Current 93とは何者か？デイヴィッド・チベットが紡ぐアポカリプティック・フォークの全貌と名盤解説
エバープレイ編集部Current 93とは — 概要と沿革
Current 93（カレント・ナインティスリー）は、イギリスの作家・歌手デイヴィッド・チベット（David Tibet）を中心に1980年代初頭に結成されたプロジェクトで、実質的にはチベットのソロ・プロジェクトとして長年にわたり活動してきました。始まりはインダストリアル／アヴァンギャルド周辺の実験音楽シーンに根ざしていましたが、やがて「アポカリプティック・フォーク（apocalyptic folk）」やネオフォークとも呼ばれる独自の音楽世界を築き上げます。
音楽性と主題（テーマ）
- ジャンル横断性：初期はノイズ／インダストリアル的なアプローチを見せつつ、徐々にアコースティックな民謡的要素、室内楽的なアレンジ、ゴスペルや聖歌的な響きなどを取り入れていきました。作品ごとにサウンドが大きく変化するのも特徴です。
- 宗教・神秘主義的モチーフ：キリスト教的イメージ、グノーシス、黙示録的ヴィジョン、ウィリアム・ブレイクやオカルト文献への言及など、霊的・形而上学的テーマが中心です。詩的で寓話的な歌詞は、しばしば寓意的・宗教的意味合いを帯びます。
- ヴォーカル／詩のスタイル：デイヴィッド・チベットの声はしばしば脆く、ささやきや祈祷のようなトーンで語られます。メロディよりも言葉の響きや祈りのような反復が重視されることが多いです。
- コラボレーション志向：Steven Stapleton（Nurse With Wound）、John Balance（Coil）、Michael Cashmore、Rose McDowall など、実験音楽／オルタナティヴ界隈の多彩なアーティストと協働しています。これが作品ごとの表情の幅を広げています。
代表作・名盤（入門におすすめのアルバムと簡単な解説）
- Nature Unveiled（初期作品、Current 93の荒々しい出発点）
インダストリアル／アヴァンギャルド的な要素が強く、プロジェクトの暗く呪術的な側面を色濃く残す重要作です。
- Thunder Perfect Mind（90年代初頭）
フォーク的要素と宗教的詩情がより前面に出てきた作品。言葉とイメージが密に編み合わされ、Current 93の「詩的な側面」が顕著になります。
- The Inmost Light（三部作を含む前後の作品） / All the Pretty Little Horses
中期の代表的な流れ。伝承歌やララバイの解釈、室内楽的アレンジが目立ち、繊細で美しい表現が特徴です。
- Black Ships Ate the Sky
多数のゲストヴォーカルを迎えた大作。物語性とコラボレーションを通じて、プロジェクトの包摂性と表現の幅を示したアルバムです。
Current 93の魅力を深掘りするポイント
- 言葉の力と詩的世界観
楽曲は単なる「歌」ではなく、短い詩や祈り、黙示録的ヴィジョンが音像として結実したものです。リスナーはテクスチャーとしての音と、意味深な断片的言葉の両方に引き込まれます。
- 多様な音響表現
粗野なノイズ、古風なアコースティック・アレンジ、金属的な反響、合唱的な層などを自在に行き来します。作品ごとに「何が出てくるか分からない」ワクワク感があります。
- 人間味のある演出と儀式性
ライブや録音における声の使い方、間（ま）や静寂の扱いが、宗教的な儀式のような空気を作り上げます。親密さと崇高さが同居するのが魅力です。
- 変化を恐れない姿勢
同じ名前で継続されるプロジェクトでありながら、音楽性や編成は流動的。変転を受け入れる姿勢が、常に新鮮な驚きを生みます。
聴き方・入門ガイド
- 初めて聴く人へ：
いきなり「全体像」を求めず、1枚単位で雰囲気に浸ってください。ゆっくり聴くことで歌詞や小さな音の意匠が立ち上がってきます。
- おすすめの聴き順：
- 代表的なアルバム（例：Thunder Perfect Mind や All the Pretty Little Horses）で「現在の」音世界を掴む
- 初期（Nature Unveiled など）を聴いて出発点を確認する
- コラボ作品や大規模なゲストを迎えた作品（Black Ships Ate the Sky 等）で表現の幅を楽しむ
- 歌詞の読み方：
直喩や象徴が多いので、一次的な「意味」よりも言葉が引き起こすイメージや感覚を重視すると理解が進みます。チベット自身が詩人でもある点を念頭に。
コラボレーションとレーベル活動
Current 93は長年にわたり多方面のアーティストと協働してきました。Steven Stapleton（Nurse With Wound）やJohn Balance（Coil）など、ネクスト・シーンの重要人物と交わることで、シーン横断的なネットワークを築いています。また、デイヴィッド・チベットは自身のレーベル（Durtro 等）を通じて、同種の音楽シーンを支えてきました。
ライブ／体験としての魅力
Current 93 のライヴは単なるコンサートではなく儀式や朗読会のような側面があり、観客との距離が非常に近いことが多いです。小規模で密室的な空間でこそ、音の細部や声の震え、呼吸までが伝わりやすく、深い没入感を得られます。
まとめ
Current 93 はジャンルの枠を超え、詩と音響、宗教的想像力を組み合わせたユニークな音楽プロジェクトです。聴き手が「言葉」と「音」の間で意味を再発見する余地を残しており、深く聴き込むほどに新たな発見があるアーティストと言えます。初めての人は代表作から入って、徐々に初期やコラボ作へと広げていくと良いでしょう。
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