モヘアセーターのすべて: 特徴・種類・ケア方法・着こなし・サステナビリティまで徹底解説
はじめに — モヘアセーターという素材の魅力
ふわっとした光沢のある毛羽、軽さと保温性を兼ね備えた風合い——モヘアセーターは近年のファッションシーンで根強い人気を誇っています。高級ニットの代名詞としての側面だけでなく、カジュアルからフォーマルまで幅広いスタイルに馴染むため、多くのブランドがデザインに取り入れています。本稿では「モヘアとは何か」から「素材特性」「種類」「お手入れ法」「選び方・着こなし」「倫理・サステナビリティに関する留意点」まで、実践的かつ検証可能な情報を中心に詳しく解説します。
モヘアとは何か — 基本的な定義と由来
モヘアはアンゴラ種のヤギ(Angora goat)から採れる毛です。英語名は “mohair” 。アンゴラウサギから採れる「アンゴラウール(angora)」とは別の動物・繊維である点に注意が必要です。モヘアは長く光沢のある繊維が特徴で、古くから高級素材として扱われてきました。
生産は世界的に分散していますが、南アフリカ共和国が最大の生産国であり、その他トルコ、レソト、米国(テキサス)などでも生産されています。
モヘアの主な特徴 — 見た目・機能性・化学的性質
- 光沢とハリ:モヘアは強い光沢があり、光を受けると上品なツヤが出ます。繊維自体にコルクスクリュー状の縮れが少なく、比較的直線的なため光沢が出やすいです。
- 軽さと保温性:繊維は空気を含みやすく、軽さの割に保温性があります。寒暖の差がある季節に適した素材です。
- 耐久性:絹のような光沢がありつつも強度が高く、摩耗にも比較的強いのが特徴です。混紡(ウールやナイロン)されることが多いのは耐久性や編みやすさを向上させるためです。
- 染色性:色が入りやすく、鮮やかな発色が得られます。高級なカラー展開ができる点も魅力です。
- 毛羽(ハロー)感:特に「キッドモヘア(kid mohair)」やシルクと混紡した糸は非常に細く、毛羽立ち(ふわふわのハロー)を作り出します。これが“フェミニンなふわっと感”の演出に貢献します。
モヘアの種類:キッドモヘア・アダルト・ブレンドなど
モヘアは年齢や収穫時期によって品質が変わります。代表的な区分は以下の通りです。
- キッドモヘア:生後6〜12か月程度の子ヤギから採れる最初の毛で、最も柔らかく細い。高級ニットやラグジュアリーブランドによく使われ、軽やかな毛羽を出しやすい。
- アダルト(大人)モヘア:成長したヤギの毛。キッドに比べ太さと強度があり、耐久性に優れる。
- ブレンド:モヘア単独で編むこともありますが、ウールやシルク、ナイロンなどと混紡することで伸びや強度、艶やかさ、肌触りを調整します。たとえば「モヘア×シルク」は軽さと光沢、「モヘア×ナイロン」は耐久性と形崩れの抑制、などの効果があります。
デザイン上の使われ方 — シルエットや編みの特徴
モヘアは軽さと毛羽感を活かして、次のようなデザインで用いられることが多いです。
- レース編みやローゲージのスリムセーターで「ふわっとしたハロー」を主役にする
- オーバーサイズのカーディガンやボリュームスリーブでテクスチャーを強調する
- シャギー調やブークレのような表情を出すためにブラッシング加工された糸を用いる
- 薄手で軽い「シアー(透け)感」を活かし、レイヤードのトップに使う
お手入れ(ケア)方法 — 基本と実践的な手順
モヘアは見た目の繊細さとは裏腹に比較的タフですが、適切なケアをすることで長持ちします。以下は一般的な注意点と実践手順です。
- 表示ラベルを最優先に:まず製品タグの表示(ドライクリーニング推奨など)を確認してください。表示に従うのが安全です。
- 手洗いが基本:洗濯機は避けるのが無難。手洗いする場合はぬるま湯〜冷水(30℃以下)、ウール専用洗剤や中性洗剤を使い、優しく押し洗いします。長時間の浸け置きや強い摩擦は避けましょう。
- すすぎと脱水:すすぎは丁寧に行い、タオルで包んで押すようにして余分な水分を取ります。絞る・ねじるは禁物です。軽く押して水を切る程度にしてください。
- 乾燥:直射日光や高温は避け、平らな場所にタオルを敷いて形を整えて平干しします。ハンガーで干すと伸びやすいので折りたたんでの保管が基本です。
