長七和音(メジャーセブンス)徹底ガイド:構造・機能・実践的アプローチと応用例
長七和音とは:基礎定義と呼称
長七和音(ちょうしちわおん、英: major seventh chord)は、根音(ルート)に長三度、完全五度、そして長七度(長七度は主音から11半音)を重ねた四和音です。記譜やコードシンボルでは Cmaj7 / CΔ / Cmaj / Cma7 などと表されることが一般的で、ジャズやポップスでは「maj7(メジャーセブンス)」と呼ばれることが多いです。対照的に属七和音(ドミナントセブンス)は長三度・完全五度・短七度(フラット7、10半音)を持ち、機能や響きが大きく異なります。
構成音と間隔(インターバル)
長七和音は四つの音から成ります。ルート(1)、長三度(長3:4半音)、完全五度(完全5:7半音)、長七度(長7:11半音)。等分律(12平均律)においては長七度は11半音となり、これは調的な導音(leading tone)としての性格を持ち、古典的な文脈では解決傾向(上方の根音への解決)を示します。
表記と呼び方のバリエーション
代表的な表記は次の通りです。Cmaj7、CΔ(デルタ記号)、Cmaj、CM7。楽譜やリードシートによって表記法は異なりますが、いずれも長七和音を指します。初心者が注意すべき点は、C7(クルートのみの7)は属七(短七を含む)であり、Cmaj7とは別物であることです。
和声的機能と歴史的背景
古典派の和声理論では、長七和音はやや不安定あるいは「色彩的」な和音として扱われることが多く、特にロマン派以降の作曲家(例:ショパン、ドビュッシー、ラヴェルなど)が色彩的効果として多用しました。ジャズ以降の音楽では長七和音は安定した「トニック(Imaj7)」として日常的に用いられ、コード進行に柔らかな余韻や浮遊感を与える重要な要素になっています。
機能的な使われ方(実用例)
- トニックの平穏さ:Imaj7(例:Cmaj7)は純粋なメジャートニックに比べてソフトで内向的な響きを持ちます。映画音楽やジャズのバラードなどで多用されます。
- 進行内のアクセント:IVmaj7やIImaj7のように副次的和音として用いることで、進行に柔らかい色合いが加わります。
- モーダルコンテキスト:リディアン(Lydian)やアイオニアン(Ionian)などのモード上で長七和音は自然に機能し、特にリディアンは#11(増四度)のテンションを肯定的に扱うため、Maj7#11という色彩的和音と相性が良いです。
- ドミナントとの対比:V7(ドミナントセブンス)からImaj7へ解決する形は、短七を持つドミナントの「解決欲求」が長七を含むトニックの穏やかな響きで満たされるため、クラシックからポップス、ジャズまで広く使われます。
転回形と声部配置(ボイシング)のコツ
長七和音は四和音なので根音から順に並べるルートポジションのほか、第一転回形(3rdをベース)、第二転回形(5thをベース)、第三転回形(7thをベース)があります。ピアノやギターでは以下の点に留意すると実用的です:
- 3度と7度の関係を明確にする:3度(和音の長味)と7度(和音の特徴)が和音の色を決めるため、この二つを近くに配置すると和音の輪郭がはっきりします。
- オクターブ配置で余裕を持たせる:5度は倍音的に安定しているため省略されることも多く(特にジャズのシェル・ボイシング)、3度と7度を重視することでクリアなサウンドが得られます。
- 開放的なvoicing:広い間隔(オープンボイシング)にすると柔らかく浮遊する響きが強調され、密集したクローズボイシングはより緊張感が増します。
テンションと拡張
長七和音はそのままでも色彩的ですが、9度(9)、11度(11)、13度(13)などのテンションを加えて拡張されることが多いです。代表的な拡張例:
- Maj9(例:Cmaj9):ルートのオクターブ上の2度(9)が加わる。穏やかで透明感が強い。
- Maj7#11(例:Cmaj7#11):#11(増四度、F→F#のような音)が入るとリディアン的な色が付与され、現代的で浮遊感のある響きになる。
- Maj13:13(6度)を加えるとよりジャズ的で豊かな響きになるが、配置によっては濁りや衝突が生じるため注意が必要。
スケールと即興(ソロ)での選択
長七和音に対してよく使われるスケールは以下の通りです。基本はそのダイアトニックなメジャースケール(アイオニアン)。だが#11を含む場合はリディアンが適合します。実用的にはメジャーペンタトニックやメジャー・ビバップ・スケールを用いることで流れるようなフレーズが作れます。
- Ionian(アイオニアン=メジャースケール):最も自然で安定。
- Lydian(リディアン):#11を含むテンションを肯定的に扱うときに有効。
- Major pentatonic:シンプルで歌いやすい音使い。
クラシックとジャズでの扱いの違い
古典派・ロマン派では長七和音はしばしば不協和音的に解釈され、特定の解決を要求することが多かったのに対し、ジャズ/ポピュラー音楽では色彩和音として独立して使用されます。ジャズではImaj7がコード進行の安定点として多用され、その上にさまざまなテンションが自由に乗せられます。一方でクラシックでは長七の7度は導音的に機能し上方解決が期待されることを忘れてはなりません。
代表的なコード進行と応用例
実践的に使いやすい進行をいくつか紹介します:
- ii7 → V7 → Imaj7:ジャズの定番。Imaj7で柔らかく締める。
- Imaj7 → IVmaj7:平行移動的で穏やかな響き。A→Dのような進行でムードを維持する。
- Imaj7 → VI7 → II7 → V7 → Imaj7:ポップスやジャズのサイクル進行で、Imaj7が安定点として機能する。
実践的なサウンドメイク(録音・アレンジのヒント)
アレンジで長七和音を用いるときは以下を意識してください。ピアノでは3度と7度を上声部に置く、ギターでは3度と7度中心のシェル・ボイシングを使う、ストリングスやパッドで広いオープン・ボイシングを加えることで和音の空間的広がりが出ます。さらに、テンポが遅い楽曲では長七和音が持つ“余韻”を活かし、速いビートでは短めに切ってリズム的アクセントにするなどダイナミクスで使い分けると効果的です。
よくある誤解と注意点
一つには「maj7=ただの穏やかな和音」と単純化して考えること。確かに穏やかだが7度は導音として解決傾向を持つため、隣接する和音や旋律の動きに応じて緊張感を生むことがあります。もう一つはテンションの扱いで、#11のような音は必ずしも“美しい”とは限らず、和音内の他の音や曲調によっては不協和に聞こえることがある点に留意してください。
練習法と耳の育て方
長七和音を理解する上で有効な練習:
- メジャースケール上で各音を1,3,5,7に積んで和音の響きを確認する。
- Imaj7とI (triad) を交互に弾き、7度の有無が与える色の違いを聴き分ける。
- ii-V-Iをさまざまなキーで繰り返し練習し、Imaj7での解決感を体得する。
- テンション(9,#11,13など)を順に加え、どのテンションがどの場面で有効か実験する。
まとめ
長七和音はその構造上、穏やかで色彩的な響きを持ち、クラシックでは導音的な機能、現代のポピュラーやジャズではトニックの洗練された表現として重宝されています。和声的な位置づけ、スケールの選択、ボイシングとテンションの扱いを理解すれば、楽曲に深みと柔らかさを与える強力なツールになります。
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参考文献
- Wikipedia(日本語): 長七和音
- Wikipedia (English): Major seventh chord
- musictheory.net — 基本的な和声とコードに関する解説
- Teoria — Music theory tutorials
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