クラスB IPアドレス入門:範囲・ネットワーク計算・サブネット化とCIDR移行の実務解説
導入 — クラスフルアドレッシングの概要
IPアドレスの歴史的な割り当て方式である「クラスフル(classful)アドレス指定」は、IPv4アドレス空間を大まかにA/B/Cのクラスに分割していました。クラスB(Class B)はその中間に位置し、中規模から大規模ネットワーク向けに設計されたクラスです。本稿では「クラスBのIPアドレスとは何か」を技術的に掘り下げ、範囲・ネット/ホストの計算方法・実務上の扱い(プライベートアドレスやサブネット化)・近代的な運用(CIDRへの移行)までを詳述します。
クラスBの定義とアドレス範囲
クラスBアドレスは、IPv4アドレスの最初のオクテット(左から1バイト目)が128から191までの範囲にあるアドレスを指します。ビットパターンで表すと先頭の2ビットが「10」で始まるものです。
- 範囲(包括):128.0.0.0 〜 191.255.255.255
- 先頭ビット:10xxxxxx(先頭2ビットが固定)
- デフォルトのネットマスク(クラスフル時):255.255.0.0(/16)
ネットワーク数とホスト数の計算
クラスフル設計では、クラスBはネットワーク識別子部分に先頭2ビット「10」を残したうえで、残りの14ビット(第一オクテットの残り6ビット+第二オクテットの8ビット)を「ネットワーク番号」に使います。したがって理論上のクラスBネットワーク数とホスト数は次の通りです。
- 可能なネットワーク数:2^14 = 16,384(ただし実運用では特別扱いの範囲がある)
- 各ネットワークあたりの総アドレス数:2^16 = 65,536
- 各ネットワークの「利用可能ホスト数」(ネットワークアドレスとブロードキャストアドレスを除く):2^16 - 2 = 65,534
注:歴史的に「全ビット0のホスト」や「全ビット1のホスト」を予約する運用(主に初期のRFCや実装で見られた)がありましたが、現在の一般的なカーネルやルータの実装、RFCの運用指針では、ネットワーク番号とブロードキャストを除いたホストが利用可能とされるのが標準的です。
クラスBの例:ネットワーク/ブロードキャスト/ホスト範囲の具体例
例:172.20.10.5 はクラスBに属します(第一オクテット 172 → 128〜191 の範囲)。クラスフルのデフォルトマスク(255.255.0.0)で考えると:
- ネットワークアドレス:172.20.0.0
- ブロードキャストアドレス:172.20.255.255
- 利用可能ホスト範囲:172.20.0.1 〜 172.20.255.254(合計 65,534 ホスト)
プライベートアドレスとクラスB
プライベートアドレス空間(RFC 1918)にはクラスBに相当する範囲が含まれています:
- 172.16.0.0 〜 172.31.255.255(これは /12、すなわち172.16.0.0/12)
この範囲は組織内で自由に使えるプライベートアドレスとして予約されており、インターネット上でグローバルにルーティングされません。172.16/12はクラスBに見える範囲を含みますが、クラスフルの「ぴったり/16」単位とは異なり、より柔軟な割り当てが可能です。
サブネット化 — クラスBを分割して使う方法
クラスBのデフォルトマスクは /16 ですが、実務ではそのまま使うことは少なく、サブネット化して小さなネットワークに分割するのが一般的です。サブネットマスクを変える=ホスト部をさらに借用することで、複数のサブネットを作成できます。
- /24(255.255.255.0)にすると、1つのクラスBから256個の /24 サブネットが得られる(各サブネットのホスト数は254)。
- /20(255.255.240.0)に分割すると、1つの /16 から16個の /20 が作れる。各 /20 のホスト数は2^(12)-2 = 4,094。
- /22 は1サブネットあたり最大 1,022 ホスト(2^(10)-2)。
これらはCIDR(Classless Inter-Domain Routing)手法で行われ、アドレスの細かな割当てと集約(ルート集約)を可能にします。
クラスBの問題点とCIDRへの移行
クラスフル方式は単純ですが、アドレスの浪費が多く、ルーティングテーブルの肥大化を招きました。これを解決するために1990年代にCIDR(RFC 1519)というクラスレスの割当て方法が導入され、アドレスのより柔軟で細かな割当て、経路集約(アグリゲーション)が可能になりました。現在のインターネット運用ではクラスBという区分は概念的な便宜上であり、実運用はCIDR表記(/16, /20 など)で行われます。
実務上の注意点と特殊範囲
- ループバック(127.0.0.0/8)はクラスA範囲だが特別扱いで、システム内部の通信に使われます。クラスBの範囲とは別。
- 169.254.0.0/16 はリンクローカル(APIPA)で、DHCPで取得できない場合に自動的に割り当てられるアドレス範囲です。これも第一オクテット169なのでクラスBの範疇に入りますが、特殊用途です。
- クラスBの一部(たとえば172.16.0.0/12)のようにプライベート用途で予約された範囲を除き、グローバルに使えるアドレスはIANAやRIRによって管理・割当てされています。
- 今日ではネットワーク設計はCIDRベースで行うこと、またIPv6移行も考慮することが推奨されます。IPv4の枯渇問題により、従来のクラスBのような大きな連続領域は新規に取得しづらくなっています。
まとめ
クラスBのIPアドレスは、128.0.0.0〜191.255.255.255 の範囲に属し、デフォルトでは /16(255.255.0.0)を使って1ネットワークあたり65,534の利用可能ホストを持つ設計でした。歴史的には大学や大企業など多くのホストを必要とする組織向けの割り当て単位でしたが、アドレス利用の非効率性やルーティングテーブルの問題から、1990年代以降はCIDRを使った柔軟な割当てと集約が主流になっています。実務ではプライベート空間の172.16.0.0/12などクラスB相当の範囲を使いつつ、サブネット化やアドレス節約策、IPv6への移行も視野に入れた設計が必要です。
参考文献
- IANA — IPv4 Address Space Registry
- RFC 791 — Internet Protocol
- RFC 1519 — Classless Inter-Domain Routing (CIDR)
- RFC 4632 — CIDR: Updated Specification
- RFC 1918 — Address Allocation for Private Internets (Private IPv4 ranges)


