HTTP DELETEの実務設計ガイド:仕様理解・冪等性・条件付きリクエストから分散環境・セキュリティ対策まで徹底解説

はじめに — DELETEリクエストとは何か

HTTPのDELETEメソッドは、指定したリソースをサーバー側から削除することを要求するためのHTTPメソッドです。RESTfulなAPI設計においては「削除(Delete)」の操作を表す代表的な手段として広く使われます。しかし、その振る舞いや実装上の注意点、ステータスコードやキャッシュ、並行制御との関係など、単純に「消す」という言葉の裏には多くの設計上・運用上の判断が隠れています。本コラムではDELETEの仕様的意味、実務での扱い方、セキュリティや分散環境での考慮点などを深掘りして解説します。

HTTP仕様上の位置づけ:セマンティクス(意味)

HTTPの最新仕様(RFC9110, HTTP Semantics)では、DELETEは「ターゲットリソースとその機能の関連を取り除くことを要求する」メソッドと定義されています。DELETEは「安全(safe)」なメソッドではなく、サーバーの状態を変更する非安全メソッドです。一方でDELETEは「冪等(idempotent)」であるとみなされます。つまり、同じDELETEリクエストを何度送ってもリソースの最終的な状態が変わらない(削除された状態に収束する)ことが期待されます。

基本的な挙動と代表的なレスポンスコード

  • 204 No Content:削除成功で本体を返す必要がない場合に良く使われます。
  • 200 OK:削除の結果として説明的なエンティティ(例えば削除したリソースの情報やステータス)を返す場合に使用。
  • 202 Accepted:削除処理を非同期で受け付け、即時に完了しない場合。処理の状態を問い合わせるためのLocationヘッダやジョブIDを返すことが多い。
  • 404 Not Found:指定したリソースが存在しない場合。ただし、セキュリティや仕様上、存在しなくても204を返す設計もある。
  • 410 Gone:リソースが恒久的に削除され、将来的にも復活しないことを明示したい場合に使用。

レスポンスの扱いはAPI設計方針によって異なります。例:冪等性と情報漏洩対策の観点から、存在しないリソースに対するDELETEに204を返して「存在の有無を明示しない」仕様にするケースがあります。

冪等性と副作用の区別

RFC準拠ではDELETEは冪等とされていますが、これはリソースの最終状態に関する話です。ログ記録やメール通知、ランキング更新などの「副作用」は冪等性の外にあり、同一リクエストの再送が副作用を重複して発生させる可能性があります。したがって、実装側では冪等性を保持したい副作用(重複通知を防ぐ等)については別途対策(デデュープID、トランザクション、条件付き処理など)を行うべきです。

リクエストボディの扱い

DELETEリクエストはボディを持つことが技術的に許容される場合がありますが、仕様上「ボディに標準的な意味は定義されていない」ため、多くの実装はボディを無視します。したがって、単一リソースの削除はURLで指定し、ボディに依存するAPI設計(例:DELETEで複雑なフィルタを渡してバルク削除する)は相互運用性の問題を招く可能性があります。バルク削除が必要ならPOST /bulk-deleteや専用のエンドポイント、または明示的に仕様化されたAPIを用いるのが安全です。

条件付きリクエスト(楽観的排他制御)

並行アクセス対策として、DELETEにも条件付きリクエスト(If-Match、If-Unmodified-Sinceなど)が重要です。たとえば、クライアントが取得したリソースのETagを使って「自分の見ているバージョンと一致する場合のみ削除する」ようにすれば、競合で誤って最新データを削除するリスクを低減できます。もし前提条件が満たされない場合は412 Precondition Failedを返します。

キャッシュとDELETE

一般に、状態を変更するメソッド(PUT/POST/DELETEなど)に対するレスポンスは、特段の明示(Cache-ControlやExpiresなど)がない限りキャッシュすべきではありません。またDELETEが行われた場合、サーバーやプロキシのキャッシュされた表現を無効化(staleにする、削除する)する必要があります。正しいキャッシュ制御を設計しておかないと、古い表現がクライアントに返り続けるなどの問題が発生します。

