9th Wonder入門|おすすめレコード5選とプロダクションの聴きどころ解説

9th Wonderとは

9th Wonder(パトリック・ドゥーシット)はノースカロライナ出身のヒップホップ・プロデューサー/DJ。大学時代に結成されたグループ「Little Brother」の主要プロデューサーとして頭角を現し、ソウル/レアグルーヴのループを巧みに切り貼りするサンプリング技術と、温かみのあるアナログ感を残したビート作りで知られます。MPCを用いたシンプルかつグルーヴィーなトラック構成、声の収め方や楽曲全体の“間”の作り方に定評があり、同世代のラッパーたちから厚い信頼を受けています。

コラムの狙い

ここでは「9th Wonderを知る/深めるためのおすすめレコード」を中心に、その背景・聴きどころ・制作面での特徴を深掘りします。代表曲や名盤を挙げつつ、各作品がなぜ重要か、どんな視点で聴くと面白いかを解説します。

おすすめレコード 1:Little Brother — The Listening(2003)

なぜ聴くべきか:9th Wonderがグループの音像をほぼ一手に担ったデビュー作。モダンなヒップホップ感と、ソウル/ジャズのアナログな温度感が溶け合ったサウンドが詰まっています。リリカルなフロウ(Phonte、Big Pooh)と相性の良い“歌うような”ループ使いが特徴。

  • 聴きどころ:ビートの“余白”とコーラスの入れ方。声の帯域を生かしたミックスで、ラップがよりメロディックに聴こえる点に注目。
  • 楽曲構成:短めのループを繰り返しつつ、スネアやハイハットで微妙な変化を入れることで曲の展開を作る手法が多用される。
  • おすすめの楽しみ方:詞の内容(都市生活、友情、ヒップホップ観)を追いながら、各トラックのサンプル元らしきループの質感を耳で辿ると、9thの“選球眼”が見えてきます。

おすすめレコード 2:Murs & 9th Wonder — Murs 3:16: The 9th Edition(2004)

なぜ聴くべきか:ラッパーMursと9th Wonderのフルコラボ作。プロデューサーとMCが一貫したテーマ感で作り上げた完成度の高い作品で、ラップとビートが非常に密接に結びついているのが魅力です。

  • 聴きどころ:トラックが歌詞やテーマ(個人的体験や社会観)をサポートする様子。ビート側で感情の強弱を作り、Mursの語り口に寄り添う作り方が随所に見られます。
  • 制作の特徴:無駄を削いだシンプルなドラムまわりと、耳に残るワンフレーズのループで曲の印象を決めるスタイル。
  • おすすめの楽しみ方:曲ごとに「どのフレーズが曲の核になっているか」を探し、ラップがその核にどう反応しているかを確認すると面白いです。

おすすめレコード 3:Little Brother — The Minstrel Show(2005)

なぜ聴くべきか:コンセプト性の強い2作目。アメリカのエンターテインメント文化やメディア像をテーマに置き、9thのプロダクションがより“ストーリーテリング”を支える形で展開されます。サンプル選びの幅が広がり、サウンドの奥行きが増した作品です。

  • 聴きどころ:ドラマ的なインタールードやスキットと楽曲本体のつながり。9thは単独の“ループ”の良さだけでなく、楽曲間でのムードの遷移を意識した配置が上手です。
  • 注目点:より洗練されたR&B寄りのサンプルや、アレンジの細かい差し替えによる表情づけ。

おすすめレコード 4:9th Wonder Presents / ソロ作品群(Dream Merchant シリーズなど)

なぜ聴くべきか:9thがプロデューサー主導で様々なMCと組み、ビートの世界をフルで提示するシリーズ。客演陣の違いでプロダクションの多面性が見えるため、9thの音作りを俯瞰するのに最適です。

  • 聴きどころ:ゲストの個性に合わせてビートの色味を変える柔軟性。ビート単体でも成立する骨太さと、ラップを引き立てる“余白”のバランス。
  • おすすめの楽しみ方:客演アーティストごとにビートの選び方がどう変わるか比較し、9thの“引き出し”を確認する。

おすすめレコード 5:Rapsody — The Idea of Beautiful(2012)

なぜ聴くべきか:Rapsodyは9th Wonderが育てた若手の代表格で、本作は彼女の初期代表作の一つ。9thはエグゼクティブ的に関わり、複数トラックを提供しているため、プロデューサーとしての育成力や楽曲演出のセンスがわかります。

  • 聴きどころ:女性ラッパーの詞を引き出すためのビート配置(サンプルの選び方、コーラスの入れ方)。9thのビートがラップの“伝わりやすさ”に寄与している点に注目。
  • 注目点:若いMCの個性を尊重しつつ、世界観を統一するアレンジ力。

9th Wonder的プロダクションの特徴(聴き方ガイド)

  • サンプリングの選球眼:ソウルやジャズの一節を短く切り取り、反復させることでメロディを記憶に残す。
  • 余白と間:ドラムは比較的シンプルに保ち、キメやフィルでアクセントをつけることでラッパーの声が映えるようにする。
  • 声の扱い:コーラスやハーモニーを重ねるより、主メロの空間を大事にして声を“主体”に見せるミックス傾向。
  • 局所的な変化でダイナミクスを作る:長尺の曲でも、キックやハイハットのパターンを微妙に変えることで展開感を持たせる。

鑑賞のヒント(深掘りポイント)

  • サンプル元の探索:気に入ったフレーズがあれば、原曲を探して比較してみると9thのリコンテキスト化(文脈の再構築)の巧さがよく分かります。
  • トラック同士の比較:同じテーマ(恋愛、葛藤、社会観)を扱った曲で、どのようにビートが感情をサポートしているか比較する。
  • MCとの化学反応を聴く:同じビート感でもMCによって印象が全く変わる場面があるため、複数の客演作を聞き比べると面白いです。

まとめ

9th Wonderは“ループの詩人”とも呼べるような、サンプルを通じて感情を直截に伝えるプロデューサーです。リスナーとしては、まずLittle BrotherやMursとのコラボ作で彼のグルーヴ感や選曲眼を把握し、その後ソロ/プロデュース集で多様なアプローチを追うのがおすすめ。ビートの細部(間合い、ループの反復、ドラムの変化)に耳を傾けると、より深く彼の世界観を味わえます。

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