HEIFとは何か?構造・コーデック・利点・課題と実務運用の完全ガイド

HEIFとは — 概要

HEIF(High Efficiency Image File Format)は、静止画や画像シーケンスを効率的に格納するためのファイルフォーマット規格です。正式には ISO/IEC 23008-12(MPEG)として標準化され、ISOベースのメディアファイルフォーマット(ISOBMFF、MP4と同系)をコンテナとして利用します。単一のファイル内に複数の画像、サムネイル、メタデータ、非破壊編集情報などを持てる点が特徴で、画像コーデックとして主にHEVC(H.265)が用いられる場合は「HEIC」と呼ばれることが多く、スマートフォン撮影の高効率保存形式として普及しました。

技術的な構造と仕組み

HEIFは「コンテナ」形式であり、画像データ自体は特定のコーデックでエンコードされます。コンテナはISOBMFFをベースにしており、内部は「item(画像アイテム)」として画像やサムネイル、Exif/XMP等のメタデータを格納します。主要な概念は次の通りです。

  • アイテム(Item):1枚の画像やサムネイル、メタデータ等を表す単位。
  • プロパティ(Properties):カラー情報、アルファチャンネル、クロップや回転などアイテムに関連する属性。
  • 参照(References):あるアイテムが別のアイテムを参照する仕組み。非破壊編集や派生画像(derived images)で使われる。
  • イメージシーケンス:アニメーションやライブフォト、バースト写真の保存に対応。

コーデックと拡張子の違い(HEIF / HEIC / AVIF等)

HEIF自体はコンテナの仕様であり、画像をどうエンコードするか(コーデック)は別です。代表的な組み合わせは次の通りです。

  • HEVC(H.265)を用いたHEIF:.heif / .heic(特にAppleが採用して以降、.heicが広く使われる)
  • AV1を用いたHEIF(AVIF):.avif(AOMediaのAV1を画像用途にしたフォーマット、HEIFベース)
  • JPEGやAVC(H.264)など、他のエンコーダを入れることも技術的には可能

一般に「HEIC」はHEVCエンコードのHEIFファイルを指す商業的な呼称で、AppleのiOS/macOSで導入されたことで広まっています。一方「AVIF」はHEIFコンテナを利用しますが、AV1コーデックを用いる別規格として注目されています。

HEIFの主な特徴・利点

  • 高圧縮効率:同等画質でJPEGよりもファイルサイズを小さくできることが多い(HEVCやAV1の性能による)。
  • 複数画像の格納:一つのファイルに複数フレーム(シーケンス)、サムネイル、深度マップ、アルファチャンネル等を含められる。
  • 非破壊編集のサポート:編集操作(クロップ、回転、フィルタ等)を“操作履歴”や参照として保存し、原画像を損なわずに再現可能。
  • 豊富なメタデータ:Exif、XMP、IPTCなどを格納しやすい。カラー管理(ICCプロファイル)や高ビット深度(10bitやそれ以上)にも対応。
  • 効率的なサムネイル/プレビュー管理:異なる解像度の派生画像を同一ファイルに格納でき、読み込み最適化が可能。

注意点・デメリット

  • 互換性の問題:特にウェブや古いアプリケーションではネイティブ対応が乏しい。ブラウザ普及は限定的(AVIFは急速に普及しているが、HEICはブラウザサポートが限定的)。
  • 特許とライセンス:HEVCを使う場合、HEVCコーデックには特許プールが存在し、商用利用ではライセンス料が発生する可能性がある。これが採用の障壁となっている。
  • 処理負荷:高度なコーデックはエンコード・デコードに計算資源を要し、古いデバイスでは遅延や電力消費が問題になる場合がある。
  • ツールチェーン依存:オープンソースのデコーダやエンコーダ(libheif, libde265, x265, libaomなど)を組み合わせる必要があり、ビルドやライセンス管理が煩雑になり得る。

実装状況と対応状況(OS・ブラウザ・ツール)

主なサポート状況は次のとおり(状況は変化するため定期的な確認が必要です)。

  • Apple:iOS 11 / macOS High Sierra以降でネイティブ対応(HEICを標準の写真保存形式として採用)。
  • Windows:Windows 10/11では「HEIF Image Extensions」(マイクロソフトストア経由)を入れることでサポート。ただし追加のコーデックパックやライセンスが必要な場合がある。
  • Linux:libheif等のライブラリを用いることで読み書き可能。ディストリビューションやアプリの対応は様々。
  • ブラウザ:SafariはHEICをサポートするが、Chrome/FirefoxはHEICのネイティブサポートが限定的。AVIFやWebPの方がブラウザでの普及が進んでいる。
  • ツール:libheif、ImageMagick(libheif対応ビルド)、ffmpeg(ビルドオプション次第で対応)、Photoshopはプラグインやバージョンで対応。

HEIFと他フォーマットの比較(JPEG・WebP・AVIF)

  • JPEG:互換性は高いが非効率。HEIF(HEVC/AV1)に比べると同等画質でファイルサイズが大きくなる傾向。
  • WebP:Googleが開発したフォーマットで、ロスレス/ロス圧縮に対応。Web用途では広く使えるが、HEIFが持つ複数画像や非破壊編集といったコンテナ機能では劣る。
  • AVIF:AV1コーデックを使うHEIFベースの画像形式。HEVCの特許課題を回避しつつ高効率を実現する目的で注目されており、ブラウザ対応も急速に進んでいる。

実務での活用と運用上のポイント

  • 互換性確保:一般公開用(ウェブやメール)では、受信側が対応していないケースを想定しJPEGやWebPのフォールバックを用意する。
  • 変換と保存:撮影デバイス側でHEICを採用する場合、クラウド処理やサーバ側で自動変換(AVIF/WebP/JPEG)して配信する運用が現実的。
  • メタデータ管理:ExifやXMPを正しく保存・引き継ぐツールを使う。変換時にメタデータが失われることがあるため注意。
  • ライセンス確認:商用サービスでHEVCベースのHEIFを生成・配布する場合は特許・ライセンスの影響を確認する。

よくある誤解と注意事項

  • 「HEIF=HEVC」ではない:HEIFはコンテナ仕様であり、HEVCは可変のコーデック。混同しないこと。
  • 「画質が常に良い」わけではない:圧縮効率は設定・実装に依存する。高圧縮設定だとアーティファクトが出る場合もある。
  • ブラウザでそのまま表示できるとは限らない:ウェブ用途ではAVIFやWebP、あるいはJPEGに変換して配信するのが現実的。

まとめ

HEIFは、画像保存における「機能豊富なコンテナ」として多くの利点を持ちます。高効率な圧縮、複数画像やメタデータの一元管理、非破壊編集のサポートなど現代の画像処理ニーズにマッチしています。ただし、可搬性・互換性、特許・ライセンス、デコード負荷といった実務的課題も抱えているため、用途に応じた選択(HEIC/AVIF/JPEG/WebPの使い分け)と運用ルールの策定が重要です。

参考文献