤としての魅力、プレス/エディションの見分け方や保存・再生の実践的アドバイスまで深掘りします。
The Composer of Desafinado, Plays(1963) — ジョビンの米国ソロ・デビュー盤
「The Composer of Desafinado, Plays」(邦題は「デサフィナードの作曲家」等)は1963年に発表されたジョビンの早期の米国ソロ作品で、ボサノヴァ曲の作曲家としての側面を前面に出したアルバムです。曲集としてのまとまりがあり、ジョビン自作の名曲群を自らのピアノ/アレンジで聴かせます。
- 音楽面:ややシンプルで室内楽的な編成のため、録音の空気感や楽器の距離感が明瞭に出ます。ボサノヴァ特有のリズムとジョビンのメロディー構成がよく伝わる作り。
- レコードとしての特徴:初期プレスは米国のVerveやブラジルのPhilipsなどで流通。ブラジル初版(Philips)が音色的に柔らかく、米盤はやや直線的なサウンドという傾向がコレクターの間で言われます。
- 入手・保存のコツ:オリジナル盤はジャケット経年でのヤケや角潰れが多いので、ジャケットのコンディションとマトリックス・ナンバー(runout刻印)を確認すること。音質重視なら国内や欧州の初期良好プレスを探すのが良いでしょう。
Getz/Gilberto(1964) — 世界を変えたセッション(ジョビンの作・演奏の影響)
「Getz/Gilberto」はスタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトをフィーチャーしたアルバムで、アストラッド・ジルベルトの歌う「The Girl from Ipanema(イパネマの娘)」が世界的なヒットとなり、ジョビンの作曲家としての名声を決定づけました。厳密にはジョビンのリーダー作ではありませんが、作曲・ピアノ演奏・アレンジ面での貢献は大きく、ボサノヴァ名盤として必ず名が上がります。
- 音楽面:ジャズとボサノヴァの結節点とも言えるサウンド。ゲッツのサックスの柔らかさ、ジルベルト夫妻の独特の間(ま)とジョビンの和声が融合しています。
- レコードの魅力:1964年の米盤Verve初期プレスや欧州初版はコレクターズマーケットで高値が付くことが多い。ジャケットの左下表記やレーベルデザイン、マトリクス刻印でプレスを判別します。
- 注意点:シングルカット(45回転)やモノ/ステレオ盤の違いで音像が大きく変わるため、購入時はモノラルかステレオか明記されているかをチェックしましょう。
Francis Albert Sinatra & Antonio Carlos Jobim(1967) — 異文化の洗練された出会い
シナトラとジョビンの共演盤は、アメリカのポップス/ジャズ・リスナーにボサノヴァを馴染ませた重要作です。ジョビンの繊細なハーモニーとシナトラの歌が混ざり合い、アレンジの美しさ、録音の立体感ともにレコードで聴くとより豊かに感じられます。
- 音楽面:ジョビンのメロディーが英語圏の歌唱スタイルと交わることで、新たな歌世界が生まれています。アレンジの細部、ブラスやストリングスの入る瞬間がLPのアナログ再生では生々しく再現されます。
- ヴィンテージLPの見どころ:1967年Reprise盤の初期プレスはジャケットの印刷やライナーの表記に差があり、良好な初版を見つけると価値があります。日本盤(Repriseの国内盤やCBSソニー盤)も音圧やマスタリングが良いことがあるため人気です。
Wave(1967) — ジョビンの代表作、メロディと質感の融合
「Wave」はジョビンの代表的なインスト/ヴォーカル混合アルバムで、タイトル曲「Wave」はシンプルな構造ながら奥行きのある和声進行が魅力です。多くのミュージシャンにカバーされる名曲を含み、アナログでの再生はギターの弦の響きやアコースティック楽器の倍音が豊かに聴こえます。
- 録音・プレスに関する注目点:米国盤、欧州盤、ブラジル盤(Philips/Odeon)でジャケット、インナースリーヴ、マトリックスが異なります。特にブラジル・オリジナルは現地発売のため流通量が少なく、状態の良いオリジナルはやや希少です。
- おすすめ盤選び:リマスターの再発盤もありますが、オリジナル・プレスの空気感を重視するなら初期のアナログ・プレスを狙うのが良いでしょう。盤面のキズやノイズ、ジャケットの保存状態を必ず確認してください。
