李連杰(ジェット・リー):武術から世界的スターへ──映画・功績・健康・慈善を総覧
概要
李連杰(リ・リェンジェ、英名:Jet Li、1963年4月26日生まれ)は、中国出身の武術家であり俳優。中国国内での少林寺ブームを経て映画スターへと転身し、やがて香港・ハリウッドでも国際的な名声を獲得した。武術(ウーシュウ)をベースにした身体表現、時代劇や現代アクションまで幅広い役柄をこなし、多くの代表作や影響力の高い作品を残している。
幼少期と武術の基礎
北京生まれ。少年期から武術に親しみ、8歳で北京武術隊に入り、名コーチの伍斌(Wu Bin)らの指導を受けながら頭角を現した。国内の全国大会で複数回優勝し、伝統武術と現代競技武術(Wushu)の高度な技術を身につけた。競技で鍛えた正確な動作、爆発的な蹴り・跳躍・拳法は、その後のスクリーン・アクションの礎となった。
映画デビューと中国国内での成功
1982年の映画『少林寺』(監督:張鑫炎)で主演デビューを果たし、この作品は中国全土で空前のヒットとなった。武術の実演性を前面に出した映画作りは、当時の興行を大きく動かし、李連杰を一躍国民的スターへと押し上げた。以降、歴史武侠や伝記的作品など、武術アクションを主軸にした多数の中国語圏映画で存在感を示した。
香港進出と国際的な躍進
1990年代には香港映画界へと本格的に進出し、1991年の『黄飛鴻』シリーズ(Once Upon a Time in China)などで国際的な注目を集めた。1994年の『精武英雄』(Fist of Legend、リメイク的作品)では、高度な格闘シーンと緻密な振付で高い評価を得た。
ハリウッドへの進出は1998年の『リーサル・ウェポン4(Lethal Weapon 4)』への出演で始まり、これ以降、英語圏向けの作品に多数出演する。代表作には『ロミオ・マスト・ダイ(Romeo Must Die)』(2000)、『Kiss of the Dragon』(2001)、『The One』(2001)、『Cradle 2 the Grave』(2003)、『The Forbidden Kingdom』(2008)、『The Expendables』(2010)などがある。さらに張芸謀(張藝謀)監督の『Hero』(2002)など、中国映画の世界的評価を高めた作品にも出演している。
演技スタイルとアクションの特徴
李連杰のアクションは、競技武術で培った技巧性と映画的演出の両方を兼ね備えているのが特徴だ。重要なポイントは次の通りである。
- 正確で美しいフォーム:競技で鍛えた形(套路)の美しさが画面上でも際立つ。
- スピードとリズム感:短い間に情報を伝える動きで、カメラ映えするアクションを作る。
- 表現力の変遷:初期は「技術を見せる」ことが主だったが、1990年代以降はキャラクターの内面を演じる演技力も磨かれていった。
- コラボレーションの影響:アクション監督や振付師(例:袁和平=ユエン・ウーピン、コーリー・ユエンなど)との共同作業により、流麗かつ激烈なアクションを実現している。
主な代表作(抜粋)
- 少林寺(1982) — 中国本土でのブレイク作
- Once Upon a Time in China(黄飛鴻、1991 他) — 歴史アクションシリーズの代表
- 精武英雄(Fist of Legend、1994) — 高評価の武術映画リメイク
- Lethal Weapon 4(リーサル・ウェポン4、1998) — ハリウッド本格進出の足がかり
- Romeo Must Die(2000)、Kiss of the Dragon(2001)、The One(2001) — ハリウッド主演作
- Hero(英雄、2002) — 張藝謀監督作品で国際的評価を獲得
- Cradle 2 the Grave(2003)、The Forbidden Kingdom(2008)、The Expendables(2010) — 国際的なアクション大作
- Fearless(霍元甲、2006) — 実在の武術家・霍元甲を題材にした作品(製作・主演としての関与)
監督・アクションチームとの主なコラボレーション
李連杰は多くの名監督や振付師と協働してきた。香港映画界のツイ・ハーク(徐克、Tsui Hark)とは『Once Upon a Time in China』シリーズで関係が深く、袁和平(ユエン・ウーピン)とは振付・スタント面での重要なパートナーだった。張藝謀(Zhang Yimou)とは『Hero』での美術・色彩設計を通じて、視覚的に洗練された時代劇を作り上げた。
慈善活動とOne Foundation
李連杰は映画活動と並行して慈善活動にも力を入れている。2007年に発足した「壹基金(One Foundation)」は災害救援や教育支援を目的とする中国発の慈善団体で、2008年の四川大地震などでの救援活動にも深く関与した。彼自身が資金面や社会啓発に携わり、慈善家としての顔も広く知られている。
健康問題と近年の活動
2010年、李連杰は健康上の問題(甲状腺の疾患=甲状腺機能亢進症であると自ら公表)を明らかにし、以前と比べて外見や体力に変化が見られることについて説明した。以後、出演作は以前ほど多くはないが、慈善活動やプロデュース、時折のスクリーン復帰など多面的な活動を続けている。なお、健康に関する具体的な診断や治療の詳細は本人の公表が基準となるため、公式発表以外の憶測は避けるべきである。
評価・影響と遺産
李連杰の最大の貢献は、伝統武術と現代映画技術をつなぎ、アジア発の武術映画を世界レベルで通用させた点にある。中国本土でのスター誕生を契機に、香港・ハリウッドへと活動の場を広げたことで、多くの後進アクションスターや振付師に影響を与えた。映画的にも商業的にも成功を収めた作品群は、アクション映画の表現幅を広げ、国際的な認知を高める一助となった。
まとめ
李連杰は、単なるアクション俳優にとどまらず、武術家としての豊富な技術、国境を越えた俳優活動、そして慈善家としての社会貢献を通じて複合的なキャリアを築いた人物である。健康問題や出演本数の変化はあるが、その影響力と業績は映画史に残るものだ。今後も彼の過去作や関係者とのコラボレーションは、武術映画の研究やアクション映画ファンにとって重要な資料であり続けるだろう。
参考文献
- ウィキペディア(日本語):李連杰
- Wikipedia(English):Jet Li
- BBC:Jet Li reveals thyroid condition(2010 年の記事)
- 壹基金(One Foundation)公式サイト
- IMDb:Jet Li - Filmography
投稿者プロフィール
最新の投稿
映画・ドラマ2025.12.12フランク・キャプラ――“キャプラ的”映画の本質と歴史的評価を読み解く
映画・ドラマ2025.12.12「永遠の名作」とは何か——映画とドラマが時代を超えて愛される理由
映画・ドラマ2025.12.12世界的名作映画・ドラマの深層解説:定義・代表作・鑑賞ガイド
映画・ドラマ2025.12.12なぜ「傑作映画」と呼ばれるのか — 本質・評価基準・名作事例で読み解く映画論

