アル・ジャロウの名曲徹底ガイド:歌唱テクニック・スキャット・アレンジから読み解く聴きどころ
はじめに — アル・ジャロウという存在
Al Jarreau(アル・ジャロウ)はジャズを基盤にしつつ、ポップ、R&B、フュージョンまで自在に横断したシンガーです。特徴はスキャットとリズミカルな語り掛けのような歌唱、声の多様な色彩を使い分ける表現力。商業的にも成功しつつ、ジャズ・ヴォーカリストとしての即興性を失わなかった点が彼の大きな魅力です。本稿では代表的な名曲を取り上げ、曲の構造、歌唱テクニック、アレンジや文化的意義を深掘りします。
アル・ジャロウの音楽的特徴(総論)
- 語感とリズムの操作:ジャロウはメロディより「語感(シラブル)」や「リズム」を歌に持ち込みます。言葉を打楽器のように扱うことで、歌がビートと一体化します。
- スキャットと即興:ジャズ由来のスキャットをポップ曲にも自然に挿入し、即興的なフレーズで曲の表情を変化させます。音階的な遊びだけでなく、声色やアクセントでドラマを作るのが特徴です。
- ジャンル横断のアレンジ:ジャズのコード進行や拡張和音を用いつつ、ポップ的なフックや洗練されたスタジオ・プロダクションを合わせることで幅広いリスナーに訴えました。
- ダイナミクスとニュアンス:全力で歌い上げる場面よりも、細かな音量差や息づかい、語尾の処理などの微細表現で感情を伝えることが多いです。
代表曲 1 — "We're in This Love Together"
この曲はアル・ジャロウの代表的なラヴ・ナンバーとして広く知られています。コード自体はポップな形を保ちながら、ジャロウの微妙なフレージングと語り口でジャズ的な空気を帯びます。
- メロディとフレージング:メロディは比較的シンプルですが、ジャロウは小節内で語尾をずらしたり、シラブルを引き延ばすことでグルーヴ感を作ります。これにより「定型的なバラード」にならず、独特の浮遊感が生まれます。
- ハーモニー:基本はメジャー・コード進行ながら、テンションやパッシング・コードが散りばめられ、ジャズの豊かな色味が加わっています。ピアノやエレピのコード打ち分けが曲の温度を決めます。
- アレンジの役割:ストリングスや控えめなホーンが丁寧に重ねられ、曲全体をやわらかく包みます。こうしたスタジオ的な磨きがラジオ向けの親和性を高めました。
- 歌唱テクニック:語りかけるようなイントロや、間(ま)を活かしたブレイク、バック・コーラスとの絡みなど、声を楽器として多面的に用いる典型例です。
代表曲 2 — "Breakin' Away"(タイトル曲)
この曲および同名アルバムは、ジャズ的な即興性と洗練されたポップ・ソングライティングを融合させた好例です。リズムの推進力と歌の遊びがバランスよく共存しています。
- リズムとグルーヴ:バックのリズム・セクションが堅実にスウィングとファンクの要素をミックスし、ジャロウはその上で自由に遊びます。アクセントの入れ方や語句の遅らせ方でテンションを作る手法が光ります。
- 即興セクション:サビや間奏に入る前後での短いインプロヴィゼーションが、曲の構造に自然に組み込まれています。理屈に走らない自然な展開が聴き手を引き込みます。
- プロダクション:ポップス寄りの仕上げながら、コード進行やワン・ポイントのモーダルな響きなどジャズ的要素がアクセントとして効いています。
代表曲 3 — "Moonlighting"(テレビ主題歌)
テレビドラマの主題歌として作られたこの短い楽曲は、「楽曲としての即効性」と「ジャロウならではの声の表現」を兼ね備えています。限られた尺の中で強い印象を残す点がポイントです。
- メロディのキャッチーさ:短いフレーズの中に印象的なフックがあり、覚えやすくドラマの世界観と合致します。
- ヴォーカルの演出:台詞のように始めて、サビでメロディアスに開放する構成。情緒を一気に高める技法が用いられています。
- 文化的影響:テレビという媒体を通じて幅広い層に届いたことで、ジャロウのポップカルチャーへの接続点になりました。
ライブでの名演 — スキャットと会話する歌唱
アル・ジャロウのライブは「曲を土台にした会話の場」です。観客やバンドとの即興的な呼吸が随所に入り、同じ曲でも毎回違った色が出ます。以下はライブで特に注目すべき点です。
- 観客との対話:フレーズを投げ、客席の反応を受けて返すことで、その場限りのフレーズが生まれます。
- 声の多彩さ:ファルセットから太いチェスティボイス、口を使った打楽的効果まで、1曲の中で多様な音色を使い分けます。
- アレンジのその場変更:イントロのテンポを変えたり、間奏を伸ばすなど、曲の構造自体を柔軟に変えることがあります。
名盤紹介(入門的おすすめ)
- Breakin' Away — ジャロウのポップ/フュージョン路線が結実した一枚。洗練されたプロダクションと即興性の好バランスが特徴です。
- ライブ作品(代表的なライヴ録音) — スキャットや会話的な歌唱を体感するにはライブ録音が最適。スタジオ盤とは異なる自由さを楽しめます。
- 選曲ベスト盤 — ジャンル横断の側面を把握するにはベスト盤も有効。ポップなヒットから、ジャズ寄りの名演まで幅広く収められたものを選びましょう。
カバーやコラボレーションに見る柔軟性
ジャロウは自作曲だけでなく、既存の楽曲を自分の言葉・リズムで再解釈する能力に長けていました。原曲のコアを尊重しつつ、ヴォーカルとアレンジで新しい文脈を作る——これが彼のカバー/共演での魅力です。
聴きどころを意識したリスニング・ガイド
- まずメロディラインを追い、次に同じ箇所での歌い方の変化(語尾の処理、息遣い)を聴き比べるとジャロウの表現が見えてきます。
- ライブ音源では短いフレーズの繰り返し方や間(ま)の取り方に注目すると、即興の妙がわかります。
- アレンジ面では、ブラスやストリングスの入れ方、エレキ・ピアノやギターの役割が曲の方向性を決めるので、楽器の重ね方にも耳を向けてみてください。
まとめ
Al Jarreauの強みは、ジャズ的な即興性を失わずに広い聴衆に届く「歌」を作り上げた点にあります。名曲群は、歌唱テクニックの見せ場であると同時に、アレンジ/プロダクションの妙が光る作品でもあります。曲ごとの音の作りやヴォーカルのニュアンスを丁寧に追えば、ジャロウの独自性を深く味わえるはずです。
参考文献
- AllMusic — Al Jarreau(バイオとディスコグラフィ)
- Britannica — Al Jarreau(人物解説)
- GRAMMY.com — Al Jarreau(受賞歴)
- Rolling Stone — Al Jarreau(訃報と回顧記事)
- Discogs — Al Jarreau(詳細ディスコグラフィ)
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