バーブラ・ストライサンドの名曲・名盤徹底解説:聴きどころ・編曲・歌唱テクニック
イントロダクション — バーブラ・ストライサンドの歌を深掘りする意義
バーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand)は、ブロードウェイ、映画、ポップスを横断して活躍してきた20世紀後半を代表する歌手/女優です。卓越したテクニックと表現力、選曲眼、そして映画音楽やポップ・アレンジにおける確かなセンスにより、多くの名曲を世に残しました。本コラムでは、代表的な楽曲と名盤をピックアップして、楽曲ごとの背景・構造・歌唱表現・編曲上の聴きどころ、文化的なインパクトまでを深堀りします。
代表曲と名盤の概観
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「People」(1964)
作曲:Jule Styne、作詞:Bob Merrill。もともとはミュージカル『Funny Girl』のために書かれた楽曲で、ストライサンドの代表的なバラードとなりました。シンプルなピアノ伴奏と歌の間に生まれる間合い(間)を活かした表現が魅力です。旋律の反復とクライマックスへの積み上げが聴き手の共感を誘います。
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「Don't Rain on My Parade」(1964)
同じく『Funny Girl』関連のナンバー。強い決意を歌うアップテンポの楽曲で、ブラスやストリングスを効果的に用いた劇的な編曲が多くの聴衆を惹きつけます。ストライサンドのアタックの強さ、アグレッシブな発声が際立つ一曲です。
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「The Way We Were」(1973)
作曲:Marvin Hamlisch、作詞:Alan & Marilyn Bergman。映画『The Way We Were』の主題歌であり、感傷的なメロディと回想を誘う歌詞が特徴。イントロのピアノと間奏のストリングスが曲の哀愁を醸成します。ストライサンドの柔らかなフォルテと繊細なフェイク(装飾的なフレージング)に注目してください。
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「Evergreen (Love Theme from A Star Is Born)」(1976)
共作:Barbra Streisand & Paul Williams。映画『A Star Is Born』のラブテーマで、温度感のある持続音(サステイン)と豊かなハーモニーが美しいバラード。映画音楽の中での主題化(モチーフ化)が巧みに行われ、歌唱と演技が一体となった名演です。<注:この曲はアカデミー賞でも高く評価されました>。
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「No More Tears (Enough Is Enough)」with Donna Summer(1979)
作詞作曲:Paul Jabara、Bruce Roberts。ディスコ〜ダンス色の強い共演シングルで、ストライサンドの声域がディスコ・プロダクションに融合した例。2人の歌声のコントラスト(ストライサンドの濃密な中低域とサマーの明るいトーン)が楽曲の魅力となっています。
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「Woman in Love」およびアルバム『Guilty』(1980)
「Woman in Love」はGibb兄弟(Barry, Robin, Maurice Gibb)が関与したヒット曲で、アルバム『Guilty』はバリー・ギブのプロデュース参加が大きな話題に。ポップ/AOR的なサウンドにストライサンドの表現力が乗り、当時のポップ市場で大きな成功を収めました。スタジオでの多重コーラスやシンセの使い方と、彼女の演劇的表現が融合した好例です。
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名盤メモ
- 『The Barbra Streisand Album』(1963) — デビュー作。ジャズ/ブロードウェイ寄りの歌唱が聴けます。
- 『The Way We Were』(サウンドトラック/1973) — 映画主題歌を中心にセレクトされたアルバム。
- 『Guilty』(1980) — 商業的に非常に成功したポップ・アルバム。プロダクションが洗練されています。
- 『The Broadway Album』(1985) — ブロードウェイ・ナンバーに立ち返った作品で、歌唱の根幹を確認できる一枚。
楽曲の構造と編曲の聴きどころ
