スタン・ゲッツをアナログで聴く:Getz/Gilberto・Jazz Sambaほか名盤LPとオリジナル盤の選び方
イントロダクション — 「ザ・サウンド」を残した男、スタン・ゲッツ
Stan Getz(スタン・ゲッツ、1927–1991)は、ジャズ・テナーサックスの巨匠として知られ、その柔らかく歌うような音色は「The Sound(ザ・サウンド)」と称されました。レコード(アナログ盤)というメディアとは相性が良く、1960年代前半に起きたボサノヴァ・ブームの波に乗った一連のLPは、ジャズ史のみならずレコード蒐集の世界でも特別な地位を占めています。本稿では、特にレコード(オリジナル・プレスや名盤のアナログ音源)に焦点を当て、代表作の背景、レコードとしての聴きどころ、コレクター視点の注意点まで詳しく掘り下げます。
スタン・ゲッツの経歴とレコード史的位置づけ
スタン・ゲッツは1927年2月2日生まれ。1940年代後半にウディ・ハーマン楽団で頭角を現し、「Four Brothers(フォー・ブラザーズ)」と呼ばれるサックスセクションの一員として注目を集めました。その後ソロ活動を続け、1950年代〜60年代を通じて数多くのセッションやリーダー作を残します。1962年の「Jazz Samba」によってアメリカで本格的にボサノヴァを紹介し、1964年の「Getz/Gilberto」は世界的な大ヒットとなり、グラミー賞を受賞するなどレコード文化に大きな影響を与えました。
レコードで聴く意味 — アナログ再生が伝えるもの
ゲッツのテナーは倍音の豊かさと息づかいのニュアンスが魅力です。アナログLPはこの「微細な空気感」やダイナミクス、リズムの立ち上がりをたしかに再現します。特に1960年代のオリジナル・マスター・テープからカッティングされた初期プレスは、温度感のある中低域と自然な残響感を持ち、ゲッツの音楽表現を丸ごと体感させてくれます。デジタル化された音源とは異なる「物理的な振幅」が、彼のフレーズの余韻や微妙なピッチの揺れ(vibrato)を生々しく伝えるのです。
代表的なレコード作品とレコード事情(深掘り)
以下に、レコード愛好家にとってマストなアルバムを中心に、各作の聴きどころやレコード市場での扱いを解説します。
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Jazz Samba(1962)
スタン・ゲッツとギタリストのチャーリー・バードによる第一弾ボサノヴァ作品。アントônio・カルロス・ジョビン作やボサの基本曲をジャズ・コンボで演奏したこのLPは、アメリカ国内でボサノヴァの扉を開いた記念碑的リリースです。レコードとしては初期の米盤オリジナルは制作年(1962年)プレスが評価され、マスター・テープ由来の温かみが特徴。ブラジル盤(当時はPhilipsなど)のプレスは帯域バランスが若干異なり、コレクター間で好みが分かれます。プレイ中のクリックノイズが少ない良好な溝のコンディションを選ぶと、ゲッツの息遣いがしっかり聴こえます。
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Getz/Gilberto(1964)
ジョアン・ジルベルト、アントônio・カルロス・ジョビン(作曲・ピアノ)らを迎えたスタン・ゲッツの代表作。シングル「The Girl from Ipanema(イパネマの娘)」は世界的ヒットとなり、アルバム自体も1965年のグラミーでアルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。レコード的にはオリジナル・ステレオLP(Verve等)は現在も人気が高く、ジャケット(男性的なレイアウト、BRAZIL表記など)や帯の有無によって評価が変わります。歌入りのトラック(アストラッド・ジルベルトのボーカル)は特に高解像で録られているため、フォノカートリッジの追従性が聴感に影響します。
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Focus(1961)
Eddie Sauter のアレンジによるストリングスを大胆に用いた実験的なアルバム。ゲッツのサックスがアレンジの一部としてモチーフ的に扱われる構成で、ジャズの枠を越えた芸術性を示しました。レコードとしての魅力は、オーケストラの広がりとサックスの距離感の自然さにあります。オリジナルのプレスは比較的流通量が少なく、良好なコンディションのものはコレクター価格が付きやすいです。
