Ali Akbar Khanのサロードをレコードで楽しむ:聴き方のポイントと厳選6枚のおすすめ盤ガイド
はじめに — アリ・アクバル・カーンとは
アリ・アクバル・カーン(Ali Akbar Khan, 1922–2009)は、ヒンドゥスターニー古典音楽を代表するサロード奏者の一人です。名師アラ・ウッディーン・ハーン(Allauddin Khan)の直系門弟として厳格な伝統を受け継ぎつつ、20世紀後半に欧米での公演・教育活動を通じてサロードとラガ音楽の魅力を世界に広めました。演奏は深い情感と構築的な即興(alap〜jor〜gat)で知られ、尺幅のあるアラープ(導入部)や高度なリズム感で聴き手を惹きつけます。
このコラムの目的
ここでは「レコード(アナログ盤)で聴くことを前提」に、アリ・アクバル・カーンのおすすめ盤を、音楽的・歴史的な観点から深掘りして紹介します。録音ごとに「何が聴けるか」「聴きどころ」「入門向けか熟練者向けか」といった観点で解説します。レコードの保存や再生方法そのものの解説は行いません。
聴き方の基本:アリ・アクバル・カーン演奏のポイント
- 序盤(Alap)の深さを味わう:無拍の即興でラガの核(音階・ムード)が展開されます。音の間やフレーズの導入に注目すると、師から受け継いだ伝承の「形」が見えてきます。
- テンポ遷移に注意:Alap から Jor(リズム感が出る無拍部分)、そして Gat(定旋律+打楽器伴奏)へとドラマが進みます。各部分の対比が演奏の魅力です。
- タブラとの対話:伴奏のタブラ奏者(例:Alla Rakha など)とのリズムの応酬は、演奏のクライマックスを作ります。タブラのソロ(Kaida・Relaなど)や反復の取り回しに注目しましょう。
- 録音年代により表現が違う:1950〜60年代のハイ・トーンで表現的な演奏と、1970年代以降の落ち着いた長尺演奏の差を楽しめます。
おすすめレコード(厳選6枚)
以下は「音楽的に聴きごたえがあり、アルバムとしてまとまりが良い」盤を中心に選びました。入手しやすさや代表性を考慮しています。盤によってはオリジナル・プレスや再発盤で音質・選曲が異なりますので、気になる盤は盤情報(録音年・参加奏者)を確認して入手してください。
1) 代表的な長尺演奏盤(ライブ/スタジオを問わず)
内容:1曲あたり長尺(20分〜)でアラープからガットまでをたっぷりと味わえる演奏が収録された盤。アリ・アクバル・カーンの表現、構築力、タブラとの応酬を一番よく感じられるタイプのレコードです。
聴きどころ:音の間、動機の展開、テンポ上昇のタイミング、タブラのソロでの創造性。初めて彼を深く聴くならまず1枚これを。
適正:中級〜上級リスナー(長尺に慣れていると集中して楽しめます)
2) 朗々とした朝夕のラガを集めた盤(Morning/Evening Ragas)
内容:朝のラガ・夕暮れのラガといった時間帯に対応した選曲で、短めの演奏が複数収録されている編集盤やオリジナル盤。ラガごとのムードの違いを手早く比較できるので入門にも向きます。
聴きどころ:ラガごとの典型音・フレーズの違い、サロードの音色変化。短い演奏でも構成が凝縮されています。
適正:入門〜中級(ラガの違いをつかむのに最適)
3) 伝統的なリパートリー(Bhairavi・Yaman 等を収めた古典盤)
内容:インド古典音楽の定番ラガ(Bhairavi、Yaman、Darbariなど)を丁寧に演奏したアルバム。曲目に馴染みがあるため、アリ・アクバル流の解釈を比較しやすいです。
聴きどころ:伝統的フレーズ(pakad)の取り回し、装飾音(gamaka)の使い方、リズムの切れ味。
適正:入門〜中級
4) 協演・クロスオーバー作品(西洋音楽家との共演盤)
内容:ヴァイオリンやチェロといった西洋楽器の演奏家と共演したアルバムや、作曲的要素を加えた実験的な録音。伝統演奏とは違う側面を知るには格好の一枚です。
聴きどころ:即興の枠組みが変わったときの反応、異文化間の対話の仕方、サロードの音色の可能性。
適正:中級〜上級(伝統との比較材料として)
5) ライブ録音(アリ・アクバル・カレッジ等での公演)
