ヘルムート・リリングの演奏特徴とおすすめ録音ガイド:バッハ合唱の名盤を聴く

ヘルムート・リリングとは — 簡単な紹介

ヘルムート・リリング(Helmut Rilling, 1933年生)は、ドイツを代表する合唱指揮者の一人で、特にJ.S.バッハの演奏・研究に長年取り組んできたことで知られます。ガイヒンガー合唱団(Gächinger Kantorei)やバッハ・コレギウム・シュトゥットガルト(Bach‑Collegium Stuttgart)を創設し、国際バッハアカデミー・シュトゥットガルト(Internationale Bachakademie Stuttgart)を立ち上げて後進の育成・研究活動も行ってきました。

リリングの演奏の特徴

  • テクスト重視の合唱表現:リリングの演奏は歌詞(原語の意味)への注意が非常に強く、合唱のアーティキュレーションやフレージングで言葉がよく伝わります。
  • 現代楽器による明晰さ:歴史的奏法(HIP)全盛の流れとは一線を画し、現代楽器編成での明確な輪郭と充実した合唱音を志向します。これにより「合唱作品としての重み」を感じやすいのが特徴です。
  • 均整の取れたテンポ感と構築力:大規模作品でも構成感を重視し、対位法や内声の動きをクリアに聞かせる設計がなされています。
  • 録音/編集へのこだわり:長年にわたる膨大な録音活動のなかで、スタジオ録音・ライヴ録音ともに高水準を保ってきました(多くはHänssler等のクラシック専門レーベル)。

おすすめレコード(名盤・代表録音)

ここでは初心者からマニアまで響く、リリングの代表的な録音をピックアップし、選ぶ理由と聞きどころを解説します。

  • J.S.バッハ:ミサ曲ロ短調(Mass in B minor) — リリング / ガイヒンガー合唱団 & バッハ・コレギウム・シュトゥットガルト(Hänssler等)

    なぜおすすめか:構築力と合唱の充実感が際立つ一枚。ソロと合唱のバランスが良く、コーラスの文字通りの“重さ”と対位法の明晰さが同居します。バッハ演奏の「合唱中心の解釈」を味わいたい人に最適です。

    聞きどころ:KyrieやAgnus Deiの大らかさ、Gloriaの対位的構築。全曲を通して演奏の統一感が感じられます。

  • J.S.バッハ:マタイ受難曲(St Matthew Passion) — リリング / ガイヒンガー合唱団 & バッハ・コレギウム・シュトゥットガルト

    なぜおすすめか:大規模受難曲の情感とドラマを、合唱主体の立場から力強く再現した定評ある録音。情景描写よりもテクストの語りと合唱の役割を重視するため、宗教性や語り口を重視するリスナーに響きます。

    聞きどころ:合唱場面の厚み、アリアとレチタティーヴォの対比、福音史家(Evangelist)ラインの語り口。

  • J.S.バッハ:ヨハネ受難曲(St John Passion)

    なぜおすすめか:マタイ同様、テクストを中心に据えた演奏で、より瞬発力・劇性が求められるヨハネ受難曲の特性がうまく生かされています。短く鋭い表現が多い曲想に対して、リリングの明快な指揮が合います。

    聞きどころ:短い合唱句の切れ味、アリアの叙法、受難の物語の進行感。

  • J.S.バッハ:クリスマス・オラトリオ(Weihnachtsoratorium)

    なぜおすすめか:祝祭的な合唱とソロの調和、バッハの祝祭音楽としての鮮やかさを現代的な音色で聴かせます。合唱団のアンサンブル力が存分に活きる録音です。

    聞きどころ:コラールと合唱の対比、祝祭的なトラックのエネルギー。

  • バッハ・カンタータ全集(リリングによるカンタータ録音群/Hänsslerが中心のサイクル)

    なぜおすすめか:リリングが長年取り組んだカンタータ録音は、バッハ研究の成果と合唱団・オーケストラの成熟を記録した大プロジェクトです。単発の名曲だけでなく、通して聴くことで作曲家としてのバッハの多様性が見えてきます。

    聞きどころ:有名カンタータ(たとえばBWV熱情系やBWVの代表曲)だけでなく、日曜の礼拝用カンタータに見られる細やかな表現やテクスト解釈。

  • 合唱レパートリー(ブラームス:ドイツ・レクイエム 等)

    なぜおすすめか:リリングはバッハのみならずロマン派や近現代の合唱曲にも強く、特にブラームスやメンデルスゾーンの合唱作品で合唱の表現力とテクスト理解が光ります。合唱曲全般を俯瞰したいリスナーに向きます。

    聞きどころ:ブラームスの深いテクストへの対処、合唱の色彩とダイナミクス。

どの録音を最初に選ぶべきか — 聴き方のアドバイス

  • バッハ入門者:まずは「ミサ曲ロ短調」か「マタイ受難曲」がおすすめ。曲の全体像と宗教的深みが体感できます。
  • 合唱の力を味わいたい人:カンタータ全集や合唱曲集(ブラームスの宗教作品など)を通しで聴くと合唱団の成長と表現の幅がわかります。
  • 比較鑑賞:古楽系のテンポや楽器編成(Harnoncourt、Gardiner、Glenn Gould時代のバッハ演奏、あるいはフィリップ・ヘレヴェッヘ等)と聴き比べることで、リリングの「現代楽器+合唱中心」の特性がより鮮明になります。

リリング録音を楽しむための注目ポイント

  • 合唱の「言葉の伝達力」 — 発音、イントネーション、フレージングに注目するとその真価が見えます。
  • 対位法の可聴化 — 内声・対位線がどのように浮かび上がるかを意識して聴くと、編曲と配列の妙がわかります。
  • 演奏史的立場の違いを楽しむ — HIP(歴史的奏法)派との比較で、「音色」「テンポ」「装飾」の違いを楽しんでください。

リリングの録音を収集するときの実用的なヒント(選定基準)

  • レーベルをチェック:Hänssler Classic はリリングの重要録音を多く出しています。リマスター盤やボックスセットもあるため、音質重視なら最新リマスターを探すとよいでしょう。
  • 録音年と演奏メンバー:同作品でも録音年代やソリストの顔ぶれで印象がかなり変わります。時代ごとの演奏観の移り変わりを楽しむのも面白いです。
  • ライヴ/スタジオ録音の違い:ライヴは臨場感と瞬発力、スタジオは緻密な積み重ねが味わえます。好みで選んでください。

まとめ

ヘルムート・リリングは、合唱表現の深さとバッハ研究に裏づけられた解釈で、多くの名盤を残してきました。伝統的な合唱文化を現代楽器で力強く表現するそのスタイルは、宗教音楽の精神性や合唱の持つドラマを直接的に訴えかけます。まずは「ミサ曲ロ短調」や「マタイ受難曲」、そしてカンタータ録音群から入り、対比のために古楽系演奏と聴き比べるとリリングの特徴がより鮮明に感じられるでしょう。

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参考文献