- 毛羽(ハロー)のお手入れ:毛羽が気になる場合は、専用のセーターコームやカシミヤ用のコームで優しく毛並みに沿って取るか、スチームアイロンで軽く蒸気をあてて毛並みを整えます。電気かみそり式の毛玉取り器は生地を傷める恐れがあるため慎重に使ってください。
- 保管:長期保管する際は清潔な状態にし、布製の保存袋や通気性のある箱に入れて保管。防虫剤(天然のラベンダーやシダー)が効果的です。密閉プラスチックは湿気がこもるため避けましょう。
着こなしのコツ — 季節感とスタイリング例
モヘアセーターは軽く暖かいので「晩秋〜春先のレイヤード」にとても使いやすい素材です。いくつか具体的なスタイリング例を挙げます。
- 細身デニム+ヒール:毛羽のある薄手のモヘアセーターは、カジュアルなデニムに合わせるだけで洗練された印象に。
- タイトスカート+ロングカーディガン:上品な艶感を活かした女性らしいコーディネートに。シルクやサテン素材と好相性です。
- ジャケットのインナー:透け感のある薄手モヘアはジャケットの下に重ねると温かさを保ちながら表情を追加します。
- モノトーンに一点投入:シンプルな黒やグレーの装いに、ヴィヴィッドな色やパステルのモヘアを一点投入すると効果的です。
購入時のチェックポイント — 品質と長持ちの見分け方
- 繊維混率ラベル:純モヘアか混紡かを確認。純モヘアはふわっとした毛羽が強いですが、耐久性や型崩れの面で混紡の方が扱いやすい場合があります。
- 糸の撚りと目の詰まり:編み目が緩すぎると引っ掛けやすく、目詰まりしすぎると毛羽が出にくい反面“重たく”見えることがあります。サンプルを触って伸縮や復元性を確認しましょう。
- タグの原産国・ブランドのトレーサビリティ:生産背景や動物福祉に関心がある場合は、産地表記やトレーサビリティ情報をチェックします。
- 匂い・染色むら・生地の抜け:中古やセカンドハンドで買うときはニオイ、色ムラ、虫食いなどを入念に確認してください。
動物福祉・サステナビリティについて — 知っておくべきポイント
モヘアは天然の再生可能繊維ですが、生産過程での動物福祉や環境負荷への懸念が指摘されたことがあります。2018年頃には南アフリカの一部地域での動物虐待疑惑が報じられ、多くの小売業者が供給元の見直しや一時的な撤退を行いました。この経験を受けて業界や生産者団体は透明性向上や動物福祉基準の策定、追跡可能なサプライチェーンの構築を進めています。
購入者としては以下を目安に考えるとよいでしょう。
- 信頼できる認証やトレーサビリティ情報があるブランドを選ぶ
- 生産者団体(例:各国のモヘア協会)が公表する動物福祉基準や監査情報を確認する
- 長く使える品質のものを選び、使い捨てを避けることでライフサイクル全体の環境負荷を抑える
長持ちさせるための修理・リフォームの工夫
モヘアは引っ掛けやすい素材でもありますが、小さなほつれや穴ならば修理可能です。専門のリペア店で目立たないようにつなぎ直してもらうか、プロに相談してパッチや刺しゅうでデザイン要素に変えることもできます。毛羽が抜けてしまった部分は同系色の糸で目立たなくするリフォームも有効です。
まとめ — モヘアセーターを選ぶ意義と楽しみ方
モヘアセーターは、その独特の光沢、軽さ、温かさ、そしてテクスチャーで他素材とは異なる魅力を持ちます。購入・着用にあたっては表示ラベルに従ったケア、信頼できる供給元の選択、長く使い続けるためのメンテナンスが重要です。適切に扱えば何年も愛用できる素材であり、流行に左右されない“質”を求める人にとって価値のある一着になるでしょう。
参考文献
- Mohair — Wikipedia
- Angora goat — Wikipedia
- Mohair South Africa — Official site
- The Woolmark Company — Care and maintenance for wool and related fibres
- Top retailers stop using mohair after abuse allegations — The Guardian (2018)