REST設計上の実務的注意点

  • エンドポイント設計:一般的にDELETE /resources/{id}のように個別リソースを指すURLで用いる。
  • バルク削除:DELETEで複数を一括削除する設計は相互運用上危険。POSTでバルク操作エンドポイントを用意するか、明確な仕様を提供する。
  • 非同期処理:削除が重い処理(外部サービス呼び出しや長時間取引)なら202 Acceptedを返し、ジョブの完了状態を問い合わせる仕組みを用意する。
  • エラーハンドリング:存在しないリソース、権限不足、前提条件不一致などを適切なHTTPステータスで返す。

フロントエンドとブラウザの制限

HTMLの

はGET/POSTのみをネイティブサポートします。そのためブラウザベースのフォームでDELETEを直接送ることはできません。一般的な回避策:

  • JavaScript(fetch/XHR)でDELETEリクエストを送る。
  • サーバーでHTTPメソッドのオーバーライドを実装し、POSTに隠しフィールドやX-HTTP-Method-OverrideヘッダでDELETEを指定する(Ruby on Rails等が採用する手法)。

セキュリティ上の考慮点

DELETEは状態変更を伴うためCSRF(クロスサイトリクエストフォージェリ)対策が必須です。一般的にはCSRFトークンを検証する、SameSite属性付きクッキーを使う、CORSを適切に設定する、認証・認可を厳格にする等の対策を講じます。また、存在確認に関する情報漏洩(リソースの有無でユーザー情報を推測される等)を避けるために、あえて404/204のどちらを返すかを吟味する必要があります。

実装側のデータ永続化とパターン

削除の実装は単純な物理削除(hard delete)だけでなく、次のようなパターンがあり得ます:

  • ソフトデリート(論理削除):is_deletedフラグやdeleted_atタイムスタンプを立てる。復元や監査の利便性が高いが、クエリに常にフィルタを入れる必要がある。
  • トombstone(墓標):分散システムで削除を伝搬させるためのマーカーを残す。コンフリクト解消やGC(ガベージコレクション)戦略が必要。
  • カスケード削除:リレーションのあるデータを連鎖的に削除する。参照整合性を保証するか、またはアプリ側で明示的に処理する必要がある。

選択はビジネス要件(復元可否、監査、ストレージコスト、整合性)に依存します。

分散システムでの注意点

マイクロサービスや分散データベース環境では、DELETEの伝搬が即時に全ノードで可視化されないこと(最終的整合性)があります。削除イベントを発行して他サービスに通知する場合は、冪等なイベント設計、重複処理の許容、またはオーケストレーション(Sagaパターンなど)を検討してください。さらに、削除後に同一IDでリソースを再作成すると歴史的に混乱が生じるため、ID設計や「削除済み」ステータスの扱いを明確にすることが重要です。

設計上のベストプラクティス(チェックリスト)

  • DELETEはターゲットリソースをURLで明確に指定する(例:DELETE /users/123)。
  • 非同期削除は202を返し、処理状況をクライアントが問い合わせ可能にする。
  • 並行更新対策としてETag/If-Matchや楽観排他を導入する。
  • CSRF・認可を適切にチェックし、機密情報の露出を防ぐ。
  • バルク削除はPOST等の専用エンドポイントで仕様を明確にする。
  • 削除ポリシー(ソフト/ハード、GC条件、ログ保持)をドキュメント化する。

まとめ

HTTPのDELETEメソッドは「削除」を表すうえで重要で便利な手段ですが、単に「消す」だけでは済まない多くの考慮点があります。仕様上は非安全だが冪等であり、ボディは標準化された意味を持たないため注意が必要です。実装面では並行制御、非同期処理、キャッシュの無効化、セキュリティ対策、データ永続化ポリシー(ソフトデリート等)を総合的に設計することが求められます。API利用者と提供者の双方にとって予測可能で安全な挙動を実現するため、DELETEの振る舞いは明確に仕様化し、ドキュメント化しておくことを強く推奨します。

参考文献