ジョン・ハッセル入門:フォース・ワールドの魅力と必聴名盤
イントロダクション — ジョン・ハッセルとは
ジョン・ハッセル(Jon Hassell、1937–2021)は、米国出身のトランペット奏者/作曲家であり、電子処理やフィールド録音、非西洋音楽の要素を独自に融合させた音響世界で知られます。彼が提唱した「Fourth World(フォース・ワールド)」という概念は、民族音楽的な要素と先端的な電子音響を溶け合わせた“未だ見ぬ地平の音楽”を表し、アンビエントやワールド・フュージョン、現代エレクトロニカに大きな影響を残しました。
略歴と経歴のポイント
- 誕生と活動拠点:1937年生まれ。長年にわたり欧米を拠点に活動し、晩年はフランスを中心に世界的に作品を発表しました。
- 学術・前衛との接点:クラシックや現代音楽の教育的バックグラウンドと、前衛/ミニマリズムの影響を受けつつ、非西洋の音楽伝統にも深く関心を持ちました。
- 代表的な共同作業:ブライアン・イーノ(Brian Eno)との共同制作や協働は特に有名で、これにより彼の音楽思想が広く紹介されました。
- 没年:2021年に没。生涯を通じて音響の境界を拡張し続けました。
サウンドの核心 — 何がユニークなのか
ハッセルの音楽の魅力は、単に「トランペットを電子処理する」ことに留まりません。以下の要素が組み合わさることで、彼固有の音響世界が生み出されています。
- 声のようなトランペット:高域での微妙なビブラートやスライド、ロングトーンを、ミュートやエフェクトで加工することで人声にも聴こえるような表情を作ります。
- 層状のテクスチャ:反復するモチーフやループ、ハーモニックな重ね合わせが、静的でありながら時間を感じさせる流れを生みます(ミニマリズム的側面)。
- 非西洋音楽の参照:旋法感やリズムの扱い、微分音的なニュアンスなど、アジア・アフリカ系の音楽要素を「参照」しつつ、それをそのまま踏襲するのではなくハッセル独自の文脈に再配置します。
- 電子処理と空間感:ディレイ、リバーブ、テープ処理、サンプリング的な重ねなどを用いて「場所性」を操作し、聴き手を特定の地理や時間に限定しない音響空間へ誘います。
“Fourth World”というコンセプト
ハッセルが提唱した「Fourth World」は、一言で言えば「伝統と未来の間にある架空の音楽地帯」を意味します。ここでのポイントは以下の通りです。
- 既存の音楽ジャンル(西洋クラシック、ジャズ、民族音楽、電子音楽)を単に混ぜ合わせるのではなく、それらの要素を別のレイヤーとして共存させ、異文化的な“ハイブリッドな空気”を構築すること。
- 政治的・商業的な“ワールド・ミュージック”とは距離を取り、ステレオタイプ化されない音の「想像力」を重視する姿勢。
- リスナーの想像力を喚起し、場所や民族に縛られない“もう一つの世界”を提示すること。
代表作・名盤(解説付き)
-
Fourth World, Vol. 1: Possible Musics(1980、Jon Hassell & Brian Eno)
ハッセルの思想が広く注目を集めた作品。イーノとの共同作業により、フォース・ワールドの概念が具体的に音像化されました。トランペットの加工音と環境的な音響処理のバランスが特徴です。
-
Dream Theory in Malaya: Fourth World Volume Two(1981)
現地録音や民族的リズムからインスピレーションを得た実験性の高い作品。抽象的で映像的なサウンドスケープが展開されます。
-
Power Spot(1986)
より豊かなプロダクションと深い空間表現が印象的な一枚。イーノとの関係性は続きつつも、ハッセル自身の音楽的語法が強く出た作品です。
-
Last Night the Moon Came Dropping Its Clothes in the Street(2009)
成熟期の作品で、エレクトロニクスと生楽器の繊細な共演が際立ちます。洗練された空気感と詩的なタイトル感覚が好評を得ました。
-
Listening to Pictures (Pentimento Volume One)(2018)
晩年の重要作。過去の要素を参照しつつ、新しい音響実験を続ける姿勢が見られます。映画的なイメージを喚起するサウンドデザインが特徴です。
主なコラボレーションと影響
- ブライアン・イーノとの協働はハッセルの思想を世界に広めるきっかけとなり、アンビエントやエレクトロニカ界隈に大きな影響を与えました。
- ポップ/ロック/実験音楽の枠を越えた多数のアーティストに影響を与え、映画音楽や現代のプロデューサー、エレクトロニカ/ダウンテンポの音像にもその痕跡が見て取れます。
- 民族音楽のステレオタイプ的引用を避け、音楽を“フィクショナルな地平”として提示する姿勢は、今日のワールド・ミュージック的アプローチにも示唆を残しています。
聴き方のコツ — 初めて聴く人へ
- 「曲」を追いかけて結論を出そうとするより、音の質感・空間・時間感覚の変化に身を委ねてください。短いフレーズが繰り返される中で徐々に世界が開いていくタイプの音楽です。
- ヘッドフォンでの細部(ディテール)や左右の広がりを確認するのがおすすめ。スピーカーでも低音のないハイレンジのテクスチャがよくわかります。
- 一度で全てを理解しようとせず、繰り返し聴くことで“地形”が見えてくる音楽です。作業用BGMとしてではなく、集中して聴く時間を持つと発見が多いでしょう。
なぜ多くの人を惹きつけるのか — ハッセルの「魅力」総括
ハッセルの魅力は、未知の感覚を喚起する「想像力の喚起力」にあります。伝統的な意味での技巧や即興の妙だけでなく、音そのものが物語を帯び、空間と時間を再定義するところに独自性があります。商業的なジャンル分けに収まらないため、リスナーは彼の音を介して新しい音楽的視座を得ることができます。
現代への遺産
ポスト・ブライアン・イーノ以降のアンビエント、ダウンテンポ、ワールド/エクスペリメンタルな電子音楽の多くが、ハッセルの音響思想に少なからぬ影響を受けています。トランペットという伝統楽器を通じて「非楽器的」な表現を開拓した点も、楽器の役割に対する再考を促しました。
代表的な入門順(個人的推奨)
- まずは「Fourth World, Vol. 1: Possible Musics」 — コンセプトを知るための入門。
- 次に「Dream Theory in Malaya」 — エスニック参照の豊かなテクスチャを体感。
- その後「Power Spot」や「Last Night the Moon...」でプロダクションの深さと熟成を味わう。
- 最新作(晩年作)である「Listening to Pictures」で現代的な解釈を確認。
参考文献
- Jon Hassell — Wikipedia
- Jon Hassell — AllMusic
- Jon Hassell obituary — The Guardian
- Jon Hassell dies at 84 — Pitchfork
- Jon Hassell — ECM Records (artist page)
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っておりますので是非一度ご覧ください。
https://everplay.base.shop/
また、CDやレコードなど様々な商品の宅配買取も行っております。
ダンボールにCDやレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単に売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery


