プログレッシブスキャン完全ガイド:フィールドとフレームの違いからデインターレース・現代映像フォーマットまで徹底解説

はじめに — 「プログレッシブスキャン」とは何か

プログレッシブスキャン(progressive scan、一般に「プログレッシブ」と表記)は、映像の走査方式の一つで、1フレームあたりの全ての走査線(ピクセル行)を順番に一度に書き込む方式を指します。これに対して、従来のテレビ放送などで広く使われてきたインターレース(走査)方式は、1フレームを奇数ライン(フィールド)と偶数ライン(フィールド)に分け、順次表示することで1フレームを構成します。

基本原理:フィールド vs フレーム

映像の最小単位には「フィールド」と「フレーム」があります。プログレッシブでは1フレーム=全行(例えば1080行)の順次スキャンであり、フレームの全情報が同一時刻の瞬間を表します。一方インターレースは1フレームを2つのフィールド(奇数行と偶数行)に分け、時間差を持って表示するため、1フレームの情報が実際には2回のスキャン(2つの時間点)で得られます。

歴史的背景と採用理由

インターレースはアナログCRT時代に、帯域幅を節約しつつちらつきを抑えるために採用されました。当時の回線・放送帯域では毎秒フレーム数を高くするのが難しく、フィールドを倍にして基本的な画面更新(ちらつき低減)を確保する妥協策がインターレースです。

一方、コンピュータディスプレイや液晶(LCD)、有機ELなどのデジタルパネルは元来プログレッシブ表示を行うため、デジタル映像の普及、HD/フルHD/4Kなど高解像度化、動画圧縮技術や伝送回線の進歩により、プログレッシブ方式が標準化・主流化してきました。

映像フォーマットの表記と例

  • 「p」はプログレッシブ(例:720p、1080p、2160p)、数字は垂直解像度(行数)を示す。
  • 「i」はインターレース(例:480i、1080i)。i表記は通常フィールドレートを含意(例:1080i/60 は 60 フィールド/秒 = 約30フレーム/秒)することが多い。
  • 一般的な組合せ:
    • 480p(SDのプログレッシブ)
    • 720p(HD、50/60pが一般的)
    • 1080i(HDインターレース、放送でよく使用)
    • 1080p(フルHDプログレッシブ、Blu-rayやストリーミング)
    • 2160p(4Kプログレッシブ)

プログレッシブの利点

  • 鮮明な静止画表示:全走査線が同一時刻を表すため、静止画やテキストなどのエッジがシャープに表示される。
  • 動きの処理が容易:同一フレーム内に全情報があるため、モーション補償やエンコード、デコード、スローモーション処理が単純で効率的。
  • デインターレースが不要:インターレース固有の「コーミング(櫛状ノイズ)」や「垂直ジッタ」などのアーティファクトが発生しない。
  • ディスプレイとの相性:LCDやOLEDなどの現代的ディスプレイはプログレッシブネイティブなので、変換による画質劣化が少ない。

欠点・課題(およびインターレースとの比較)

  • 帯域要件:同じ「見かけの」時間分解能を得るには、プログレッシブはインターレースに比べてデータ量(帯域)が多くなる場合がある。例えば、30fpsのプログレッシブと60i(60フィールド=30フレーム)の比較では、同等のフレーム数だが、インターレースは時間分解能をフィールド単位で稼いでいることがある。
  • モーションの見え方:映画の24pなど低フレームレートのプログレッシブは「フィルム的な」滑らかさと引き換えに「ジャダー(カクつき)」を感じることがある。これを逆に「映画らしさ」と評価することもある。

デインターレース(インターレース素材の処理)

放送や古い映像ソースでインターレース素材をプログレッシブ表示するため、あるいは編集目的でインターレースを除去する工程を「デインターレース(deinterlacing)」といいます。主な手法は以下の通りです。

  • Weave(織り合わせ):2つのフィールドを織り合わせて一枚のフレームにする。動きがない部分では高品質だが、動きがあるとコーミングが出る。
  • Bob(ボブ):各フィールドから独立したフレームを作る(垂直補間を行う)。動きのある場面ではコーミングを避けられるが、垂直解像度が半分になる感覚が出る。
  • Motion-adaptive(動き適応型):シーンの各領域で静止/動きを判定し、最適なデインターレース手法を使い分ける。
  • Motion-compensated(動き補償型):フレーム間の運動ベクトルを推定して高品質に補間するが、計算コストが高い。

プログレッシブ素材の伝送技術・ワークフロー上の注意

  • PsF(Progressive segmented Frame):ブロードキャスト等でプログレッシブフレームをインターレース伝送路に乗せるため、1フレームを2つのフィールドに分割して送る手法。受信側はこれを再結合してプログレッシブに戻す。
  • 24p→60iの変換(3:2プルダウンなど):映画撮影の24fps素材をテレビ(NTSC系の59.94 fields/s)へ送る際の変換で、元に戻すときに正確な逆変換が必要。
  • コーデックの取り扱い:H.264/HEVCなどはインターレースとプログレッシブの両方を扱えるが、インターレース素材は圧縮効率やエンコードの複雑さに影響する。

実用例と現場での選択基準

映像制作や配信でプログレッシブを選ぶか否かは用途で決まります。Webストリーミング、ゲームキャプチャ、PC画面収録、映画や高品質コンテンツ配信ではプログレッシブが標準です。放送(特に従来の地上波や衛星放送)ではインターレースが残る場合がありますが、HD世代以降は720p・1080pの採用やストリーミングの普及でプログレッシブ化が進んでいます。

センサー技術と「プログレッシブスキャン」

カメラ側でも「プログレッシブスキャン方式のイメージセンサー(プログレッシブスキャンCCD/CMOS)」という表現があります。これはセンサーが各ラインを同一タイミングで読み出せる方式(ローリングシャッターやグローバルシャッターの違いは別問題)を指し、インターレース方式の古いCCDとは異なり、歪みやタイミングに関するメリットがあります。

まとめ — いつプログレッシブを選ぶか

プログレッシブスキャンは、1フレーム全体を同一時刻で取得・表示する方式で、静止画の鮮明さや映像処理のしやすさ、現代ディスプレイとの適合性から、ほとんどのデジタル映像ワークフローで推奨されます。インターレースは歴史的理由と帯域制約から生まれた方式で、過去資産や一部放送ワークフローでは今なお関与しますが、撮影・編集・配信の新規ワークフローではプログレッシブが主流です。

参考文献