Stone Flower(1970) — モダンでエレクトリックな側面
1970年発表の「Stone Flower」は、よりジャズ/ファンク的、エレクトリックな色彩が加わったアルバムで、編曲/プロデュース面でも先鋭的なサウンドを聴かせます。レコードとしては録音レンジが広く、低域/中域の表現が豊かなため、良いプリアンプ/スピーカーで鳴らすと一枚のレコードとしての満足感が高い作品です。
- レーベルとプレス:この期にジョビンはCTIなどと関係を持っており、米国プレスの音作りはジャズ・ファンに好まれるダイナミックレンジがあります。ブラジル盤/米盤でマスタリングの差が出るのでチェック推奨。
- コレクション上の注意:オリジナル・プレスは盤質の良否で音が大きく変わるため、センターのワープや軽いスクラッチでも再生音が損なわれることがあります。
Urubu(1976)などの後期作 — 実験性と成熟
1970年代後半の作品群は、ジャズ的な探究やオーケストレーションの発展が見られ、LPで聴くことでその編曲の密度やリバーブ空間が実感できます。初期のボサノヴァ・イメージとは異なる側面も多く、アナログ再生での「空間表現」を楽しむのが良いでしょう。
レコードを選ぶときの実践的アドバイス
- オリジナル盤の見分け方:ジャケット印刷のロゴ、バーコードの有無(後期)、レーベルデザイン、マトリックス(runout)刻印が重要。販売ページやショップで必ず写真を確認し、分からなければ売り手にマトリックス刻印を尋ねてください。
- どのプレスが良いか:音質の好みは人それぞれですが、ブラジルのPhilips初期盤や米Verve初期盤、そして良好な日本盤(国内初版)は高評価を受けることが多いです。再発はノイズ処理やEQ差でオリジナルとは別物になる場合があります。
- 保存と再生:アナログ盤は適切な保管(直射日光を避け、立てて保管)と針圧/アライメント調整が音質を左右します。古い盤はクリーニング(ブラシやレコード洗浄機)を施してから再生することを推奨します。
- 価格と相場:人気盤は状態次第で価格に大きな幅があります。ジャケットのVG+やNM(Near Mint)表記、盤面のプレイ状況(Surface Noiseの有無)を確認しましょう。
音楽的深掘り:ジョビンの和声・リズムの特徴とLP再生の相性
ジョビンの楽曲は独特の和声進行(複雑なテンション、モーダルな転調)とボサノヴァ特有のリズム・パターンが融合しています。アナログLPは中低域の豊かさや音の立ち上がり、残響の自然さでそうした和声の細かなニュアンスを浮かび上がらせます。特にアコースティック・ギターやコーラス、ピアノの響きを大切にしたマスタリングが施された初期プレスは、ジョビンの音楽性を身体的に感じさせてくれます。
まとめ
アントニオ・カルロス・ジョビンの「名盤」をレコードで集めることは、音楽史的価値を楽しむだけでなく、音色や空間表現というアナログ再生ならではの喜びを味わう行為です。代表作(The Composer of Desafinado, Getz/Gilberto, Sinatra & Jobim, Wave, Stone Flower など)は、それぞれ異なる制作背景と音作りを持ち、プレスごとの音色差も大きいので、購入前にレーベル/マトリックス/プレス情報を確認することを強くおすすめします。音楽の深さとレコードというメディアの魅力を両方味わってください。
参考文献
- Antônio Carlos Jobim — Wikipedia (英語)
- Getz/Gilberto — Wikipedia (英語)
- Francis Albert Sinatra & Antonio Carlos Jobim — Wikipedia (英語)
- Wave (album) — Wikipedia (英語)
- Stone Flower — Wikipedia (英語)
- Antonio Carlos Jobim — AllMusic
- Antônio Carlos Jobim — Discogs(リリース詳細の参照に有用)
- Grammy — Antônio Carlos Jobim(受賞・ノミネート情報)
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