ワンダーウーマン(2017)徹底解説:誕生、テーマ、映像美と影響力

イントロダクション:なぜ「ワンダーウーマン」は特別なのか

2017年公開の『ワンダーウーマン』(原題:Wonder Woman)は、DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)における重要なマイルストーンとなった作品です。パティ・ジェンキンス監督とガル・ガドット主演による本作は、コミック原作の女性スーパーヒロインを大規模商業映画として成立させただけでなく、物語・演出・文化的なインパクトの面でも幅広い議論を生んでいます。本稿では制作背景、物語と主題、映像表現、演技、興行・批評の側面、そして本作が残した遺産までを詳しく掘り下げます。

制作背景とキャスティング

本作はDC映画ラインの中で初めて単独主演の女性ヒロイン映画として大きな注目を集めました。監督はパティ・ジェンキンス、主演ダイアナ/ワンダーウーマン役はガル・ガドット、スティーブ・トレバー役にクリス・パイン、アンティオペ将軍にロビン・ライト、ヒッポリタ女王にコニー・ニールセン、敵側ではダーニングとドクター・ポイズンなどが配されています。サブキャストの演技陣も堅実で、特にガドットの内省的かつ力強い表現は作品の核となりました。

物語の構造と主題

物語はダイアナの成長譚であり、同時に「戦争と人間性」を問う物語です。舞台は第一次世界大戦期(原作コミックでは時代が流動的であることが多い)で、ダイアナは平和の祈りと戦士としての覚悟の間で葛藤します。主要なテーマは次のとおりです。

  • 戦争と暴力の倫理:暴力は悪を排す手段になり得るのか、あるいは暴力そのものが腐食的か。
  • 希望と信頼:スティーブ・トレバーを通じてダイアナが人類への信頼を学んでいく過程。
  • 神話と近代の交差:ギリシャ神話由来の存在(アマゾン=女神の子孫、敵対する神の概念)を通じて、古典的価値観と近代の倫理が対話する。

演出、映像美、アクション設計

パティ・ジェンキンスは伝統的なヒーロー映画の要素を踏襲しつつ、感情のディテールを丁寧に描きます。シネマトグラフィはキャラクターの内面を映すカメラワークと、戦場の混沌を見せるダイナミックなショットを使い分けることで、ダイアナの視点と客観的世界の対比を成立させています。アクションでは、剣や盾、ラソ(ロープ)を用いた肉弾戦が大きな見どころで、アマゾンの戦闘訓練シークエンスや市街戦のセットピースは視覚的に強い印象を残します。

音楽と音響の役割

ルパート・グレグソン=ウィリアムズが手掛けたスコアは、叙情性とスリルを兼ね備え、ダイアナの英雄譚を感情的に支えます。テーマの使い方は、場面の高揚と静謐を効果的に切り替え、特にクライマックスの音響設計は観客のカタルシスを誘導します。

演技:ガル・ガドットと周辺キャスト

ガル・ガドットは、その身体能力と静かな表現力でキャラクターに説得力を与えました。感情表現は過度にならず、むしろひとつひとつの表情や動作が内面の変化を示す設計です。クリス・パインのスティーブは、コミカルさと人間味がバランスよく演出され、ダイアナとの化学反応が作品に温度を与えます。脇を固めるロビン・ライトやコニー・ニールセンも物語の根幹となる倫理観と歴史性を担っています。

批評的評価と興行成績

公開後、本作は批評面と商業面の両方で成功を収めました。批評家は演出、主演、トーンの整合性を高く評価し、多くの観客は映画の人間性やヒロインの扱われ方に共感しました。世界興行収入は大きく、女性監督・女性主演作として商業的に重要な成功例となりました。

文化的影響とフェミニズム的読み取り

『ワンダーウーマン』は、スーパーヒーロー映画におけるジェンダー表象の転換点として語られます。女性が主体的に物語を牽引し、強さと優しさが両立される姿は、多くの観客にとって新鮮でした。一方で「女性性と戦闘描写の両立の仕方」や「映画産業内の女性クリエイターの扱い」については、さらなる議論が続きます。

議論点と批判

一方で批判も存在します。物語構成やヴィランの扱い、時折見られるステレオタイプ的描写に対する指摘、あるいは歴史描写の単純化などが挙げられます。また、DCEU全体のトーンや他作品との整合性に関する議論もあり、シリーズ内での位置づけをめぐる意見は分かれます。

続編と遺産

本作の成功は続編『ワンダーウーマン 1984』(2020)の制作につながり、ワンダーウーマンというキャラクターの人気と商業的価値を確固たるものにしました。さらに女性主導のアクション映画やヒーロー映画をめぐる制作上の判断やマーケティング戦略にも影響を与え、ハリウッドにおけるジェンダー表現の変化を促す一因となりました。

総括:映画としての価値とこれから

『ワンダーウーマン』(2017)は、単なるブロックバスター以上の意義を持つ作品です。ヒロインの内面を丁寧に描きつつ、エンターテインメントとしての要素も高水準で提供することで、多くの観客と批評家の支持を得ました。その成功は、映画史における女性主人公作品の地位向上に寄与し、今後の作品群に対しても比較の基準や期待値を形成しました。

参考文献