Hespèrion XX/XXIの軌跡:ジョルディ・サヴァールが切り開く地中海古楽の世界
Hespèrion XX(後の Hespèrion XXI)とは──概略と歴史
Hespèrion XX は、スペイン/カタルーニャ出身のヴィオラ・ダ・ガンバ奏者ジョルディ・サヴァール(Jordi Savall)を中心に1974年に結成された古楽アンサンブルです。創設以来、中世・ルネサンス・バロックといったヨーロッパ古楽を基盤にしながら、イベリア半島および地中海世界(ユダヤ・セファルディ、イスラム、北アフリカ、東地中海など)に根ざした多彩なレパートリーを再発見・演奏してきました。2000年以降は21世紀を意味する Hespèrion XXI として活動を継続しています。
なぜ特別なのか──Hespèrion XX の魅力ポイント
創造的な歴史復元と再解釈:単なる“復元”にとどまらず、史料と伝承を紐解いて現在の聴衆に届く音楽言語へと再構築します。楽譜の“空白”部分も、伝統に基づく即興や装飾で生き返らせるアプローチが特徴です。
地中海横断的なレパートリー:カトリック・イスラム・ユダヤの交錯する地中海世界を横断する選曲が多く、国境やジャンルを越えた“音楽文化の交差点”としての役割を果たしてきました。これにより早期音楽の枠組みが大きく広がりました。
演奏の有機性と音色の豊かさ:ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート/ヴィウエラ系楽器、リコーダー/ヴィオラ、そして声楽が織り成すテクスチャーは非常に有機的。楽器の素朴な響きと声の生々しさが近接し、古楽の“人間らしさ”を強く感じさせます。
ジョルディ・サヴァールの芸術的リーダーシップ:歴史学的知見と演奏家としての表現力を兼ね備えたサヴァールの指導は、アンサンブルの音楽的方向性を決定づけています。彼の音楽観は、民族音楽学や民族楽器の研究とも接続しています。
国際的なコラボレーションと舞台芸術との融合:歌手や現代作曲家、舞踏家、視覚芸術家との共同制作を通じて、古楽を現代の多様な表現コンテクストに置く試みを続けています。
音楽的特徴──演奏で注目すべき点
装飾と即興の柔らかさ:楽譜にない装飾を“補う”手法が自然で、過度に精密になりすぎない人体感覚に根ざした即興が魅力です。聴き手は楽曲が“生きている”と感じます。
多声音楽の透明さ:アンサンブルのバランスは常に透明で、声部ごとの線が明瞭に聴こえる一方で全体としては暖かくまとまります。
リズム感の流動性:現代の機械的なテンポ感ではなく、テキストや舞曲性に応じた体感的なリズムが採られ、拍節の揺らぎが表現に深みを加えます。
異文化の音色融合:オウドやネイ、セファルディ歌唱法など、異なる伝統を尊重して取り入れ、その“差異”を強調し過ぎず調和させます。
代表曲・名盤の紹介(聴きどころつき)
以下は Hespèrion XX / Hespèrion XXI の代表的なレパートリーや推薦盤の例です。まずは1〜2枚を繰り返し聴くことで、彼らの音楽性が深まります。
Llibre Vermell(中世の巡礼歌集)
聴きどころ:中世ヨーロッパの宗教的巡礼歌の力強さと集団的演奏の躍動感。旋律の素朴さが生き生きと伝わります。セファルディ(Sephardic songs)やユダヤ・イベリアの音楽集
聴きどころ:スペイン・ポルトガル追放以後に形成されたユダヤ系民俗歌の哀感と地中海的な伴奏の融合。言語の響きと微妙なイントネーションに注目してください。アル・アンダルス(Al-Andalus)系プログラム
聴きどころ:イスラム文化下のイベリアで育まれた旋法やリズムと、キリスト教・ユダヤの伝統が交錯する音世界。異文化の緊張と交流が聴きどころです。ルネサンス舞曲集やイベリア・ルネサンスの声楽曲
聴きどころ:精緻な対位法と舞曲の身体性が同居するパフォーマンス。抑制と躍動の対比を楽しめます。
(注)上記はいずれも Hespèrion XX/XXI の代表的なレパートリーで、具体的なアルバム名や録音年は複数存在します。より詳細なディスコグラフィが必要であれば追って整理します。
Hespèrion XX の社会的・文化的インパクト
早期音楽運動への貢献:1970年代以降の古楽復興の波の中で、Hespèrion XX は特に地中海・イベリア領域の未発掘音楽を掘り下げることで学術と演奏の橋渡しを行い、同地域の古楽研究を広く一般に紹介しました。
多文化共存の象徴:異なる宗教・民族の音楽を並列して演奏する姿勢は、文化の重層性と相互影響を示すモデルとなり、政治的・社会的なメッセージを超えて芸術的な対話を促しました。
教育的役割:若手演奏家の育成、古楽研究への寄与、そしてコンサートやフェスティバルでの普及活動を通じて、次世代へ古楽の魅力を伝える重要な役割を果たしてきました。
聴き方のコツと楽しみ方
まずは声(ソロ・合唱)と弦の組み合わせ、楽器の素朴な倍音を意識して聴いてください。現代楽器とは異なる「音の余白」が多く、余韻を味わうことで表現の深さが伝わります。
言語や旋法の違いに注目すると、同じメロディーでも文化的背景が変える表現の差が聴き取れます。歌詞訳を確認して歌の意味と音楽的表現を照らし合わせると理解が深まります。
ライブ録音や映像での舞台表現もおすすめです。演奏者同士の視線や呼吸、即興の瞬間が見えることで、Hespèrion の演奏哲学がより実感できます。
まとめ
Hespèrion XX(および Hespèrion XXI)は、ただの“復元”を超え、歴史的資料と生演奏を結びつけることで古楽の可能性を拡張した存在です。ジョルディ・サヴァールの芸術監督のもと、地中海を横断する多文化的レパートリーを豊かな音色と有機的なアンサンブルで提示してきました。初めて触れるなら、中世の巡礼歌やセファルディ曲、アル・アンダルス系のプログラムなどから入るのがわかりやすく、その後、ルネサンスやバロックへと広げていくと彼らの多面的な魅力が見えてきます。
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参考文献
- Hespèrion XX - Wikipedia(英語)
- Jordi Savall 公式サイト
- Alia Vox(Jordi Savall が関係するレーベル)
- Hespèrion XX - AllMusic(ディスコグラフィ情報)


