Keith Roweとは何者か—テーブルトップギターと拡張音響で拓く現代実験音楽の美学と聴き方
はじめに
Keith Roweは、ギターという楽器の概念を根底から問い直し、即興音楽と電子処理の最前線で独自の表現を切り拓いてきた英国の実験音楽家です。本稿では彼の人物像、演奏技法・美学、聴きどころ、影響と評価、さらに入門のための聞き方まで、深掘りして解説します。
プロフィール(要点)
- 出身・国籍:イギリス出身の実験音楽家。
- 活動領域:即興演奏、エレクトロアコースティック実験、ソロ演奏、他の前衛音楽家とのコラボレーション。
- 主要な経歴:1960年代半ばから活動し、即興グループAMMの中心的メンバーとして知られる。以降、テーブル上に横たえたギター(いわゆる“table top”ギター)と拡張された電子機器群を用いて独自の音楽言語を築いてきた。
- 特徴:伝統的なピッキングやコード進行に依存せず、物理的なオブジェクト、電子機器、ラジオやターンテーブルなどを含む環境を演奏装置として扱う点。
演奏技法と美学
Roweの演奏は“ギター演奏”という枠にとどまらず、楽器と機器と空間を含めたシステム全体を操作する行為です。その核心となる考え方と技法を整理します。
- テーブル上のギター(tabletop guitar):ギターを演奏者の前に平らに置き、指で弦を擦る、金属片やマグネットを載せる、ピックやボウ以外の物体で接触させるなど、伝統的奏法を離れた触発的な操作を行う。
- 拡張機器の統合:小型アンプ、ラジオ、テープ・ループ、エフェクト、コンタクトマイクなどを並列に配置し、音源と処理を同時に操作することで複雑なテクスチャを生成する。
- ノン=イディオマティックな即興:特定のジャンルやフレーズに依存しない“非様式的”(non-idiomatic)なアプローチを重視。音そのもの(波形・質感・時間の流れ)に聴き手の注意を向けさせる。
- 空間と沈黙の重要性:音が生まれる瞬間だけでなく、音の消え方や間(ま)、残響や周囲ノイズまでも作曲的要素として扱う。
なぜ魅力的なのか――聴覚体験としてのRowe
Roweの音楽は一聴で「美しいメロディ」や「華やかな技巧」を期待する聴衆を裏切ります。しかし深く聴くほどに、その奥行きと異質な誘引力が明確になります。魅力のポイントを挙げます。
- 音の物質性への目覚め:Roweの演奏は音を“物質”として扱う。音色の摩擦、金属の響き、電波ノイズの佇まいが具体的に立ち上がり、聴覚が触覚的に研ぎ澄まされる。
- 新しい聴取姿勢の獲得:何が“音楽”なのかを再定義する体験を与え、能動的に聴き取ること(アテンション=聴覚の集中)を促す。結果として、聴く側の感覚や想像力が拡張される。
- 即興の緊張と緩和:演奏は計算されたものではなく、瞬間の選択によって形成される。偶発性と選択のバランスが独特の緊張感を生む。
- 非技巧性の美学:伝統的な“上手さ”に頼らず、表現の純度や発見の喜びを優先する姿勢は、現代音楽や実験芸術における新たな美意識を示す。
代表作・名盤(入門的に聴くべき録音)
Roweを理解するためには、グループ活動とソロ/コラボレーション双方を聴くのが有益です。以下は入門に適した録音の一例です(リリース順や年代は多岐にわたります)。
- AMMの初期〜中期の録音:1960年代後半からのAMMにおける演奏群は、Roweの出発点とグループでの即興美学を知る上で必聴です。
- Keith Roweのソロ録音:テーブル上のギターと電子機器に焦点を当てたソロ作品群。静謐で緊張感のあるテクスチャが特徴です。
- コラボレーション作品:John Tilbury、Eddie Prévost、Christian Marclay、Otomo Yoshihide、Tetuzi Akiyamaなど、多様な前衛奏者との共演録音は、Roweの語彙がどのように他者と反応・融合するかを示します。
- ライブ録音:即興の現場性が濃縮されるため、ライブ録音はRoweの即興的判断と音の展開を体感するのに最適です。
ライブ体験と聴き方のコツ
Roweの演奏を聴く際、一般的なロックやジャズのコンサートとは異なる期待値と準備があるとよいでしょう。
- 静かな環境を作る:小音量での細部(微小なノイズや表面の質感)に注目できるよう、静かな空間や良好なヘッドフォンで聴くのがおすすめです。
- 時間をかける:短いフレーズや即断的な展開が少ないため、数分〜十数分のスパンで変化する全体像を追う聴き方が合います。
- 描写を期待しない:物語やメロディの追跡よりも、“音の場”に身を委ねる姿勢が大事です。音のテクスチャ、密度、空間性に注意を向けてください。
- 反復して聴く:同じ録音を何度も繰り返すことで、初回には気づかなかった微細な要素が聴きとれるようになります。
影響と系譜
Roweの仕事は、エレクトロアコースティック即興(EAI)やノン=イディオマティック即興の重要な基盤となり、以降の実験音楽家やサウンドアーティストに大きな影響を与えています。特に、楽器の役割を問い直す姿勢と、音響的テクスチャの探求は現代の多くの即興/実験プロジェクトに受け継がれています。
批評的視点・注意点
Roweの音楽は必ずしも万人向けではありません。無調性で抽象的な音響が続くため「退屈だ」「意味が分からない」と感じる聴き手もいます。しかし、その反応自体がRoweの問いかけ(何を音楽と呼ぶか、聴くとはどういう行為か)に対する重要な応答と言えます。
まとめ:Roweを聴く意味
Keith Roweの音楽は、音そのものに深く向き合うことの価値を教えてくれます。技巧やメロディを超え、音の物質性や瞬間の響きに耳を澄ますことで、聴覚の感度が研ぎ澄まされ、新たな音楽経験が開かれます。彼の録音や演奏に接することは、単なる鑑賞を越えて「聴くこと」を再教育する機会となるでしょう。
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参考文献
- Keith Rowe — Wikipedia
- AMM (group) — Wikipedia
- Keith Rowe — Discogs(ディスコグラフィ)
- Keith Rowe — AllMusic(概要・レビュー)