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1950年代の名盤(ウディ・ハーマン期ほか)
1950年代に残したライブ盤やセッション盤(Norgran/Verve期のシングル/LP群)は、ビバップ〜クールジャズの系譜を示す重要資料です。これらもオリジナル7インチや10/12インチLPのコンディション次第で音質や価値が大きく変わります。
アナログ盤(オリジナル)を選ぶときの具体的チェックポイント
レコードとして良い体験を得るための実務的なチェック項目を挙げます。
- ジャケット:オリジナル・リリースの見返し(クレジット表記)、帯(日本盤)やライナーノーツの有無を確認。保存状態は価値に直結します。
- ラベルとプレス:初期米盤(Verveなど)/ブラジル盤(Philips等)/英国盤など、プレス国で音色が異なることが多い。ラベルのデザインで世代判定が可能な場合がある。
- 溝のコンディション:スクラッチやノイズが少ないもの。盤面の反りやWarpは再生問題に直結するため要チェック。
- ランアウト(マトリクス):刻印によってカッティング世代や再発の違いが分かることがある(専門的知識が必要)。
- 音質重視なら、同一タイトルでも日本の初期プレス(帯付き)や一部の欧州・米国オリジナルが優れることが多い。
注目の再発・オーディオ的選択肢
近年はリマスターやハイレゾ配信、再プレス(リイシュー)も多く存在しますが、アナログ原盤の魅力を求めるなら初期プレスやマスター由来のカッティングを探すのが王道です。日本での初出しLP(帯・解説が充実)や、信頼できるオーディオ・リマスターのアナログ再発は、オリジナルほどの“歴史的価値”はなくとも音質的に優れる場合もあります。購入時はマスタリング情報(Mastering EngineerやMaster Tape由来の記載)が参考になります。
保存・再生の実務アドバイス
スタン・ゲッツのレコードを長く楽しむための基本ルールです。
- クリーニング:再生前に盤面クリーニングを行う(レコード洗浄機やブラシ)。微細ノイズの低減に効果あり。
- ターンテーブル設定:トラッキングフォース、アンチスケーティング、カートリッジの適正化を行うと、ゲッツの息遣いがクリアに出ます。
- 保存環境:湿度・温度管理(直射日光・高温多湿を避ける)と垂直保管。ジャケットに防湿袋を使うなどして長期保護を。
- 取り扱い:センター穴で持ち上げず、ラベル近辺と外周を持つ。指紋や油分はノイズや酸化の原因になります。
コレクター市場と相場観
人気作のオリジナルLPは総じて高値が付く傾向があります。特にGetz/GilbertoやJazz Sambaの良好な米盤・ブラジル盤、帯付き日本初盤などはプレミアがつくことがあります。状態(VG, VG+, EX, NM等)と付属物(内袋、解説、ポスター等)で価格は変動します。購入時は信頼できるショップや出品者の写真、返品ポリシーを確認してください。
まとめ — レコードで再発見するゲッツの魅力
スタン・ゲッツはその音色とフレーズで多くのファンを魅了してきました。レコードというアナログの媒体は、彼の音楽が本来持つ「空間性」や「人間くささ」を感じさせてくれます。オリジナル・プレスの入手は容易ではありませんが、良好なプレスを手に入れて針を落とした瞬間に伝わる空気感は、デジタルでは得がたい体験です。ビギナーにはまず「Getz/Gilberto」や「Jazz Samba」を良いコンディションのLPで聴くことを勧めます。そこから「Focus」や1950年代のセッションへと深掘りしていくと、ゲッツの多様な側面が見えてきます。
参考文献
- Stan Getz — Wikipedia
- Getz/Gilberto — Wikipedia
- Stan Getz Biography — AllMusic
- Stan Getz Discography — Discogs
- Stan Getz Sessionography — Jazzdisco.org
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