イーサネットカード完全ガイド—規格の変遷から機能・オフロード、仮想化・設置・運用まで徹底解説

イーサネットカードとは

イーサネットカード(Ethernetカード)、一般にはネットワークインタフェースカード(NIC: Network Interface Card)と呼ばれるものは、コンピュータやサーバーをイーサネットネットワークに接続するためのハードウェアです。物理層およびデータリンク層(OSI参照モデルのレイヤ1/2)に関わる機能を持ち、ケーブルや光ファイバを介してフレームの送受信を行います。家庭用のオンボードLANやPCI/PCIe増設カード、USB接続のものなど形態は多様です。

歴史的背景と標準

イーサネット自体は1970年代に開発され、標準化はIEEE 802.3シリーズで行われています。初期の10BASE-T(10 Mbps)から始まり、100BASE-TX(Fast Ethernet)、1000BASE-T(Gigabit Ethernet)、その後10G/25G/40G/100Gなど高速化が進んでいます。これらの規格は物理媒体や伝送速度、信号方式を定義しており、NICはこれら規格に準拠して設計されています。

主な構成要素と機能

  • 物理インタフェース(PHY): 電気信号や光信号を処理する部分で、トランシーバ(トランスメディア送受信器)として実装されます。RJ-45(銅線)、SFP/SFP+/QSFP(光ファイバ/銅)などのコネクタ形態があります。

  • MAC(Media Access Control)層チップ: フレームの生成・解析、MACアドレス処理、エラーチェック(FCS)などを担当します。多くの機能はハードウェアアクセラレーションされています。

  • バッファ/リングとDMAエンジン: 受信/送信キュー(リングバッファ)によりパケットを一時保管し、CPUとメモリ間でDMAを用いて効率的に転送します。

  • ファームウェア/ドライバ: OSとのやり取り、設定、統計情報提供などを担います。ドライバはNIC性能に大きく影響します。

MACアドレスと識別

NICには通常48ビット(6バイト)のMACアドレスが割り当てられます(EUI-48)。上位24ビットはOUI(Organizationly Unique Identifier)で製造者を特定でき、残りが個体識別子です。一部の環境ではソフトウェア的にMACアドレスを書き換えられますが、ネットワーク管理とセキュリティ上の注意が必要です。

規格・速度の変遷

  • 10 Mbps: 10BASE-T(古典的)

  • 100 Mbps: 100BASE-TX(Fast Ethernet)

  • 1 Gbps: 1000BASE-T(Gigabit Ethernet)、広く普及

  • 10 Gbps以上: 10G/25G/40G/50G/100G/200G/400G(データセンターやバックボーンで使用)

銅線(Twisted Pair)ベースの規格(-T)は配線の経済性が高く、光ファイバベースの規格(-SR/-LRなど)は長距離伝送や高帯域に向きます。

デュプレックス、オートネゴシエーション、フロー制御

イーサネットは半二重(half-duplex)と全二重(full-duplex)をサポートします。現代のネットワークではほとんどが全二重です。自動ネゴシエーション(Auto-Negotiation)はリンク速度やデュプレックスを交渉して最適値に合わせます(802.3規格準拠)。また、802.3xによるフロー制御(PAUSEフレーム)により一時的な輻輳を緩和することが可能です。

高度な機能とオフロード

  • TCP/UDPチェックサムオフロード: NICがチェックサム計算を行うことでCPU負荷を軽減します。

  • セグメンテーションオフロード(TSO/GSO): 大きなTCPパケットをNIC側でセグメント分割して送信し、CPU負荷を減らす技術。

  • ジェンボフレーム(Jumbo Frames): デフォルトの1500バイトより大きいMTUを使うことで効率を上げる。ただしスイッチや他機器も対応が必要。

  • 割込みモード(MSI/MSI-X)とRSS(Receive Side Scaling): マルチコアCPU上でインターラプトを均等化し、受信処理を複数コアに分散させる。

  • SR-IOV(Single Root I/O Virtualization): 仮想化環境でハードウェアの仮想関数(VF)を作成し、VMに直接割当てることで性能を向上。

  • TOE(TCP Offload Engine): NICがTCPスタックの一部を処理する技術。ただし互換性・デバッグの観点で採用は限定的。

仮想化とソフトウェア定義ネットワーク(SDN)

仮想化ホストでは、物理NICの上に仮想スイッチ(vSwitch)があり、仮想マシンは仮想NICを通じて通信します。SR-IOVやDPDKのようなユーザ空間で高速パケット処理を行う技術により、仮想環境でも高パフォーマンスを確保できます。SDNやネットワーク機能の仮想化(NFV)では、NICの機能をソフトウェアで制御する設計が増えています。

設置・設定・トラブルシューティングの実務

  • ドライバのインストール: NICとOS(Linux、Windows、BSDなど)に適したドライバを用意します。Intel、Broadcom、Realtekなど主要ベンダは専用ドライバを提供しています。

  • リンク確認: リンクLED、ethtool(Linux)、ip link、ifconfig、Windowsの「ネットワーク接続」で物理リンクや速度・デュプレックスを確認。

  • パフォーマンス計測: iperf/iperf3、netperfなどで実効スループットを検証。レイテンシやパケットロスのチェックも重要。

  • ログと統計: ドライバやOSのログ、/proc/net/dev、ethtool -S でキューやエラー統計を監視。

  • 一般的な問題: ケーブル不良、交差ケーブル/ストレートケーブルの混同(古い機器)、スイッチとの速度不一致、ドライババグ、ハードウェア故障。

セキュリティと運用上の留意点

NICやそのファームウェアは攻撃対象になり得ます。ファームウェアの脆弱性や悪意あるMACスプーフィング、ブロードキャストストームによるサービス妨害などに注意が必要です。管理面では不要な機能(例:未使用のポート、WOL等)の無効化、ファームウェア/ドライバの定期更新、ポートセキュリティや802.1X認証の導入が推奨されます。

購入時のチェックポイント

  • 用途(家庭用、オフィス、データセンター)に応じた速度とポート形態を選ぶ。

  • OS/ハイパーバイザとの互換性とドライバのサポート状況を確認。

  • 必要なオフロード機能(TSO/GSO、RSS、SR-IOVなど)が利用できるか。

  • 接続媒体(銅線/RJ-45、SFP/SFP+/QSFPなど)とケーブルとの整合性。

  • 冗長性やチーミング(リンクアグリゲーション)を使う場合はスイッチ側の対応(LACP/802.1AX)も確認。

代表的なコマンドとユーティリティ(Linux/Windows)

  • Linux: ethtool(リンク速度・SFP情報・オフロード設定)、ip link/addr、ethtool -S(統計)、dmesg(ドライバログ)、lshw -C network

  • Windows: デバイスマネージャ、PowerShellのGet-NetAdapter、パフォーマンスモニタ

まとめ

イーサネットカードは単なる「差し込み口」ではなく、物理層とデータリンク層で高度な処理を行う重要なネットワークコンポーネントです。規格の進化とともに高速化・多機能化が進み、オフロードや仮想化対応などソフトウェアと密接に結びついた設計が主流になっています。導入・運用に当たっては、用途に応じた規格選定、ドライバやファームウェアの管理、そしてセキュリティ対策が鍵になります。

参考文献