避難器具の点検項目を徹底解説|避難はしご・救助袋・緩降機の種類と点検内容を建築設備の専門視点で紹介
避難器具とは
避難器具は、火災時に建物の上階から安全に脱出するために設置される設備です。
主に次のような種類があり、建築基準法および消防法で設置が義務付けられる場合があります。
- 避難はしご(折りたたみ式・つり下げ式)
- 救助袋(垂直式・斜降式)
- 緩降機(ロープ・巻取式など)
これらは日常ではほとんど使用しませんが、非常時に確実に使える状態であることが極めて重要であり、消防設備点検の中でも重要なカテゴリです。
避難器具点検は2種類
消防設備点検と同様、
- 機器点検(半年に1回)
- 総合点検(1年に1回)
の2段階で実施します。
1. 避難器具の機器点検項目(半年に1回)
機器点検では、外観や保管状態など、器具が正常に維持されているかを確認します。
① 器具本体の外観点検
避難器具は経年劣化しやすいため、外観確認は重要です。
点検内容
- 本体の腐食・錆
- 破損・変形
- 金具やボルトの緩み
- ケースの破損・水濡れ・汚れ
② 設置状態・収納状態の確認
緊急時にすぐ取り出せる状態であるかを確認します。
点検内容
- 格納箱(収納ケース)の開閉がスムーズか
- 器具の引き出しを妨げる障害物がないか
- 非常口周りに荷物が置かれていないか
- 表示板(標識)が正しく設置されているか
③ ロープ・ベルト類の点検(緩降機)
緩降機は摩耗が致命的な事故につながるため注意が必要です。
点検内容
- ほつれ・摩耗
- 焼け跡や変色
- 接続金具の腐食
- 固定部の緩み
④ 取り付け金具・固定金具の確認
避難器具が建物にしっかり固定されているか確認します。
点検内容
- 金具のぐらつき・腐食
- アンカーの脱落
- 取り付け位置のズレ
⑤ 使用手順表示の確認
避難器具の使用方法は明確に表示されている必要があります。
- 文字が消えていないか
- 図が見える状態か
- 表示板が破損していないか
2. 避難器具の総合点検項目(1年に1回)
総合点検では、実際に動作させる試験またはそれに準じた確認を行い、確実に使用できる状態であるかを確認します。
① 引き出し・展張動作の確認
避難はしご・救助袋が問題なく展開できるかを確認します。
点検内容
- 展張に時間がかからないか
- 引っ掛かりがないか
- 布地(救助袋)が破れていないか
※安全確保のため、実際に人が降りる試験は通常行いません。
② 軽負荷試験(緩降機の場合)
実際の負荷に近い状態で機能が保たれているか確認します。
点検内容
- 制動が適正か
- ロープが滑らず、逆に固着していないか
- 本体から異音がないか
③ 支持構造の強度確認
避難器具を取り付けている構造が問題ないか確認します。
- 取り付け壁・梁の状態
- ひび割れ・腐食・浮き
- 施工後の改修による影響の有無
④ 格納箱・収納ケースの動作試験
- 扉が確実に開くか
- ロック機構が正常か
- 展張時に引っかかる部分がないか
避難器具でよく発生するトラブル
点検現場で多い不具合は以下の通りです。
- ロープの摩耗・ほつれ
- 金具・フックの腐食
- 救助袋の生地破れ
- 格納箱内部の湿気・カビ
- ハシゴの固着・サビ
- 荷物を置いて出入口が塞がれている
- 使用方法の表示が見えない
これらは火災時の避難不能につながる重大なリスクとなります。
点検を怠るリスク
避難器具は「最後の逃げ道」を確保する極めて重要な設備です。
点検を怠ると以下のリスクが発生します。
- 火災時に使用できず重大事故へ
- 消防法違反による罰則
- 建物の管理者責任が問われる
- 施設の信頼性が大きく低下
- 保険の不支給リスク
避難器具は一度故障してしまうと、大きな事故につながりかねません。
まとめ
避難器具の点検は、建物の避難安全性能を維持するために欠かせない業務です。
- 機器点検(半年に1回):外観・収納・固定状態・ロープ類の確認
- 総合点検(1年に1回):展張動作・軽負荷試験・支持構造の確認
これらを確実に実施することで、火災時に確実な避難経路を確保でき、利用者の生命を守ることにつながります。


