プロが教えるオーディオ編集の基礎と実践:ワークフロー、ノイズ除去、マスタリングまで

オーディオ編集とは何か

オーディオ編集は、録音された音声や楽曲を意図した形に整える作業全般を指します。単に不要な部分をカットするだけでなく、ノイズ除去、タイミング補正、EQ(イコライジング)、ダイナミクス処理、ステレオイメージの調整、最終的なマスタリングや配信フォーマットへの変換までを含みます。プロジェクトの目的(ポッドキャスト、音楽、映像、アーカイブ修復など)に応じて、求められる精度や工程は異なりますが、確実なワークフローと音質を保つための基礎知識は共通です。

編集の基本ワークフロー

効率的で品質の高い編集には、明確なワークフローが不可欠です。代表的な流れは次の通りです。

  • プロジェクト準備:サンプリングレートとビット深度を決定(通常48kHz/24bitが動画・配信の標準、44.1kHz/24bitは音楽/CD向け)
  • 素材のインポートと整理:トラック分け、タイムスタンプやマーカー設定、バックアップ作成
  • ノイズ除去とクリーニング:常駐ノイズ、クリック、ポップを削除
  • 編集(カット、クロスフェード、タイミング補正):自然な繋ぎと位相を意識
  • サウンドデザインとエフェクト:EQ、コンプレッション、リバーブなどで音作り
  • ミックスダウン:トラック間のバランスと空間処理を最終調整
  • マスタリング/ラウドネス調整:配信プラットフォームに合わせたラウドネスとフォーマット変換
  • 最終チェックと書き出し:メタデータ入力、ファイル検証、複数フォーマットでの書き出し

サンプリングレートとビット深度の基礎

サンプルレートは音の周波数上限を、ビット深度はダイナミックレンジとノイズフロアを決めます。高い値は編集時の余裕(ヘッドルーム)を生みますが、ファイルサイズとCPU負荷が増加します。一般的には編集は24bitで行い、最終書き出しは用途に応じて16bit/44.1kHz(CD)や24bit/48kHz(動画・配信)などに変換します。ビット深度を下げる際は必ずディザリングを行い、量子化ノイズを扱いやすくします。TPDF(トライアングル)やノイズシェイピングなどのディザー方式を用途に応じて選びます。

ノイズ除去と復元技術

録音の現場では常に不要音が混入します。ノイズゲートやEQである程度対処できますが、スペクトル編集(スペクトログラム)を用いた精密な修復が有効です。iZotope RXのようなツールは、常時ノイズプロファイルの抽出、クリック除去、ブレスの削除、音声の分離など高度な処理を提供します。ただし過剰な処理は音質(音色の変化やアーティファクト)を生むため、常にA/Bチェックを行って自然さを保ってください。

イコライジング(EQ)の実践

EQは不要周波数の削減と音の輪郭作りに重要です。ハイパスで低域の不要な風声やハムをカットし、下位帯域(20–80Hz)を過度に持ち上げないよう注意します。中域は楽器やボーカルの個性が出る領域なので、切り取りとブーストを目的に応じて最小限に。アナライザーやリファレンストラックを活用し、周波数帯域ごとに意図的に処理を行いましょう。

ダイナミクス処理とラウドネス

コンプレッサー、リミッター、エキスパンダーは音の動きをコントロールします。コンプレッションの目的はトップレベルの制御だけでなく、演奏の聴感上の一体感を作ること。過度な圧縮は疲れやすい音になるので注意してください。最終的なラウドネスはLUFS(Loudness Units Full Scale)で測定します。放送はEBU R128(-23LUFS)など規格があり、ストリーミングはプラットフォームごとに正規化ターゲットが異なるため、配信先の基準(例:SpotifyやYouTubeは概ね-14LUFS前後)を確認して調整するのが重要です。

位相とステレオイメージの管理

複数のマイクを使った録音では位相キャンセルが起こり得ます。位相の相違は低域の抜けや定位の不自然さを生みます。モノ互換性チェック(モノにして問題がないか確認)や、位相反転プラグインでの確認を習慣化しましょう。ステレオイメージは中央の定位を保ったまま広がりを作ることが理想で、ミッド/サイド処理やステレオワイドナーの使い方に熟練が必要です。

クリップとクロスフェードのコツ

カットした箇所は単純な接続だとクリックやポップが発生します。常に短いクロスフェードを挿入し、波形のゼロ交差点で編集することで不自然さを減らせます。音量ジャンプがある場合はフェードイン/アウトや自動化で自然に繋げます。歌や会話の編集では、息や余韻を残すことで違和感を抑えることが多いです。

スペクトルと時間ベースの処理

時間的処理(タイムストレッチ、タイミング補正)と周波数的処理(スペクトル編集)は用途が違います。タイムストレッチは素材のテンポを変える際に用いられますが、アルゴリズムによってアーティファクトが出るため、臨界的な調整は注意深く行ってください。スペクトル編集は特定周波数帯域のノイズをピンポイントで除去できるため、復元作業に有効です。

マスタリングと納品フォーマット

マスタリングは最終的な音量、バランス、位相、トラック間の統一感を整える工程です。ストリーミング用にはプラットフォームのラウドネス基準に合わせ、適切なヘッドルームを残してリミッターを使用します。納品時にはメタデータ(トラック名、作曲者、ISRC、ゲイン情報など)を正確に入力し、必要に応じて複数のフォーマット(WAV/FLAC/MP3/AAC)を作成します。ロスレス(WAV/FLAC)はアーカイブとハイレゾ配信向け、MP3/AACはストリーミングやファイルサイズ制約がある場合に利用します。

ツールとプラグインの選び方

DAW(デジタルオーディオワークステーション)は作業の中心です。代表的なDAWにはPro Tools、Logic Pro、Cubase、Reaper、Ableton Liveなどがあります。復元やスペクトル編集にはiZotope RX、マスタリングにはiZotope OzoneやFabFilterのProシリーズがよく使われます。ただし、高価なツールが必ずしも最良とは限らず、AudacityやArdourなどの無料ソフトでも多くの作業は可能です。重要なのは手法と耳のトレーニングです。

実践的チェックリスト

  • プロジェクト設定(サンプルレート/ビット深度)を最初に固定する
  • 必ずオリジナル音源のバックアップを保存する
  • 修復は最小限に、常にA/Bで原音との違いを確認する
  • クロスフェード、ゼロクロスの原則を守る
  • モノ互換性と位相チェックを行う
  • 配信先のラウドネス基準に合わせてマスターを調整する
  • 最終書き出し前に必ずメタデータと音声レベルを検証する

まとめ

オーディオ編集は技術と感性の両面を要求する作業です。正しいワークフロー、基本的な信号処理の理解、適切なツール選択、そして何より耳による継続的な確認が高品質な成果を生みます。復元やマスタリングなど専門領域は奥が深いため、学び続ける姿勢と実践での経験が何より重要です。

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参考文献