5GHz帯とは?Wi-Fiでの利点・制限・チャネルとDFSの仕組みを徹底解説

5GHz帯とは

5GHz帯は無線LAN(Wi‑Fi)で広く利用される周波数帯の一つで、主にWi‑Fiの高速通信を実現するために用いられます。2.4GHz帯と比較して利用可能な帯域幅が広く、チャネル分離が取りやすいため高速・安定した通信を期待できます。一方で周波数が高いため減衰が大きく、壁や障害物の透過性は低いのが一般的です。

5GHz帯の周波数割当とチャネル構成

5GHz帯は地域や規制により細かく分けられており、チャネル構成も国ごとに異なります。代表的な区分はU‑NII(Unlicensed National Information Infrastructure)領域に基づくものです。一般に以下のようなグループに分かれます(代表的な目安):

  • UNII‑1(低域):約5.15–5.25GHz(チャネル36,40,44,48など) — 主に屋内利用が想定される低出力チャネル。
  • UNII‑2(中域、DFS要件あり):約5.25–5.35GHzおよび5.47–5.725GHz(チャネル52〜140など) — レーダー等との共存のためDFS/TPCが求められる場合がある。
  • UNII‑3(高域):約5.725–5.85GHz(チャネル149〜165など) — 屋外での高出力運用が許可される場合がある。

各チャネルは20MHz幅を基準に構成され、40/80/160MHzといった拡幅(チャネルボンディング)により高速化が図られます。ただし拡幅時は隣接干渉やDFSの制約を受けやすくなります。

DFS(Dynamic Frequency Selection)とTPCの仕組み

DFSは気象レーダーや軍用レーダーなど、優先利用者が存在する周波数帯域と無線LAN機器が重ならないようにするための動的な周波数選択機能です。機器は使用前や運用中にレーダー信号を検出する必要があり、検出された場合は当該チャネルから退避しなければなりません。

主な動作フローは以下のとおりです:

  • チャネル利用前のチャネル可用性チェック(CAC):機器が一定時間(標準では概ね60秒程度)そのチャネルにレーダーが存在しないか監視します。
  • 運用中の監視:運用中もレーダー検出エンジンは継続して動作し、レーダーを検出した場合は直ちにチャネルを空け、別チャネルへ移行します。
  • 非占有期間(Non‑Occupancy):レーダー検出後は一定時間(標準では30分程度)そのチャネルを再利用できないルールが一般的です。

またTPC(Transmit Power Control)は必要最小限の送信電力に制御する仕組みで、干渉低減と規制値順守のために用いられます。DFSとTPCは地域の無線規制(FCC、ETSI、各国の電波監理当局)の要件に基づき実装されています。

5GHz帯で使われる無線規格と技術的特徴

5GHz帯は特に以下のWi‑Fi規格で有利に使われます:

  • IEEE 802.11ac(Wi‑Fi 5):80MHz/160MHzチャネルのサポート、256‑QAM、MU‑MIMO(下り)などで高スループットを実現。
  • IEEE 802.11ax(Wi‑Fi 6):OFDMA、UL/DL MU‑MIMO、BSSカラリングなどで混雑環境での効率を改善。5GHz帯が主な動作帯域の一つ。

これらの技術により、5GHz帯は動画配信、オンラインゲーム、大容量データ転送などの用途で優れた性能を発揮します。ただし、広いチャネル幅を取るほど占有スペクトラムが増えるため、チャネル計画が不十分だと逆に帯域効率が下がることがあります。

利点と欠点(実務的視点)

利点:

  • 高帯域幅:広い周波数資源により、複数チャネルやワイドチャネルを用いた高速通信が可能。
  • 混雑の少なさ:2.4GHz帯に比べて家電機器やBluetooth等の干渉が少ない場合が多い。
  • チャネル分離:20/40/80/160MHzの選択肢があり、環境に応じて柔軟に構成できる。

