ES6(ECMAScript 2015)完全ガイド:主要機能・互換性・実務での導入ポイント
ES6とは
ES6は「ECMAScript 2015」とも呼ばれるJavaScriptの仕様の大きな改訂で、正式にはECMA-262第6版として2015年6月に最終化されました。通称ES6(あるいはES2015)は、それまでのES5から多くの構文的・機能的拡張が行われ、モダンなJavaScript開発の基盤となる機能群を導入しました。以降のECMAScriptは年次アップデート方式(ES2016, ES2017…)になりましたが、ES6は「モダンJSの出発点」として特に重要視されています。
導入の背景と位置づけ
ES6は言語としての表現力向上、モジュール化の標準化、非同期処理や集合(Set/Map)といったデータ構造の標準搭載などを目的に設計されました。これにより、ライブラリやトランスパイラに頼らずとも言語レベルで多くの機能が使えるようになり、コードの可読性・保守性が向上しました。
主な新機能(概要と注意点)
- let / const(ブロックスコープ)
ES5のvarは関数スコープでしたが、ES6ではブロックスコープを持つletと定数を宣言するconstが導入されました。constは再代入不可ですが、参照型の場合内部のプロパティ変更は可能です。なお、let/constはホイスティング挙動が異なり、TDZ(Temporal Dead Zone)により宣言前アクセスがエラーになります。
- アロー関数(=>)
短い関数表記を提供するだけでなく、thisの束縛がレキシカル(囲んでいるスコープに従う)である点が重要です。アロー関数はコンストラクタとしては使えず、argumentsオブジェクトを持ちません。
- クラス構文(class)
従来のプロトタイプベースの継承をラッパーした構文糖で、constructor、メソッド、static、extends、superなどをサポートします。ただし内部的にはプロトタイプチェーンを利用しており、クラスは単なる構文上の便宜に過ぎないことに注意が必要です。
- テンプレートリテラル(バッククオート)
複数行文字列や埋め込み式(${...})を簡潔に書けます。タグ付きテンプレートで文字列処理のカスタマイズも可能です。
- デフォルト引数 / レスト / スプレッド
関数パラメータにデフォルト値を設定でき、可変長引数はレストパラメータ(...args)で扱います。配列や引数の展開にはスプレッド構文(...)が使えます。なお、オブジェクトのスプレッドはES6ではなく後続の仕様(ES2018)で正式化されました。
- 分割代入(Destructuring)
配列やオブジェクトから値を簡潔に取り出す構文です。関数の引数やデフォルト値と組み合わせることで可読性が向上します。
- モジュール(import / export)
ファイル単位のモジュールが言語仕様として導入され、静的解析(静的にインポートとエクスポートが確定)により最適化やツール連携が容易になりました。ブラウザでのネイティブ実行や、Bundler(Webpack、Rollup等)との組合せで利用されます。動的import()は後続の仕様で拡張されました。
- Promise
非同期処理の標準的な抽象であるPromiseが導入され、then/catchチェーンで非同期制御を行います。後のasync/awaitはES2017で追加されましたが、Promiseはその基盤です。
- Map / Set / WeakMap / WeakSet
ハッシュマップや集合の標準データ構造が追加され、オブジェクトキーの扱い・メモリ管理などが改善されました。
- Symbol
一意なプリミティブ値を生成するための型で、プロパティキーや内部メタプログラミング(Symbol.iteratorなど)で使われます。
- イテレータ/ジェネレータ(Iterator / Generator)
Iterableプロトコル(Symbol.iterator)とfor...ofループにより、配列以外の反復処理が統一されました。ジェネレータ(function* と yield)は逐次処理や非同期制御の表現に有用です。
- Array/Object/Stringの新メソッド
Array.from, Array.of, Array.prototype.find/findIndex, Object.assign, String.prototype.startsWith/endsWith/includes等、多くのユーティリティメソッドが追加されました。
- 数値リテラル(2進/8進)などの表記拡張
0b1010、0o755 のような二進数・八進数リテラルが使えます。
仕様上の重要ポイントと落とし穴
クラスはプロトタイプの糖衣 — class構文は利便性を与えますが、内部は従来どおりプロトタイプベースです。継承やメソッド探索の仕組みは従来の挙動を踏襲します。
TDZとホイスティング — let/constを宣言する以前に参照するとReferenceErrorになります。これによりバグ検出が早まる一方で、従来のvar慣習とは異なる挙動に注意が必要です。
アロー関数のthis扱い — コールバック内でthisを使う際に挙動が変わるため、期待したオブジェクト参照にならないケースがあります(特にイベントハンドラやメソッド実行時)。
モジュールは静的解析される — import/exportは静的であるため、条件分岐内での動的インポートはできません(動的import()は後の仕様)。これによりツリーシェイキングなど最適化が可能になります。
すべてが古い環境で動くわけではない — ES6のいくつかの機能は古いブラウザや古いNode.jsで未サポートです。トランスパイルやポリフィルが必要になる場合があります。
導入と互換性(実務的観点)
ES6登場以降、開発現場では段階的にES6構文を採用するケースが増えました。今日ではほとんどのモダンブラウザが主要なES6機能をサポートしていますが、サポートの細部差や古いブラウザ対応が必要な場合は下記の対策が一般的です。
- トランスパイラ(Babel等)を使ってES6+のコードをES5に変換する
- polyfill(core-js等)で欠如するAPIを補う
- バンドラ(Webpack, Rollup等)でモジュール結合や最適化を行う
- ターゲット環境(ブラウザ分布、Node.jsバージョン)を明確にしてビルド設定を調整する
また、互換性チェックには Kangaxの互換性表 や Can I use を参照すると実際のブラウザ対応状況が確認できます。
実務での使いどころとベストプラクティス
まずはlet/const、テンプレートリテラル、分割代入、アロー関数といった基本的な構文から導入することで可読性と保守性が向上します。
Promiseやジェネレータは非同期処理の設計を改善します。現在はasync/await(ES2017)と組み合わせることが多いですが、Promiseの理解は基盤として必須です。
モジュール化はコード分割と再利用性に直結します。ES6モジュールを採用し、ビルドツールで最適化(ツリーシェイキング)するのが一般的です。
Polyfillは必要最小限に留め、ターゲットブラウザを明確にしてバンドルサイズを管理することが重要です。
まとめ
ES6(ECMAScript 2015)は、JavaScriptをより表現力豊かで堅牢にする大規模アップデートです。言語レベルでのモジュール、クラス、ブロックスコープ、Promise、各種ユーティリティなどが導入されたことで、現代的なフロントエンド/サーバサイド開発の基盤が整いました。今日では多くの環境でES6が前提となっており、モダンJavaScriptを理解する上で避けて通れない仕様と言えます。導入にあたっては互換性管理(トランスパイル/ポリフィル/ターゲット環境の明確化)を行い、ES6の利点を最大限に活かしてください。
参考文献
- ECMAScript® 2015 Language Specification (ECMA-262 6th Edition)
- MDN Web Docs — JavaScript リファレンス
- Kangax — ES6 compatibility table
- Can I use — ES6 features
- Babel — JavaScript コンパイラ
- core-js — Polyfill ライブラリ


