JSON API と JSON:API の違いと選び方 — 仕様・実装・運用の完全ガイド
JSON API とは — 概要と区別
「JSON API」という語は文脈によって二つの意味で使われます。広義には「JSON を用いた API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)」を指し、HTTP と JSON を組み合わせてデータをやりとりする仕組み全般を意味します。一方で狭義には公式仕様である「JSON:API(コロン付き)」を指します。JSON:API は jsonapi.org が定める仕様で、リソースの表現、関係性の表現、エラー形式、ページネーションやフィルタ等の取り決めを規定します。本稿では両者の違いを明確にしつつ、JSON ベースの API の設計・運用や JSON:API 仕様の要点を詳述します。
JSON と API の基本
- JSON(JavaScript Object Notation):軽量なデータ交換フォーマット。RFC 8259 に準拠。
- HTTP を使った API:GET/POST/PUT/PATCH/DELETE といった HTTP メソッドを用い、JSON をペイロードにして CRUD 操作を行うのが一般的。
- 利点:人間にも機械にも読みやすく、Web やモバイルアプリケーションとの親和性が高い。
JSON:API(公式仕様)の概要
JSON:API(https://jsonapi.org/format/)は、クライアントとサーバ間の通信を標準化するための仕様です。主な目的は、クライアント/サーバ間での互換性を高め、冗長なカスタム設計を減らし、共通のツールやライブラリを容易に使えるようにすることです。
代表的な特徴:
- 標準メディアタイプ:
application/vnd.api+jsonを利用することを推奨(Content-Type/Accept) - リソースオブジェクトの統一形式(type, id, attributes, relationships)
- 包括ドキュメント(included)による関連リソースの同時返却
- 標準化されたエラーオブジェクト、ページネーション、フィルタ、ソート、フィールド選択などの規定
JSON:API の基本構造(実例)
リソース取得の典型レスポンス例:
{
"data": {
"type": "articles",
"id": "1",
"attributes": {
"title": "JSON:API の紹介",
"body": "仕様の概要..."
},
"relationships": {
"author": {
"data": { "type": "people", "id": "9" }
}
}
},
"included": [
{
"type": "people",
"id": "9",
"attributes": { "name": "山田太郎" }
}
]
}
ポイント:レスポンスはトップレベルに data(または errors)を持ち、関連するリソースは included 配列で同梱できます。
リクエスト/レスポンスの運用ルール
- HTTP ヘッダー:リクエスト時に
Accept: application/vnd.api+json、送信時はContent-Type: application/vnd.api+jsonを指定することが推奨される(仕様上の理由でクライアントとサーバの互換性向上に寄与)。 - HTTP メソッドと意味:GET(取得)、POST(作成)、PATCH(部分/全更新)、DELETE(削除)。PUT はリプレイス用途で使われるが、仕様では PATCH が推奨されるケースも多い。
- ステータスコード:成功は 200/201、クライアントエラーは 4xx、サーバエラーは 5xx を使用。
高度な機能と拡張
- 包含(include):関連リソースを一度に取得し、過剰なリクエスト(N+1 問題)を緩和する。例:
?include=author,comments - フィールド選択(sparse fieldsets):必要な属性のみを返して帯域を節約。例:
?fields[articles]=title,body - フィルタ、ソート:API 側で定義するが、クエリパラメータで柔軟に検索・並び替えを行う。
- ページネーション:offset/limit または cursor ベース。JSON:API はリンクと meta を使ったページ情報の返却を推奨。
- エラー表現:エラーは配列で返し、それぞれに
status/code/title/detail/source等を含める。
HTTP レベルの運用(キャッシュ・ヘッダーなど)
JSON ベースの API でも HTTP のキャッシュ機構を活用すべきです。ETag や Last-Modified、Cache-Control によりクライアントと中間キャッシュの効率を上げられます。JSON:API 自体はキャッシュ方法を規定しないため、API 設計者が適切にヘッダーを設定します。
セキュリティと認証
- 必須:常時 TLS(HTTPS)での通信。
- 認証方式:OAuth 2.0、Bearer トークン(JWT)などが一般的。Cookie を使う場合は CSRF 対策を実施。
- 入力検証と出力のサニタイズ:SQL インジェクションや XSS の防止。
- レートリミット:DoS を防ぐためにレート制限を設ける。
実装とエコシステム
多くの言語・フレームワークに JSON:API 対応のライブラリがあります(例:Ruby の jsonapi-resources、JavaScript の jsonapi-serializer、Django REST framework のプラグインなど)。注意点として、WordPress の REST API はデフォルトで JSON を返しますが、JSON:API 規格に完全準拠しているわけではありません。WordPress 上で JSON:API 準拠にするプラグインも存在します。
ベストプラクティス
- 明確なリソース設計:type と id の用途を統一し、attributes と relationships を分ける。
- 過剰なネストを避ける:必要な場合は include を使い、深すぎるネストはパフォーマンスを悪化させる。
- 一貫したエラーフォーマット:クライアント実装を単純化するため、標準形式を守る。
- 柔軟なフィールド選択とページネーション:クライアント側の過/不足取得を防ぐ。
- ドキュメント化:OpenAPI(Swagger)等で API を明文化し、仕様変更時の互換性戦略を示す。
注意点とトレードオフ
JSON:API の採用は短期的な労力を要することがあります(学習コストや既存クライアントの変更)。また汎用 JSON API を自由設計する場合、フォーマットのばらつきが増え、クライアント実装が複雑になりがちです。用途に応じて、JSON:API の厳格さが必要か、あるいは柔軟な独自 API で足りるかを判断してください。
まとめ
「JSON API」とは一般的に JSON を用いる API を指しますが、正式な仕様を指す場合は「JSON:API」と呼びます。JSON:API はリソース表現やエラー、包含、ページネーションなどを標準化し、クライアント・サーバ間の互換性を高める利点があります。一方で導入コストや設計上の制約もあるため、プロジェクトの要件(既存互換性、クライアントのニーズ、パフォーマンス要件など)を踏まえて採用を判断することが重要です。
参考文献
- JSON:API 公式仕様 — jsonapi.org
- RFC 8259 — The JavaScript Object Notation (JSON) Data Interchange Format
- RFC 7231 — Hypertext Transfer Protocol (HTTP/1.1): Semantics and Content
- MDN Web Docs — HTTP 概要
- OWASP — REST Security Cheat Sheet
- WordPress REST API ハンドブック(公式)


