フレームレートの基礎と実務ガイド:fpsの違いと露光・同期が映像の滑らかさを決める
フレームレートとは — 基本定義
フレームレート(frame rate, fps)は、単位時間あたりに表示または記録される静止画像(フレーム)の数を表す指標で、通常は「fps(frames per second)」や「Hz(ヘルツ)」で表記されます。例えば「30 fps」は1秒間に30枚の静止画が連続して表示されることを意味し、これにより視覚的に連続した動き(動画)が再現されます。
技術的な意味合い:時間的サンプリングとしてのフレームレート
映像は時間方向の離散サンプリングです。フレームレートはアナログの連続的な動きをどれだけ細かくサンプリングするかを決めるパラメータであり、フレーム間隔(フレーム時間)は 1000 / fps ミリ秒で表されます(例:60 fps → フレーム時間 ≒ 16.67 ms)。フレームレートが高いほど時間解像度が高まり、速い動きの再現性やスローモーションの生成が容易になります。ただし、高フレームレートはデータ量・処理負荷・帯域幅を増やします。
よく使われるフレームレートと歴史的背景
- 24 fps — 映画フィルムの標準。いわゆる「シネマティック(映画的)な見え方」。
- 25 fps — PAL系テレビ(ヨーロッパなど)の標準(電力周波数50 Hzに由来)。
- 29.97 fps / 59.94 fps — NTSCカラー放送の実効フレームレート(正確には30/60 fpsではなく30000/1001や60000/1001)。
- 30 fps — インターネット動画や一部のテレビでよく使われる丸め値。
- 48 fps, 60 fps, 120 fps, 240 fps — 高フレームレート(HFR)。スポーツ、生中継、ゲーム、スローモーション撮影などに利用。
インターレース(走査方式)とフィールド
従来のテレビ方式では「インターレース」が使われ、1フレームを2つのフィールド(奇数ラインと偶数ライン)に分けて表示しました。例えば「60i」は1秒間に60フィールドを表示し、結果的に30フレーム相当の画像を作ります。インターレースは帯域効率を高める利点がありますが、動きのある場面での不連続(フィールド間のズレ)やデインターレース処理の必要性を生みます。現在は多くがプログレッシブ(逐次走査)に移行しています。
人間の視覚と「滑らかさ」の感じ方
「滑らかさ」の感覚は単純にfpsに比例するわけではありません。低いfpsでも十分に滑らかに見える条件、高fpsでも違和感が出る条件があります。視覚が感じる流暢さには次の要素が関係します:
- フレームレート自体(サンプリング密度)
- 各フレームの露光時間(モーションブラーの量)— 映画では「シャッター角180°相当」のルールがよく用いられ、露光時間 ≒ 1/(2 × fps)
- ディスプレイのリフレッシュ方式(サンプル&ホールド方式かインパルス表示か)と残像
- フレームタイムの一貫性(フレーム間隔のばらつき → スタッターやコマ落ち感)
シャッター速度とシャッター角—動きの見え方を決める要素
カメラ撮影ではフレームレートとともに「露光時間(シャッター速度)」が重要です。フィルム由来の概念に「シャッター角」があり、露光時間 = シャッター角 / 360 ÷ フレームレート です。例えば180°シャッターでは露光時間は約1/(2 × fps)。短い露光時間(高速シャッター)は被写体がシャープに写る一方で「カクついた」印象を与え、長い露光時間は動きにブレ(モーションブラー)が生じ自然な連続感を生みます。映像制作ではこれらのバランスで「映画っぽさ」や「滑らかさ」を演出します。
再生環境:ディスプレイのリフレッシュと同期
フレームレートはディスプレイのリフレッシュレート(Hz)と整合する必要があります。フレームレートがリフレッシュの倍数・除数になっていないと、ティアリング(画面分断)、ジャダー(カクつき)、フレームドロップなどが発生します。ゲーム分野ではVSync、G-Sync、FreeSyncといった同期技術があり、これらはGPUとディスプレイを合わせてティアリングを防ぎ、入力遅延やフレームスキップを低減します。
映像変換とプルダウン(pulldown)の話
