EQ処理の完全ガイド:周波数・Q・フェーズを使いこなす実践テクニック

EQ処理とは何か — 役割と基本概念

EQ(イコライゼーション)は音声・楽器信号の周波数成分を選択的に増減する処理で、ミックスやマスタリングにおいて最も頻繁に使われるツールの一つです。単に“高域を上げる”といった簡易操作だけでなく、ノッチで共振を抑える、ミッド/サイドでステレオ感を整える、ダイナミックEQで音量に応じて周波数を制御するといった応用まで含みます。EQの基本は「どの周波数を、どれだけ、どの幅(Q)で」操作するかを判断することです。

代表的なEQタイプとフィルター

  • パラメトリックEQ:中心周波数、ブースト/カット量、Q(帯域幅)を任意に設定できる。最も汎用性が高く、精密な補正に向く。
  • シェルビングEQ:ある周波数より上(ハイシェルフ)または下(ロウシェルフ)を傾斜的に増減する。楽器の“明るさ”や“暖かさ”の調整によく使う。
  • ハイパス/ローパス(HPF/LPF):低域・高域をカットして不要な帯域を除去する。混雑を避ける基本処理。
  • ノッチ(バンドストップ):非常に狭い帯域を強くカットし、共振やハムノイズを除去する。
  • バンドパス:特定の帯域だけを通す。サウンドデザインや特殊な表現で使われる。

Q(帯域幅)の理解:鋭く切るか、広く扱うか

Qはフィルターの「鋭さ」を示します。Qが高いほど狭帯域で鋭く作用し、低いほど広域を穏やかに変える。用途例としては、共振や不要なピークを除去する際は高Qで狭く切り(-6〜-12 dB以上を短時間で使用することもある)、楽器のキャラクターを整える場合は低Qで広く柔らかく処理します。一般論として“カットは鋭く、ブーストは緩やかに”というアプローチが推奨されます。

周波数帯域別の特性と楽器別の実践的なポイント

周波数の感覚を持つことは重要です。以下は一般的なガイドラインです(楽器や音色、ミックスのコンテキストにより変わります)。

  • 20–60 Hz(サブベース):体感的な低域、キックとベースの“重み”。低域はルームにも依存するため過剰なブーストは避ける。
  • 60–120 Hz(ロー):キックの“パンチ”やベースの太さ。キック頭のアタックはこの帯域を調整。
  • 120–250 Hz(ローミッド):暖かさや厚み。過剰だと濁るので楽器間のマスキングに注意。
  • 250–500 Hz(ミッド):ボディ感、ギターやボーカルの存在感に影響。
  • 500 Hz–2 kHz(プレゼンス):音の輪郭や明瞭さ。ボーカルの語頭やギターのアタックがここにある。
  • 2–5 kHz(アタック/明瞭感):耳に刺さる領域でもあり、過剰だと不快になる。
  • 5–10 kHz(シャイン):シンバルや息遣い、細かなディテール。
  • 10–20 kHz(エア):“空気感”を付与。過度に強調するとノイズも目立つ。

楽器別のティップス(代表例):

  • キック:HPFで不要なサブを制御、60–100 Hz付近でパンチを調整。3–5 kHzでビーター音を強調する場合あり。
  • ベース:40–80 Hzで低域の厚みを、700–1000 Hzで指弾きの明瞭さを調整。キックと競合する帯域は片方を削ることで分離させる(マスキング回避)。
  • スネア:200 Hz付近のボディ、2–4 kHzのスナップ感、5–10 kHzでスナップやブライトネスを強調。
  • ボーカル:HPFで不要な低域除去(80–120 Hz)、300–600 Hzで濁りをカット、1–3 kHzで明瞭さ、8–12 kHzで息や空気感を調整。サ行の強い部分はディエッサーやノッチで対処。
  • ギター/ピアノ:250–500 Hzの濁りをチェック、2–5 kHzで存在感を作る。

