ステファン・グラッペリ完全ガイド:Hot Club期からライヴ盤まで、時代別おすすめレコードと聴き方のコツ
ステファン・グラッペリを知る前に
ステファン・グラッペリ(Stéphane Grappelli, 1908–1997)は、ジャズ・ヴァイオリンを代表する名手の一人です。ジプシー・ジャズのギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトとのクインテット(Quintette du Hot Club de France)での活動を通じて世界的に知られるようになり、以後、クラシックやモダン・ジャズの名手たちと共演し続けました。本稿では、レコード(LP/CD)で聴くべきおすすめ作品を時代や特色ごとに分けて深掘りし、各盤で注目すべきポイントと入手のヒントを紹介します。
おすすめレコード(時代別・テーマ別)
1) Hot Club期(ジャンゴ・ラインハルトとの名演)
なにより最初に聴くべきは1930年代のHot Club録音群です。グラッペリの語法・音色・即興の語彙が最も純粋に聴ける時代で、ジャンゴのギターとの掛け合い、スウィングの躍動感、リズムの軽やかさが魅力。
- 代表曲:"Minor Swing"、"Nuages"、"Djangology"。これらは何度も再録・編集されているので、まとまったコンピレーションで聴くのがおすすめです。
- おすすめ盤の選び方:1934–1939のHot Clubセッションを網羅した“Complete Hot Club”系のコンピレーション(CDボックスやリマスター盤)を探すと良いです。音質は近年のリマスターに軍配が上がりますが、オリジナルLPの雰囲気を楽しみたいコレクターも少なくありません。
- 聴きどころ:グラッペリのヴィブラート、弓使いによるフレーズの伸び、ジャンゴのソロからリズムへ戻る流麗さ。デュオではなく「クインテット」のアンサンブル感も注目。
2) 戦後〜中期(小編成でのリーダー作や再評価の時代)
戦後以降、グラッペリはさまざまな小編成やビッグネームとの共演で活動の幅を広げます。ここでは彼の歌心と柔軟な即興性が、よりモダンなジャズ文脈でも生きることを示す録音を挙げます。
- 特徴:よりアメリカン・ジャズやポピュラーなレパートリーを取り上げた演奏が増え、ヴァイオリンが主旋律を歌う“歌うソロ”が際立ちます。
- 聴きどころ:バラードでの余裕あるフレージングや、標準曲(スタンダード)をどのように自分の表現にしているかを比べると面白いです。
3) デュエット名演:イェフディ・メニューイン(Yehudi Menuhin)との共演
クラシックの名ヴァイオリニスト、イェフディ・メニューインとの共演は異色かつ深い音楽対話の記録です。クラシック出身の奏者との共演でありながら、グラッペリはジャズ的なスウィング感を失わず、二人のヴァイオリンが互いの語りを高め合います。
- おすすめ盤の趣旨:デュオや小編成での共演録音を探してください。クラシック的なニュアンスとジャズ的な即興が混じり合う瞬間が聴きどころです。
- 聴きどころ:二人の音色の違い(クラシック的なウォームさとジャズ的な軽やかさ)が対比となり、同じメロディでもまったく異なる表現が聴けます。
4) 1970年代以降のコラボレーション/ライヴ録音
70年代以降、グラッペリは欧米のトッププレイヤーと多数共演し、ツアーやジャズフェスでのライヴ録音も数多く残しました。この時期の演奏は円熟味があり、音楽的な余裕が魅力です。
- おすすめタイプ:モントルー・ジャズ・フェスなどフェス/ライヴ録音、オスカー・ピーターソンなどとのセッション盤。
- 聴きどころ:ライヴではオーディエンスとの一体感や即興の飛躍が記録されやすく、スタジオ録音とはまた違った興奮があります。
5) 入門コンピレーション/ベスト盤
初めてグラッペリを聴く人には、年代を横断するベスト盤や「ベスト・オブ」コンピレーションが便利です。代表的なナンバーをまとめて聴くことで、彼の演奏スタイルの共通項と変化をつかめます。
- 選び方:複数時代の曲を収録しているもの(Hot Club期と1970年代の演奏が混在している盤など)を選ぶと、比較しやすいです。
- 音質:最近のリマスター/紙ジャケ復刻などは音が整理されていて聴きやすいので、最初はそれらを選ぶとよいでしょう。
各盤での「何を聴くか」──具体的なチェックポイント
- イントロ〜テーマ提示:グラッペリの「歌い出し」のフレーズの選び方を聴く。どの音に重心を置いているかで演奏の性格が見える。
- ソロの構築:短いフレーズをつなげてテーマに戻す“語り”のしかた。モチーフの発展の仕方に注目。
- リズムとの対話:ジャンゴやリズムセクションとの呼吸。アクセントのずらし方やポルタメントの使い方。
- 音色の変化:弓の使い方で音色がどう変わるか(ピッツィカート的な効果、レガート、ヴィブラートの強弱など)。
レコード/盤の選び方のコツ(購入時の視点)
ここでは「どの盤を選べばグラッペリの魅力が最も出るか」に焦点を当てます(メンテナンスや再生機器の説明は除外します)。
- Hot Club期を聴きたいなら:年代別の完全盤・コンプリートBOX(1930sセッション収録)を。編集物よりもセッション単位に並べられたものの方が演奏の流れがつかみやすいです。
- コラボ作品を楽しむなら:共演者名で探す(例:Yehudi Menuhin、Oscar Petersonなど)。共演者のファン向けに出ている再発盤やCD化も多いので入手しやすいです。
- 音質重視なら:近年のリマスター盤を候補に。古いマスターのノイズが残るオリジナル盤も雰囲気は良いですが、演奏内容をクリアに聴きたい場合はリマスター版がおすすめです。
- ライヴの臨場感を求めるなら:フェス/ライヴ録音を中心に。モントルーやカーネギー(記録が残るもの)など、会場名で探すと良い発見があります。
入門者向けの「まずこれを一枚」ガイド
- グラッペリとジャンゴの代表的なHot Clubコンピレーション(1930sの録音をまとめたもの) —— 彼のルーツと基本フォームを知るために必須。
- グラッペリ+イェフディ・メニューインなどのデュオ録音 —— 異なるヴァイオリン表現の化学反応を楽しめます。
- 70年代以降のライヴ/共演盤(モダン・ジャズフレイバーの演奏) —— 円熟味あるグラッペリの別の顔が見えます。
聴き比べの楽しみ方
同じ曲をHot Club期のスタジオ録音と、数十年後のライヴ録音で聴き比べると、グラッペリのフレーズの選択や音色、テンポ感、即興の密度がどう変化したかがわかります。若い頃の尖ったアグレッション、晩年の歌心ある余裕──これらを俯瞰して聴くことが、長く彼の音楽に親しむコツです。
最後に
ステファン・グラッペリは、ヴァイオリンで「歌うこと」の可能性をジャズで示した稀有な演奏家です。ジャンルや時代を越えて残された録音群はどれも魅力的なので、まずは代表的なHot Club録音と1〜2枚のコラボ/ライヴ盤を聴いて、自分の“好きな時代”を見つけるのがおすすめです。
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参考文献
- ウィキペディア(日本語):ステファン・グラッペリ
- Encyclopaedia Britannica: Stéphane Grappelli
- AllMusic: Stéphane Grappelli - Artist Biography & Discography
- Discogs: Stéphane Grappelli - Discography
- The Guardian: Obituary (Stéphane Grappelli)