ストライサンドのレパートリーは、劇的なブロードウェイ・ナンバーから、映画主題歌、AOR的ポップス、ディスコまで幅広く、楽曲ごとに編曲のアプローチが異なります。共通するポイントは以下の通りです。
- イントロからテーマを明確に提示することで、歌が入った瞬間に聴衆に「物語」を伝える構成になっている。
- 間奏やブリッジで和声的・オーケストレーション的な色付けを行い、歌のクライマックスに向けてエネルギーを蓄える。
- アレンジは歌の「間」を生かす方向が多く、伴奏がジャストで埋め尽くさず、歌の表情を伸び伸びと出せる余白を残す。
ボーカル技術と表現—何を聴くべきか
ストライサンドの歌唱は「技術」と「物語性」が両立している点が最大の魅力です。以下の観点で聴くと、より深く楽しめます。
- 呼吸とフレージング:フレーズの始め方・終わらせ方に非常に計算があり、歌の感情をコントロールするための呼吸が巧みです。
- ダイナミクス:ピアニッシモからフォルテッシモまでの幅を自在に使い、クライマックスでの迫力は説得力があります。
- 音色の変化:胸声と頭声のブレンド、時に鋭いアタックを用いることで、台詞的な説得力を与えます。
- 語りかけるような表現:歌詞の語尾や語節の処理が演劇的で、聴き手に直接語りかける効果を生んでいます。
代表曲ごとの「聴きどころ」ガイド
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People
冒頭の静かなピアノ、2番のメロディの微妙な変化、そして最後の繰り返しに向けた盛り上げ方。息継ぎの位置と語尾の伸ばし方に注目すると歌の曖昧な心情が伝わります。
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Don't Rain on My Parade
勢いのある発声とブラス・ストリングスの掛け合い。中間のタメとため込んだエネルギーの放出が聴きどころです。
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The Way We Were
フレーズごとの呼吸の置き方、回想的なニュアンスの出し方。ピアノの伴奏とストリングスの重なりが歌の余韻を作ります。
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Evergreen
ロングトーンの美しさ、和声の優雅な移り変わり、映画的な映像感を持った歌唱が印象的です。歌詞の「永遠性」を音で表現する手法に注目してください。
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Woman in Love / Guilty
AOR的なアレンジの中で見せる柔らかな抑揚。スタジオでのコーラスワークやプロダクションの層の作り方が曲の魅力を増幅します。
ライブや映像での表現力
ストライサンドはレコーディングだけでなくステージや映画での表現力でも高く評価されます。映像では顔の表情や間(マイクとの距離感)、台詞めいたイントロの語りが加わることで、曲により強いドラマ性が付与されます。コンサート録音を聴くと、彼女が如何に聴衆との距離を作り、1曲の中で小さな物語を描くかがわかります。
文化的意義と後世への影響
ストライサンドは、ブロードウェイ出身の歌手がポップ市場、映画音楽で成功するモデルケースを作りました。シンガーとしての完成度の高さは多くのポップ/ジャズ/舞台歌手に影響を与え、楽曲自体もスタンダード・ナンバーとして幅広くカバーされています。彼女の歌唱は「技術が物語を支える」ことの好例であり、歌手教育や解釈の学習対象にもなっています。
聴き方の提案(筆者おすすめの集中ポイント)
- 歌詞の意味をまず追い、次に音楽的手法(和声・編曲・フレーズ)でその意味がどう補強されているかを追う。
- 複数バージョン(スタジオ録音・ライブ・映画音源)を比較して、表現の差異を楽しむ。
- 小さなフレーズ(語尾の伸ばし・コブシ・フェイク)に耳を澄ませると、彼女の“芝居がかった”歌い回しの妙が分かる。
まとめ
バーブラ・ストライサンドの名曲群は、楽曲の良さだけでなく、彼女の解釈力・声そのものが結びつくことで不朽の名作となっています。歌を通して物語を紡ぐ力、編曲と歌の相互作用、ステージ映像を含めたトータルな表現力──これらを踏まえて聴くと、彼女の持つ多面的な魅力がよりクリアに見えてきます。
参考文献
- Barbra Streisand 公式サイト
- Barbra Streisand - Wikipedia
- Barbra Streisand | AllMusic
- Barbra Streisand | Billboard
- Evergreen (Barbra Streisand song) - Wikipedia
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