第四世代移動通信(4G)徹底解説:技術・規格・運用・展望

概要:第四世代移動通信(4G)とは

第四世代移動通信、通称4Gは、従来の音声中心の第2/第3世代のネットワークから脱却し、高速かつ低遅延のパケットベース通信を主眼に置いたモバイル通信世代です。国際電気通信連合(ITU)が提示したIMT-Advancedの要件(理論上のピーク速度や遅延性能)を背景に、3GPPによるLTE(Long Term Evolution)やその進化版であるLTE-Advanced、さらにはIEEEベースのWiMAXなどが代表的な4G技術として普及しました。

歴史と標準化の経緯

4Gの概念は2000年代後半に具体化しました。3GPPはE-UTRA/EPC(LTE/Evolved Packet Core)をRel-8で規定し、商用サービスは2009年頃から本格的に始まりました。初期のLTEはITUのIMT-Advancedが要求する最高性能の全てを満たしていない点で議論がありましたが、LTE-Advanced(3GPP Rel-10以降)でキャリアアグリゲーションや高度なMIMOなどを導入し、IMT-Advancedの要件に整合しました。WiMAX(IEEE 802.16e/m)も並行して4Gとして議論されましたが、世界的な採用ではLTE系が主流となりました。

主要技術要素

  • OFDM/OFDMA(ダウンリンク)とSC-FDMA(アップリンク)

    LTEはダウンリンクにOFDMAを採用し、多数の直交するサブキャリアで周波数資源を細分化します。これにより周波数選択性フェージングやマルチパスに強く、高いスペクトル効率を実現します。アップリンクでは送信機のピーク対平均電力比(PAPR)抑制のためSC-FDMAを採用しています。

  • MIMO(Multiple Input Multiple Output)

    複数アンテナを用いるMIMOにより、空間多重(スループット増大)やビームフォーミング(受信品質向上)を行います。LTEでは2x2、4x2、4x4など段階的に導入され、LTE-Advancedではさらに高度な空間処理が可能です。

  • 変調・チャネル符号化

    伝送効率向上のため64QAMなど高次変調を使用します。符号化では初期にTurbo符号が用いられ、LTE-AdvancedではLDPC(低密度パリティ検査)をデータプレーン向けに採用するなど性能最適化が図られています。

  • ハイブリッドARQ(HARQ)とスケジューリング

    誤り制御にはHARQを用い、リアルタイムの再送制御と組み合わせて効率的なリンク層性能を達成します。基地局(eNodeB)側のスケジューラがユーザごとの変調率やリソース割当を動的に最適化します。

  • フレーム構造とリソース単位

    LTEの基本サブキャリア間隔は15kHzです。物理資源ブロック(PRB)は12サブキャリア×1ms(または0.5msのスロット単位で管理)といった単位で割り当てられます。この細かなリソース管理により、柔軟な帯域幅(1.4/3/5/10/15/20MHz)がサポートされます。

LTEとLTE-Advancedの違い

LTE(Rel-8/9)は商用サービスの基盤を作り、理論ピークは20MHz帯域で数百Mbpsのオーダーに達しますが、IMT-Advancedの定義する1Gbps(低移動時)には届きませんでした。LTE-Advanced(Rel-10以降)ではキャリアアグリゲーション(複数の周波数チャンクを束ねる)、より高次のMIMO、協調型マルチポイント伝送(CoMP)、小セル連携やリレー、効率的な符号化などを導入し、理論上のピークスループットを1Gbpsクラスへ引き上げています。

コアネットワーク(EPC)とサービス基盤

4Gの特徴の一つは完全なパケット化されたコアネットワーク(Evolved Packet Core, EPC)です。主要な機能要素は以下の通りです。

  • MME(Mobility Management Entity):シグナリング、認証、セッション管理
  • SGW(Serving Gateway):ユーザプレーンのルーティング・転送
  • PGW(Packet Data Network Gateway):インターネット接続、QoS/課金の境界
  • HSS(Home Subscriber Server):加入者情報の管理
  • PCRF(Policy and Charging Rules Function):QoSと課金ポリシー管理

また音声サービスは従来のCS(回線交換)方式からIMS(IP Multimedia Subsystem)ベースのVoIPへ移行し、VoLTE(Voice over LTE)が標準的な音声方式になりました。これにより遅延の低減や同一パケット基盤上での統合サービス提供が可能になっています。