異なるフレームレート間で映像を再生するには変換(フレームレート変換)が必要です。代表的なのが「3:2プルダウン」で、24 fps(映画)を59.94/60 Hzのテレビで再生する際に用いられます。変換には単純複製、フレーム補間(光学フローなど)やモーション補償、ドロップ/挿入の組合せなどがあります。変換方法次第で「ジャダー」や「ホロースポッティング(補間アーチファクト)」が発生することがあります。
高フレームレート(HFR)の利点と課題
- 利点:速い動きを滑らかに、スポーツやゲームで視認性向上、スローモーション作成のための高速度撮影。
- 課題:映画的な「ブレ感」が失われることがあり、観客に違和感を与える場合がある(2000年代後半〜2010年代に話題になった)。またデータ量が増え、撮影機材・編集・配信の負荷とコストが上がる。
ゲームにおけるフレームレートとレイテンシ
ゲームではフレームレートが入力遅延(ラグ)に直結します。高いfpsは表示までの遅延を短くし、プレイヤーの入力と画面反応の一貫性を高めます。ただし、重要なのは平均fpsだけでなく「フレーム間隔の安定性(フレームタイムのばらつき)」です。瞬間的なフレーム遅延や不均一なフレームタイムが「スタッター」として体感されやすいです。
コーデック・帯域と容量の影響
フレームレートを上げると一般に映像データ量が増えます。動画圧縮は時間方向の冗長性(予測フレーム、動きベクトル)を利用しますが、高速で複雑な動きは圧縮効率を下げ、同等画質を保つためにビットレートを上げる必要があります。ストリーミングや放送では、フレームレートと解像度・圧縮品質のバランスが設計上の重要課題です。
計測と表現:fpsとms(フレーム時間)
技術者はしばしば fps の代わりに「フレーム時間(ms)」で応答性を議論します。例:60 fps = 約16.67 ms、30 fps = 約33.33 ms。ゲームやリアルタイム処理ではこの「何ミリ秒で1フレーム作れるか」が鍵です。また平均fpsだけでなく最小fpsや1% low(下位1%のフレームレート)なども品質指標として用いられます。
実務的なガイドライン(撮影・配信・制作の観点から)
- 映画風:24 fpsかつシャッター角180°(露光時間 ≒ 1/(2×24) ≒ 1/48秒)。
- テレビ・ネット配信用:用途に応じて25/30/50/60 fps を選択。スポーツや動きの多いコンテンツは60 fps推奨。
- スローモーション:撮影は再生フレームレートの4倍・8倍などの高fpsで行い、再生時に低fpsで再生する(例:120 fpsで撮影→30 fpsで再生=4×スローモーション)。
- 配信やストリーミングではビットレートの確保を計画。高fpsを選ぶなら解像度や圧縮設定とのトレードオフを検討。
- インターレース素材は可能ならデインターレースしてプログレッシブ化しておくと後処理が楽。
よくある誤解と注意点
- 「高fps=常に良い」ではない:映画の表現意図や視覚の慣習を考慮する必要があります。
- 「fpsとHzは完全に同義」ではない:fpsはコンテンツのフレーム数、Hzは表示装置のリフレッシュ数。両者が一致することが理想。
- 「高fpsでシャープに撮れば良い」という単純な話でもなく、露光時間やモーションブラー、ディスプレイ特性との組合せで最終的な見え方が決まります。
まとめ
フレームレートは映像の時間的解像度を決める根幹のパラメータであり、撮影・編集・配信・表示の各段階で総合的に設計する必要があります。数値そのもの(24/30/60など)も重要ですが、シャッター・露光、ディスプレイのリフレッシュ・方式、フレームタイムの安定性、圧縮による帯域といった関連要素とのバランスが、最終的な視覚体験を左右します。制作目的(映画的表現、スポーツ中継、ゲーム、スローモーションなど)に応じて最適なフレームレートとワークフローを選ぶことが重要です。
参考文献
- Frame rate — Wikipedia
- Shutter speed — Wikipedia
- Interlaced video — Wikipedia
- NTSC and frame rates — Wikipedia
- Pulldown — Wikipedia (例:3:2 pulldown)
- Refresh rate — Wikipedia
- Video interpolation(フレーム補間) — Wikipedia
- Higher frame rate — Wikipedia(HFRに関する解説)


