Nurse With Wound入門ガイド:コラージュ音響と名盤で辿る実験音楽の世界

Nurse With Wound(ナース・ウィズ・ウーンド)とは

Nurse With Wound(以下NWW)は、イギリスの実験音楽プロジェクトで、1970年代末にスティーヴン・ステイプルトン(Steven Stapleton)らによって結成されました。結成当初は複数人での活動でしたが、後にステイプルトンが唯一の常設メンバーとして作品の中心を担うようになり、彼の個人的な美学とコラージュ的手法がNWWの音楽を形作っています。

プロフィール — 経歴と主要な変遷

  • 結成と初期:1978〜79年頃に活動開始。デビュー作のジャケットに付属した「Nurse With Wound List」は、当時の地下音楽・実験音楽シーンの重要人物や未知のアーティストを網羅したリストとして知られ、後のリスナーやコレクターに大きな影響を与えました。
  • スタイルの確立:初期はパンクやインダストリアルの流れを受けた即興的・ノイズ志向の作風が見られますが、徐々にテープ・コラージュ、フィールドレコーディング、エレクトロニクス、ドローン、アンビエント、メランコリックなメロディの断片などを組み合わせる独自の音響世界を確立しました。
  • United Dairies:ステイプルトンが運営するレーベル(United Dairies)を通じて自主的に作品を発表し、限定リリースや変則的な仕様のパッケージも多く見られます。
  • コラボレーション:Coil、Current 93(David Tibet)、Silly Wizard などの実験/アンダーグラウンド系アーティストと繋がり、様々なコラボレーションやゲスト参加が行われています。

NWWの音楽的魅力 — なぜ惹かれるのか

NWWの音楽は「答えを与えない」こと自体が魅力です。単純に心地よいメロディやダンスビートを求めるリスナーには難解に感じられますが、以下の点が強烈な引力を持ちます。

  • 予測不能な展開:コラージュ手法により、静寂、ノイズ、メロディ、話し声、環境音などが突如入れ替わる。聴取者は常に耳を凝らすことを強いられ、聴く行為自体が刺激的な体験になります。
  • 物語性と想像の余地:断片化された音像がパズルのように並び、聴くたびに異なるイメージや物語を浮かべさせる。明示されない物語性が聴き手の想像力を掻き立てます。
  • 音響的クラフトマンシップ:テープ操作、エフェクト、重層的なミキシングなど、音の細部に対する職人的なこだわりがあり、ヘッドフォンで聴くと新たな層が見つかります。
  • アート志向の美学:カバーアート、リリース形態、ライナーノーツまでもが作品の一部であり、音楽と視覚・物語が結びついて一つの総合芸術を成しています。

代表作・名盤の紹介(入門から深堀りまで)

NWWは膨大な量の作品を発表しているため、“入門盤”と“深堀り盤”を分けて紹介します。

入門におすすめ

  • Chance Meeting on a Dissecting Table of a Sewing Machine and an Umbrella(デビュー作) — 出発点としての強烈さ。初期の衝動とダダイズム的なユーモアが色濃く出ています。
  • Homotopy to Marie — NWWの抽象的な美学がより洗練されて現れ始める作品。繊細な紙吹雪のような音響と暗い情緒が共存します。

必聴の名盤(コア・ファン向け)

  • Spiral Insana — コラージュと音響処理の完成形の一つ。長尺で複層的な音世界。
  • Soliloquy for Lilith — 多くのリスナーや批評家から高く評価される作品。ドローン、アンビエント、暗黒の情緒が緻密に構成されています。
  • A Sucked Orange / Thunder Perfect Mind(諸作) — ステイプルトンの多面性を示すアルバム群。リミックス的要素や断片化された音像が顕著です。

注目のコンセプト作・変則リリース

  • 限定LP、手作りパッケージ、別テイク集など、同じタイトルでも版によって音像が異なることがあるため、コレクターズアイテムとしての側面も強いです。

コラボレーションとシーンへの影響

NWWは単独プロジェクトでありながらシーンに多大な影響を与えました。Current 93、Coil、Solex などとの交流は、1980年代以降の英国アンダーグラウンド~実験音楽のネットワーク形成に寄与しています。さらに、Nurse With Wound Listが実験音楽の発見ガイドとして機能したことで、無名のアーティストやレーベルへの注目を促しました。

聴き方ガイド — NWWを楽しむためのポイント

  • 前提を捨てる:「曲の始まり→メロディ→コーラス」といったポップス的構造を期待しない。音の風景として受け止めること。
  • 集中して聴く:ヘッドフォン推奨。音の層や細かなエフェクトはヘッドフォンでこそ明瞭に聴き取れます。
  • 数回繰り返す:一度で全てを理解するのは難しい。繰り返すことでパターンやモチーフが見えてきます。
  • 作品ごとの「世界観」を味わう:アルバム毎に制作背景やアートワーク、参加メンバーが異なるため、アルバム単位で聴くのが効果的です。
  • ライブ/最小限の情報で聴く:事前情報を極力入れずに聴くことで、内容の予期せぬ驚きや発見を得やすくなります。

アートワークとリリース哲学

NWWのリリースは視覚的な側面も重要で、ジャケットや封入物は音楽の一部として設計されています。限定盤や手作りのパッケージ、複数バージョンでのリリースが頻繁に行われ、これは音楽を単なる「音源」以上のアートオブジェとして提示する哲学に基づいています。また、United Dairiesを中心とした自主流通はインディペンデント精神を象徴しています。

現代的意義と影響力

デジタル時代に入っても、NWWの“アナログ的コラージュ手法”や「予測不能な構成」は現代の実験音楽、ダークアンビエント、ノイズ、さらにはポストクラシカルな作家にも影響を与え続けています。ネットでの発見が簡単になった現代においても、NWWの作品は依然として「未知の領域に踏み込むための地図」として機能しています。

まとめ

Nurse With Woundは、単なる音楽プロジェクトを超えた“総合的な芸術行為”として進化を続ける存在です。難解である一方、何度も聴くことで深い満足感や新たな発見を与えてくれます。初めて触れる人は、入門盤で基礎的なテクスチャーをつかみ、その後に深堀りの名盤群へと進むことをおすすめします。

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参考文献