サブトラクティブ(削る)とブーストの使い分け

多くのエンジニアはまず不要成分を削って音を整理してから、必要なら弱めにブーストするワークフローを推奨します。削ることでマスキングを解消し、自然な位相関係を保ちながら音像をクリアにできます。ブーストは音を不自然に感じさせることがあるため、+1〜+3 dB程度の緩やかな増幅から始めると良いでしょう。

位相(フェーズ)とフィルター特性:リニアフェーズ vs 最小位相

EQは位相に影響を与えます。一般的なIIR(最小位相)EQは位相ずれを伴いますが、トランジェントへの影響が少なくCPU負荷も小さいです。一方でリニアフェーズEQは位相を保つために前方のプリリンギング(前方に残響のようなアーチファクト)が発生することがあり、アタックの鋭さや明瞭さに影響する場合があります。マスタリングではリニアフェーズが有効なことが多いですが、トラックごとの処理では最小位相が実用的なことが多いです。選択はソースと目的に依存します。

ダイナミックEQとマルチバンドの活用

ダイナミックEQは特定周波数帯を信号レベルに応じて自動で動かすEQで、コンプレッサーとEQの中間的な役割を果たします。ボーカルのある周波数の突発的なピークだけを抑えたい場合や、シンバルの過剰なサチュレーションを自動で制御したい場合に便利です。マルチバンドコンプレッサーは帯域ごとのダイナミクス制御を行い、低域の過度な揺れを抑えつつミッドを保つなどに使います。

ミッド/サイドEQとステレオ補正

ミッド/サイド処理により、中央成分(ボーカルやキック)とサイド成分(ステレオ情報)を独立してEQできます。マスタリングでサイドにハイシェルフをわずかに加えて“広がり”を作りつつ、ミッドの400–800 Hzを整えてフォーカスを保つといった使い方が一般的です。ただし過剰なステレオ幅は位相問題を引き起こす可能性があるため、モノ化チェックは必須です。

実践ワークフロー:EQを使ったミックスの流れ

  1. 参照トラックを用意して目標を明確にする。
  2. 各トラックにHPFをかけ、不要低域を取り除く(80–120 Hzが目安)。
  3. 重要な要素(キック、ベース、ボーカル)のためのスペースを作る。必要に応じて相手トラックの帯域を削る。
  4. 問題となるピークをノッチで除去(Qを高めに)。
  5. 音色調整は広めのQで緩やかにブースト/カット。ブーストは小幅に。
  6. ミックス全体での位相や相互干渉を確認、モノチェック。必要ならミッド/サイド処理を使用。
  7. 最後にマスターで必要があれば軽いEQで全体のバランスを整える。

よくある間違いと注意点

  • 過剰なブースト:+6 dB以上のブーストは音を不自然にしやすい。まずは削る戦略を優先。
  • 孤立したモニタリング:ソロでのEQは参考になるが、最終判断は必ずミックスコンテキストで行う。
  • 位相の無視:複数トラックに同じEQ処理を繰り返すと位相が複雑化する。必要なら位相補正やグルーピングで対処。
  • リニアフェーズの盲信:リニアフェーズは位相を保つがプリリンギングを生むため、トランジェントが損なわれる可能性がある。

測定ツールとリファレンスの活用

スペクトラムアナライザーやリアルタイム周波数表示(RTA)は視覚的に問題帯域を特定するのに有効です。ただし見た目だけで調整するのではなく、耳による最終判断を必ず行ってください。リファレンストラックに周波数スペクトルを重ねて比較することで、対象とする音像に近づけやすくなります。

まとめ:EQは判断力と文脈が鍵

EQは単純に帯域をいじるだけでなく、音楽的文脈、位相、ダイナミクス、ステレオ情報を同時に考慮する必要があるツールです。基本は“まず削る”、メイン要素にスペースを与える、そして必要な場面でのみ精密な処理を行うこと。ツール(パラメトリックEQ、ダイナミックEQ、リニア/最小位相EQ)ごとの特性を理解し、適材適所で使い分けるとミックスとマスタリングの品質は大きく向上します。

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参考文献