欠点:

  • 減衰が大きい:同一出力なら2.4GHzより到達距離が短く、壁や床の透過が弱い。
  • DFS/TPCや地域規制の制約:一部チャネルはレーダー回避の義務があり、屋外利用や高出力運用には制約が多い。
  • 隣接チャネル干渉:広いチャネル幅を使うと近隣アクセスポイントとの干渉リスクが高まる。

運用上の注意点とチャネル設計の実務

5GHz帯を実運用する際のポイント:

  • 用途に応じたチャネル幅の選定:屋内多数ユーザー環境では20/40MHz、速度最優先のポイントツーポイントや少人数環境では80/160MHzを検討。
  • DFSチャネルの取り扱い:屋外APやクラウド管理の無線機器ではDFSによる突発的なチャネル退避が影響するため、サービス品質(QoS)要件に応じてDFSチャネルの利用可否を判断する。
  • 電波調査の実施:サイトサーベイで実際の電波環境を把握し、チャネル重複や受信強度を考慮してAP配置を行う。
  • 自動チャネル設定の注意:多くのアクセスポイントは自動でチャネル切替を行うが、トラフィック中の切替はユーザ体験を損なうことがあるため、特に業務用途では計画的に設定する。
  • 屋外設置時の規制順守:屋外での高出力運用や特定の周波数帯の使用は地域の免許・規制や機器の認証要件を満たす必要がある。

屋内と屋外、地域差(日本・米国・EUの傾向)

各地域で周波数割当や規制は異なります。概略は以下の通りです(詳細は各国当局の最新情報を参照してください):

  • 米国(FCC):U‑NII区分に基づきUNII‑1~UNII‑3などで運用。DFS義務のあるチャネルや屋外での高出力運用が定められている。
  • EU(ETSI):ETSI EN 301 893などの規格によりチャネルと出力、DFS要件が定義されている。EU域内でも国ごとの追加規制がある。
  • 日本(総務省/MIC):日本向けの規定により利用可能な周波数と出力条件が定められている。国内の無線局運用ルールや機器認証に従う必要がある。

実際の周波数リストや出力制限、DFSの運用要件は各国の規制改定で変わるため、機器導入や屋外運用前には必ず最新の公的資料を確認してください。

トラブルシューティングとよくある課題

現場でよくある問題と対処法:

  • 通信範囲が短い:出力調整とアンテナの見直し、AP配置密度を上げることで対応。5GHzの特性上、APを密に配置するのが一般的。
  • 不安定な切断/再接続(DFS移動が原因の場合):管理上、DFSチャネルを避ける設定やフェイルオーバー設計(複数バンド・複数AP)で耐性を持たせる。
  • 近隣APとの干渉:チャネル干渉を避けるためにサイトサーベイを実施し、固定チャネル計画または自動チャネル管理ツールを利用する。

5GHzと今後の展望(Wi‑Fi 6E / Wi‑Fi 7との関係)

近年は6GHz帯(Wi‑Fi 6E)やさらに上位の周波数帯の開放により、5GHz帯の負荷分散や用途分離が進んでいます。6GHz帯はさらに広い連続帯域を提供するため、160MHz超のチャネルを多数確保できる点が魅力ですが、5GHz帯は広く普及した端末互換性と既存インフラが残るため当面重要なバンドであり続けます。Wi‑Fi 7(IEEE 802.11be)でも5GHz帯は引き続き活用され、多チャネルや低遅延用途で使われる見込みです。

まとめ

5GHz帯は高速で比較的混雑の少ない無線通信を提供する重要な周波数帯です。広い帯域幅と先進的な無線技術により高スループットを実現できますが、DFS/TPCや地域規制、伝搬特性の違いなど運用上の制約を理解したうえで設計・運用することが重要です。導入時にはサイトサーベイ、適切なチャネル計画、最新の規制情報の確認を行ってください。

参考文献