内容:教育・文化センターでのコンサート録音は、舞台の臨場感や演奏者の熱の入り方がストレートに伝わります。場面ごとのテンポや展開が柔軟で、一期一会の魅力が強いのが特徴です。
聴きどころ:客席の反応、即興の拡張、演奏者同士の呼吸。何度聴いても新しい発見が出てくるのがライヴの醍醐味です。
適正:中級〜上級
6) ベスト/コンピレーション盤(入門用)
内容:名曲・代表的ラガを短めに収めた編集盤。入門時に「どのラガが自分に合うか」を探すのに便利です。初めてアリ・アクバル・カーンをレコードで聴くなら、まずこうした編集盤から入るのが手堅いです。
聴きどころ:短時間で多様なラガ・演奏スタイルを比較できる点。
適正:入門
盤ごとの「聴き分け」と選び方のコツ
- 演奏長尺派か短め派か:じっくりラガの世界に浸りたいなら長尺盤、気軽に楽しむなら短めのナンバーを集めた編集盤を。
- 年代での違い:1950〜60年代の録音はライブ感と息づかいが濃厚、1970年代以降は音質・録音技術が向上しながらも落ち着いた解釈が多いです。
- 伴奏者を確認する:タブラ奏者や同行楽器が誰かで演奏の色合いが変わります(例:Alla Rakha のような名タブラ奏者が参加している盤はリズムの構築が特に優れています)。
- ライナーノートを読む:ラガの説明や演奏者の解説は理解を深めます。オリジナル盤のブックレットや再発盤の解説は貴重です。
実際のレコード選び:検索キーワード例
レコード店やオンライン市場で探す際のキーワード例:
- 「Ali Akbar Khan sarod」
- 「Ali Akbar Khan live」
- 「Ali Akbar Khan Raga [ラガ名]」
- 「Ali Akbar College of Music recordings」
- 「Ali Akbar Khan compilation / best of」
これらで検索すると、オリジナルLPや再発CD/LP、コンピレーションが見つかります。盤のリリース年・録音年・参加奏者を確認してから入手するのが良いでしょう。
聴きどころの具体例(ラガ別・フレーズで注目する点)
- Yaman 系(夜のラガ):安定した高域の扱い、リズムが入ってからの旋律の展開。
- Bhairavi 系(終曲やアンコールにも使われることが多い):装飾音や情感の深さ、歌うようなフレージング。
- Jog / Darbari 系(深い情感を持つラガ):低域の密度、持続音の作り方、間の取り方。
入手のヒント(音源の種類と信用できる情報源)
- オリジナルLPは音の温度感や演奏当時の雰囲気が魅力。だが盤質や針飛び問題を確認。
- 再発盤や公式CD/デジタル配信は音質補正がされていることが多く、ラフなノイズが気になる人には向く。
- ディスコグラフィ情報は Discogs や AllMusic、公式のアリ・アクバル・カレッジの資料が信用できます(録音年・奏者情報の確認に便利)。
聴き進めるためのおすすめ順(初心者→深掘り)
- まずは編集盤(Best/Compilation)で代表曲群に触れる
- 朝夕のラガを集めた短めの盤でラガごとの違いを掴む
- 長尺の一曲物(アルバム1曲のような盤)でラガの構造を体験
- ライヴ盤や教育的録音でより自由な即興/相互作用を楽しむ
- 興味が湧いたら年代別に揃え、解釈の変遷や伴奏者の違いを比較する
最後に — 聴取体験を深めるために
アリ・アクバル・カーンの演奏は「一回で全てを理解する」タイプの音楽ではありません。レコード(あるいはCD)を繰り返し聴くことで、短いフレーズの変化や即興の論理が少しずつ見えてきます。気に入ったラガや盤が見つかったら、そのラガを別の奏者(シタール、ボーカル、他のサロード奏者)で比較すると理解が大きく深まります。
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参考文献
- Ali Akbar Khan — Wikipedia
- Ali Akbar Khan — AllMusic(ディスコグラフィと解説)
- Ali Akbar Khan — Discogs(詳細なリリース情報検索)
- Ali Akbar College of Music — 公式サイト(教育・録音情報)


