シヴクマール・シャルマ(Shivkumar Sharma)入門:サントゥールの魅力・名盤・聴きどころを徹底解説

イントロダクション — サントゥールを世に広めた巨匠

Shivkumar Sharma(シヴクマール・シャルマ)は、インド古典音楽におけるサントゥール(西カシミール由来の打弦楽器)を「コンサート楽器」として確立し、世界的な知名度をもたらした演奏家です。繊細で歌うような旋律性、瞑想的な余情、そして西洋リスナーにも届くわかりやすさを併せ持つ演奏スタイルで、インド古典の新しい聴き手層を開拓しました。本稿ではプロフィール、音楽的特徴、代表作・名盤、そして彼の魅力と遺産を深掘りします。

プロフィール(概略)

  • 出自と生涯:インド北部(カシミール地方にゆかりのある家庭)に生まれ、サントゥールを主要楽器として生涯を通じて演奏・普及に努めました。国際的な公演やレコーディングを通じて世界中の聴衆に知られる存在となり、国からの栄典や多数の芸術賞を受賞しています。2022年に逝去しましたが、その音楽は現在も多くの演奏家・聴衆に影響を与え続けています。
  • 受賞と評価:インド政府をはじめ国内外から高い評価を受け、パドマ賞などの高位な国民栄典を含む複数の栄誉を受けています。サントゥールを古典音楽の主流に据えた功績は、世代を超えて尊敬されています。
  • 教育と家系:直系の弟子や子弟も演奏家として活動しており、彼の奏法・音楽観は継承されています。

サウンドの核心 — なぜ人を惹きつけるのか

シャルマの演奏における魅力は、単なる技巧や速弾きに留まりません。以下の要素が彼の音楽的な核です。

  • 歌うような旋律(gayaki-āṅg)の追求:サントゥールは物理的には打弦楽器ですが、シャルマは声楽的表現(gayaki-āṅg)をサントゥール上で再現しようとしました。アルペッジョや瞬間的なビブラート、スライド(人工的に工夫した)を用い、楽器で「歌う」ことを実現しました。
  • アルパ(alap)の深さと構成力:彼のアルプ(序奏部)は抑制と深い内省を併せ持ち、聴き手をラガ(旋法)の世界へ自然に誘います。フレージングは明確で、音の余韻を重視するため、瞑想的な時間が生まれます。
  • リズム感と伴奏の扱い:一見メロディ中心に見える演奏ですが、微妙なリズム操作やパーカッシブなアクセントの入れ方で表情を作り、伴奏(タブラ等)との対話を巧みに行います。
  • 音色の洗練:木製ハンマーの打撃と弦の残響をコントロールし、透明で温かみのある音色を追求。高音域のきらめきと低音域の包容力を両立させます。

技術的・構造的イノベーション

シャルマは伝統楽器であるサントゥールをコンサート用に最適化するため、演奏法・構造・チューニング上の工夫を行いました。弦のレイアウトやチューニング方式、ハンマーの持ち方や打鍵の角度など、音色と表現を広げるための細かな改良を重ねました。これにより、サントゥールは単なる地方楽器からラガ体系に深く適合する楽器へと変貌しました。

代表作・名盤(入門〜深聴向け)

  • Call of the Valley(1967) — Hariprasad Chaurasia(フルート)、Brij Bhushan Kabra(ギター)との共演。コンセプト・アルバムとして知られ、インド古典音楽を西洋の聴衆にも届く形で提示した名盤。メロディ主体で聴きやすく、シャルマのサントゥールの魅力が端的に分かります。
  • ソロ公演録音・ラガ演奏 — アルバムによっては長いアルプからティハイ(終結句)までの流れを堪能でき、彼のアルパの構築力と展開の妙を味わえます。ライブ録音は呼吸感があり特におすすめです。
  • 映画音楽(Shiv–Hari 名義) — ハリプラサード・チャウラシアとのデュオ作曲で、映画『Silsila』『Chandni』『Lamhe』などのサウンドトラックは、クラシックの素養をポピュラー音楽に巧みに取り入れ、大衆に届くメロディを生みました。映画音楽を通じてサントゥールの音色が広く知られるきっかけとなりました。

コラボレーションと越境

シャルマは伝統的な古典コンサートのみならず、他ジャンルや海外ミュージシャンとの共演を積極的に行いました。フルートやギターといった楽器編成での室内楽的なレコーディングは、ラガの物語性を新しい聴き方で提示し、80〜90年代にかけてインド古典の国際化に寄与しました。

教育・継承と影響

  • 自身の演奏法や音楽観は多くの弟子に伝えられ、次世代のサントゥール奏者が育ちました。
  • 息子や直弟子たちが演奏活動を続けており、コンサートやワークショップを通じて技術と美学が継承されています。
  • サントゥール自体が現在ではインド古典音楽の重要な音色の一つとして定着しており、その拡張性は彼の仕事によるところが大きいです。

聴きどころガイド — 初めて聴く人へ

  • アルプ(序奏)を味わう:楽曲の導入部は旋法の輪郭(スワラやムード)を提示する場。ここでラガの「顔」を掴むとその後の演奏が理解しやすくなります。
  • 中盤の展開(jor/jhala)を注視:テンポや表情が徐々に高まる部分は、演奏者の創造性が最も現れる瞬間です。小さなフレーズの到達点に耳を傾けてください。
  • 伴奏との対話:タブラやフルート、ギターとのやり取りに耳を澄ますと、メロディとリズムの微妙な掛け合いが楽しめます。
  • 再生環境:サントゥールの高い倍音や余韻を感じるには、音場が広めで解像度の良い再生機器やヘッドフォンが有利です(レコード再生や保管のコツは今回は割愛します)。

なぜ今も聴かれるのか — シャルマの普遍性

シャルマの音楽は「民族性」と「普遍性」を同時に備えます。カシミールの土着的な響きと、古典ラガに基づく普遍的な旋律美が融合し、宗教・文化的背景が異なる聴衆にも直感的に訴える力を持っています。映画音楽でのポピュラー性と、ソロでの深奥な古典性という二面性も、幅広い層に訴える理由です。

まとめ — サントゥールという窓から見る古典の新しさ

Shivkumar Sharmaは、伝統を尊重しながらも楽器の可能性を拡張し続けた演奏家でした。彼の演奏を聴くことは、サントゥールの音色を楽しむだけでなく、古典ラガの構造や「歌う」表現の妙を体感することでもあります。入門には「Call of the Valley」を、深く踏み込みたいならソロの長尺録音やライブ録音をおすすめします。

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