ピッチベンド完全ガイド — MIDI仕様から制作テクニック、MPE表現まで
はじめに:ピッチベンドとは何か
ピッチベンドは、音の高さ(ピッチ)を連続的に変化させる表現手段です。アコースティック楽器ではギターのベンドやバイオリンのグリッサンド、声のポルタメントなどが該当しますが、電子楽器やDAW環境では「ピッチベンドホイール」「ピッチベンドMIDIメッセージ」などを通じて同様の効果を得ます。演奏表現としての幅が広く、ニュアンス付けから派手なワーミー(whammy)効果まで用途は多岐にわたります。
MIDIにおけるピッチベンドの基本仕様
MIDIにおけるPitch Bend Changeはチャンネルごとのメッセージで、14ビット(0〜16383)の解像度を持ちます。データ値は0が最小、16383が最大、中心(ニュートラル)は8192です。つまり、中心からの偏差が正負に対応し、最大値が機器側で設定されたピッチベンド範囲(通常は±2セミトーンなど)にマッピングされます。
内部的には2バイト(LSB, MSB)で送られ、組み合わせて14ビット値を構成します。MIDIの仕様によりピッチベンドはチャンネル単位であり、同一チャンネル上のすべてのノートに影響を与えます(これが従来のMIDIの制約の一つです)。
ピッチベンド範囲(Pitch Bend Range)の設定
ピッチベンドの最大幅は機器側で設定されます。一般的に使われる値は±2セミトーンですが、±12や±24など大きなレンジに設定してオクターブ単位の効果を得ることも可能です。MIDIでの設定はRPN(Registered Parameter Number)#0(Pitch Bend Sensitivity)を使い、Data Entry(CC6/CC38など)でMSB=セミトーン、LSB=セント単位の微調整を行います。
実用的には次のように使い分けます:
- サブティルなビブラートや半音以下の揺らぎ:±0.5〜±2セミトーン
- ギターやボーカル模倣のベンド:±2〜±4セミトーン
- ワーミー・電子的効果やショック的なポルタメント:±12セミトーン以上
数式で理解するピッチベンドの変換(セミトーン/セント)
14ビットの値v(0〜16383)からセミトーン偏差を計算する簡易式の一例:
偏差(セミトーン)≈ (v - 8192) / 8192 × ピッチベンド範囲(セミトーン)
より正確には中心からの正負比率をフルスケールでスケーリングしますが、音楽制作上は上の式で実用的な精度が得られます。セント単位が必要ならば1セミトーン=100セントとして換算します。
ピッチベンドとポルタメント/グリッサンドの違い
用語が混在しやすいので整理します。ピッチベンドはコントローラ(ホイールやMIDIデータ)で連続的に高さを変える操作全般を指します。ポルタメントは滑らかにある音から次の音へ移行する機能(時間的な遷移)で、ピッチベンドを使って実現されることが多いです。グリッサンドは音程をすばやく滑らせる演奏技法で、ピッチベンドでエミュレートできますが、音色変化(フォルマント)なども重要です。
MPE(MIDI Polyphonic Expression)とピッチベンドの進化
従来のMIDIではピッチベンドはチャンネル単位で全ノートに影響するため、1つのチャンネルで同時に複数音を演奏するときに個別のベンドができませんでした。MPEは各ノートに対して個別のMIDIチャンネルを割り当て、各チャンネルで独立したピッチベンドや他のコントロールを送れるようにした規格です。これにより、モノフォニックな表現(個々の指に別のピッチベンド)をポリフォニックに扱えるようになり、より人間的な演奏表現が可能になりました。
DAWやサンプラーでの扱い方と注意点
DAWではピッチベンドをMIDIオートメーション(ピッチベンドトラック)として編集できます。オーディオ素材に対してはオーディオピッチシフト(ワープ・メロダイン等)で似た効果を得ますが、MIDIベースのシンセ/サンプラーはサンプルの再生レートを変えることでピッチを制御するため、レンジを広げすぎると音色が不自然になったりエイリアスが生じたりします。
サンプラー側でのルートノート設定とピッチベンド範囲の組み合わせは重要です。例えばルートがC3で±2セミトーンのままでは、想定よりも狭いレンジでしか自然なベンドができません。必要に応じてルートノートやエンジンのピッチレンジを再設定しましょう。
表現上のテクニックと実践的なコツ
- ビブラートの付け方:中心付近で小刻みにピッチベンドすることで自然なビブラートを作れる。速さや幅を音楽ジャンルや楽器の特性に合わせる。
- ポルタメントとの併用:ポルタメント時間を設定し、ピッチベンドで遷移曲線を調整すると滑らかなレガートが得られる。
- ディテールの保存:MIDIの14ビット解像度を活かし、ピッチベンドは可能な限りMIDIイベントとして扱う(オーディオに固定化する前に調整する)。
- MPE活用:MPE対応音源とコントローラを使うと、指の滑りや圧力で自然にピッチベンドをかけられる。サブノート表現が豊かになる。
- 滑らかさの調整:ステップ状のノイズが出る場合はイベントを補完(補間)したり、ホストの解像度設定を確認する。
よくあるトラブルと対処法
・ピッチベンドが全音に影響する:別のパッチやレイヤーが同一MIDIチャンネルを使っている可能性。MPEや別チャンネル化で解決。
・聞こえがデジタルでギクシャクする:MIDI解像度は高いが、音源側の処理やリサンプリングが原因。音源のアンチエイリアスやオーバーサンプリング設定を見直す。
・ピッチベンド範囲が思った通りでない:RPNによる設定が反映されていないか、音源のデフォルトに上書きされている可能性あり。音源マニュアルでPBレンジの扱いを確認。
歴史的・音楽的な利用例(概念的)
電子鍵盤上のピッチホイールは70〜80年代のシンセサイザーで一般化し、リードやパッドの表情づけに使われてきました。ギターのワーミー的効果やリードシンセの大胆なポルタメントは、ポピュラー音楽における“感情の誇張”として機能します。現代ではMPE対応の表現型コントローラが普及し、より細かなピッチ操作が可能になりました。
まとめ:ピッチベンドを使いこなすためのチェックリスト
- 目的に合ったピッチベンド範囲を決める(小さい:自然、広い:効果的)。
- MIDIチャンネルの管理(ポリフォニックに個別ベンドが必要な場合はMPEや複チャネルを検討)。
- DAW/音源の解像度や補間設定を確認して滑らかな変化を得る。
- オーディオとMIDIでの処理方法の違いを理解し、最適なワークフローを選ぶ。
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参考文献
- MIDI 1.0 Detailed Specification - MIDI.org
- MIDI Specifications Index - MIDI Manufacturers Association
- MIDI Polyphonic Expression (MPE) Overview - MIDI.org
- Pitch bend - Wikipedia
- Control Change and RPN/NRPN使用法(参考:MIDI制御の概説) - MIDI.org(関連資料)


