JPEG徹底解説:圧縮の仕組み・ファイル構造・運用ポイントと最適化ツールの実務ガイド

JPEGとは

JPEG(ジェイペグ)は「Joint Photographic Experts Group」の頭文字に由来する、静止画像を効率よく圧縮するための国際標準規格です。正式にはITU-T T.81 / ISO/IEC 10918-1(1992年採択)に規定されており、写真やカラー画像の保存・配信で広く使われています。ファイル拡張子は .jpg / .jpeg、MIMEタイプは image/jpeg が一般的です。

歴史と位置づけ

1980年代末から1990年代初頭にかけて、画像圧縮の専門家グループが設立され、1992年にDCT(離散コサイン変換)を基盤とする圧縮方式が標準化されました。以降、JPEG(ここで述べる従来のJPEG)はウェブやデジタルカメラで事実上の標準となりました。後継・派生規格としては、JPEG 2000(ウェーブレットベース、ISO/IEC 15444)、JPEG-LS(ロスレス向け)、そして近年のJPEG XLなどがありますが、従来JPEGの普及度は依然高いです。

基本的な圧縮の仕組み

  • 色空間変換:まずRGBを輝度・色差成分(一般にYCbCr)へ変換します。人間の視覚は色差(Cb, Cr)に対して感度が低いので、ここから効率化が可能です。
  • サブサンプリング:色差を水平方向・垂直方向に間引いて容量を減らす(例:4:4:4, 4:2:2, 4:2:0)。多くのデジタルカメラやウェブ用途では 4:2:0 が一般的です。
  • ブロック分割とDCT:画面を8×8ピクセルのブロックに分け、各ブロックに対して離散コサイン変換(DCT)を適用し、空間領域の情報を周波数成分へ変換します。
  • 量子化:DCT係数を量子化(割り算・丸め)して多くの高周波成分を小さく、ゼロ化します。量子化テーブルで圧縮度(=画質)を調整します。ここが「不可逆(ロス)」の主要因です。
  • 符号化:ジグザグ順で係数を列挙し、ランレングスやハフマン符号(標準ではハフマン符号が広く使われる)などでエントロピー符号化して最終的なビット列を作ります。

ファイル構造(簡易)

JPEGファイルはバイナリマーカー列で構成されます。主なマーカー例:

  • SOI(Start Of Image、0xFFD8)
  • APP0(JFIF)やAPP1(Exif)などのアプリケーションマーカー:画像のメタデータやプロファイルを格納
  • DQT(Quantization Table)やSOF0(Start Of Frame)など、圧縮に必要な情報
  • DHT(Huffman Table)、SOS(Start Of Scan)
  • EOI(End Of Image、0xFFD9)

Exif(カメラ情報)やICCプロファイル、XMPなどのメタデータはAPPセグメントに格納されるため、編集やアップロードでメタデータが削除されると撮影情報や向き(Orientation)が失われることがあります。

バリエーション:ベースライン/プログレッシブ/ロスレス等

  • ベースライン(Sequential):一般的な方式。上から下へブロック単位でスキャンして記録するため復号が単純で互換性が高い。
  • プログレッシブ:複数パスで画像を段階的に復元する方式。最初は粗い全体像、次に細部、という形で読み込めるため、低帯域での表示体験が向上します。ウェブ表示では依然有効です。
  • ロスレスモード(原標準の予測型):初期JPEG規格には予測に基づくロスレスモードも定義されていますが、汎用的にはあまり使われません。ロスレス専用のJPEG-LS(ISO/IEC 14495)やJPEG 2000のロスレスモードがあるため、用途に応じてそちらが選ばれることが多いです。
  • エントロピー符号化の選択:標準ではハフマン符号と算術符号の両方を規定しますが、歴史的に算術符号は特許問題で普及が限定され、実際の実装ではハフマンが主流でした。

長所・短所

  • 長所
    • 写真や複雑なグラデーションを効率よく圧縮できる(高圧縮比でも見かけの劣化が少ない)
    • 広い互換性(ブラウザ、OS、カメラなどの幅広いサポート)
    • ファイルサイズの調整が容易(画質パラメータで調整)
  • 短所
    • 不可逆圧縮のため繰り返し保存で画質劣化(再圧縮アーティファクト、ブロックノイズ)が蓄積する
    • エッジやテキスト、平坦な領域に対する劣化が目立ちやすい
    • 現代の新フォーマット(WebP、AVIF、JPEG XL)に比べ効率が劣る場合がある

運用上のポイント(実務的アドバイス)

  • 高品質を残したい場合はRAW→TIFF→編集で最後にJPEG化。マスターはロスレスで保存する。
  • Web配信では品質(quality)値を 75〜85 程度に設定すると視覚的に良好でファイルサイズも小さくなります(画像の内容に依存)。
  • プログレッシブJPEGは表示の“見かけの高速化”に有利だが、互換性は今ではほぼ問題にならない。
  • メタデータ(Exif)を保持するか削除するかは用途次第。プライバシーやファイルサイズの都合で削除するサイトも多い。
  • 再圧縮を避けるため、リサイズやトリミングは原寸の非圧縮/ロスレスデータで行い、その後一度だけJPEGへエクスポートする。

最適化ツールと実践例

  • libjpeg / libjpeg-turbo:古典的エンコーダの実装。libjpeg-turboは速度に優れる。
  • mozjpeg:Mozilla が開発したエンコーダで、品質を損なわずにファイルサイズを小さくする改善を含む。
  • jpegoptim、jpegtran:ロスレス最適化やサブサンプリング変更などに便利。
  • ImageMagick や FFmpeg:バッチ変換やリサイズに広く利用される。

今後の展望:JPEGと代替フォーマット

JPEGは互換性と実用性で強みを持ち続けますが、圧縮効率や機能面では新世代フォーマットの台頭が進んでいます。WebP(Google)、AVIF(AV1ベース)、JPEG 2000、JPEG XL などが候補です。特にAVIFやJPEG XLは同等画質でかなり小さいファイルサイズを実現でき、メタデータやアニメーション、ハイダイナミックレンジなどのサポート面でも優れています。ただし、互換性(ブラウザ・SNS・アプリのサポート)やエンコード時間、ツールチェーンの成熟度を考慮して選択する必要があります。

まとめ

JPEGは「写真データを効率的に配信・保存する」ための古典かつ現役の規格です。技術的にはDCTベースの不可逆圧縮が中核で、サブサンプリングや量子化の取り扱いが画質と容量のトレードオフを決めます。用途に応じて品質設定やプログレッシブの有無、メタデータの扱い、最適化ツールを選ぶことで、視覚的に満足できる画質を維持しつつファイルサイズを削減できます。新しいフォーマットも注目ですが、互換性の高さからしばらくはJPEGが主流であり続けるでしょう。

参考文献