性能指標:理論値と現実値

  • ピークレート:理論上はLTEで数百Mbps、LTE-Advancedで1Gbps超を達成可能です。ただし実際のダウンリンクスループットはセル設計、ユーザ数、チャネル状態、端末性能、バックホール性能に大きく依存します。一般的な実効スループットは数十Mbps程度が多く報告されています。
  • 遅延(レイテンシ):無線アクセスのラウンドトリップで10ms台の目標が設定され、EPCやバックホールの実装によってはエンドツーエンド遅延がさらに増加します。低遅延が求められるリアルタイムアプリケーションはVoLTEや一部のインタラクティブサービスで実現されました。
  • スペクトル効率:同一周波数当たりのビット/秒(bps/Hz)が重要視され、MIMOや高次変調、コーディング改善により世代を経て向上しています。

周波数帯域と展開戦略

4Gは多様な周波数帯で導入されました。一般に利用される帯域には700/800/900/1800/2100/2600MHzなどがあり、各国・事業者ごとの割当や既存周波数のリファーミングがキーになります。さらに帯域幅が狭い断片的な周波数を束ねるキャリアアグリゲーションにより、運用中の周波数資産を活用しつつ高速化を図る手法が広まりました。

相互接続とハンドオーバー

LTEは同一技術内での高速なハンドオーバーをX2インターフェースで、コアネットワークを介した制御はS1インターフェースで行います。3G/2Gとの相互運用(inter-RAT handover)も重要で、利用者が4Gエリア外でも継続的に通信できるよう相互接続が組み込まれています。

セキュリティとプライバシー

4Gでは加入者認証(EPS-AKA)や暗号化、完全性保護などが導入され、無線とコア間のセキュリティが強化されました。一方、ネットワーク運用上の信号系(例えばSS7やSIP)に起因するプライバシーや詐称(spoofing)、中間者攻撃などの脆弱性は残っており、運用面での対策(ファイアウォール、検出・防御システム、監査)が重要です。またローミングや法令に基づく通信の監視(法的傍受)にも対応する必要があります。

運用上の課題と対策

  • 容量計画とキャパシティ管理:データトラフィックはボリューム面で急増するため、基地局密度の見直し、セルスプリッティング(小セル化)、周波数の有効活用が必要です。
  • バックホールの整備:基地局からコアへの伝送がボトルネックになりやすく、光ファイバや高容量の無線バックホール(E-bandなど)の採用が重要です。
  • QoE重視の運用:単なるスループットだけでなく遅延、ジッタ、パケットロスなど品質指標に基づく運用(QoS、優先制御)が求められます。
  • エネルギー効率とコスト管理:基地局の消費電力や運用コストを抑えるために、ダイナミックな電源管理や仮想化技術の導入が進みました。

4Gがもたらした社会的・産業的インパクト

4Gはモバイルインターネットを日常化させ、動画配信やクラウドアプリケーション、モバイル決済、位置情報サービスなど新たなエコシステムを作りました。事業者側ではデータ中心の課金モデルやMVNOの拡大、ネットワーク仮想化(NFV)やソフトウェア定義ネットワーク(SDN)の導入が加速しました。産業用途ではリモート監視、M2M通信、初期のIoTアプリケーションが普及する土台となりました。

移行と4Gの位置づけ(5Gとの関係)

5G時代の到来により、4Gはコアな役割を担う“アンカー”となっています。多くの初期5G展開はNSA(Non-Standalone)方式でLTEを制御プレーンやフォールバック用に用いる形で導入され、ネットワーク設計や運用面での相互補完が続いています。4Gで確立されたパケット化、IMS、EPCの概念は5Gに引き継がれており、移行や共存が重要な課題です。

今後の運用・研究の焦点

  • 周波数資源の有効利用と動的スペクトル共有
  • マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)との連携による低遅延アプリの実現
  • AI/MLを用いたセル最適化、トラフィック予測、故障予測
  • セキュリティ強化とプライバシー保護、法規制への適合

まとめ

第四世代移動通信(4G)は、モバイル通信を「通信サービス」から「プラットフォーム」へと転換させた世代です。LTEおよびその進化形であるLTE-Advancedは、高速化・低遅延化・パケット化を通じて多様なアプリケーションとビジネスモデルを生み出しました。運用面では周波数管理、バックホール整備、QoS管理、セキュリティ対策が永続的に重要であり、5G時代に向けても4Gの技術・運用ノウハウは不可欠な資産となっています。

参考文献