Novellの歴史と技術革新:NetWareからeDirectory、SUSE統合までの詳細解説
はじめに — Novellとは何か
Novell(ノベル)は、1980年代から1990年代にかけてネットワーク用OSおよびネットワークサービスで大きな影響力を持った米国のソフトウェア企業です。特に企業向けネットワークOS「NetWare」はファイル共有やプリントサービス、ユーザー管理を効率的に提供し、多くの企業ネットワークの基盤となりました。以降、本稿ではNovellの歴史、主要技術、ビジネス戦略、衰退の要因、そしてオープンソースへの転換と最終的な企業変遷を詳しく解説します。
創業からNetWareの成功まで
Novellは1979年に設立され、1980年代に入ってからネットワーク市場で大きく成長しました。最大の成功要因はネットワークOS「NetWare」の登場です。NetWareは当初、小規模ネットワークでのファイル共有・プリントサービスに特化して設計され、効率的なファイルサーバ実装とネットワーク管理ツールにより、当時のLAN環境で高い信頼性とパフォーマンスを発揮しました。
NetWareはIPX/SPX(Internetwork Packet Exchange/Sequenced Packet Exchange)を標準プロトコルとして採用しており、その時代におけるLANトラフィック処理の最適化や、サーバのリソース管理のしやすさで評価されました。多くの企業がNovellのソリューションを導入し、1980年代後半から1990年代前半にかけてNetWareは業界標準のひとつになりました。
Novell Directory Services(NDS)とeDirectory
1993年、NovellはNetWare 4.0とともにNovell Directory Services(NDS)を導入しました。NDSは階層的かつ分散型のディレクトリサービスであり、組織内のユーザー、グループ、デバイス、ポリシー等を一元的に管理するための基盤を提供しました。従来の「バインダリ(Bindery)」を超えるスケーラビリティと分散管理性が評価され、特に大規模環境での認証・アクセス制御に強みを発揮しました。
NDSは後にeDirectoryへとリブランドされ、LDAP(Lightweight Directory Access Protocol)との相互運用性やマルチプラットフォーム対応が強化されました。eDirectoryは、アイデンティティ管理やアクセス制御の基盤として現在も一部で利用されており、特に異種システムが混在する環境でのディレクトリ統合に有用です。
主要製品と技術要素
- NetWare:ファイル/プリントサービスを中核としたネットワークOS。高効率なファイルシステムとネットワークプロトコルの最適化が特徴。
- IPX/SPX:初期のNetWareで中心的に用いられたネットワークプロトコル。後にTCP/IPの普及に伴い移行が進む。
- NDS / eDirectory:分散ディレクトリサービス。大規模なユーザー/デバイス管理を可能にする。
- ZENworks:クライアント管理・ソフトウェア配布・資産管理のためのソリューション。エンドポイント管理領域での製品群。
- Open Enterprise Server(OES):NetWareのサービスをLinux上で提供するための統合サーバ。2000年代中盤に登場し、Novellの製品戦略の転換点となった。
- SUSE Linuxとの統合:後述するようにNovellはSUSEを買収し、Linuxベースでの企業向けソリューションに注力しました。
ビジネス環境と競争
1990年代半ば以降、MicrosoftはWindows NTとActive Directoryを武器に企業向けネットワーク市場へ深く入り込みます。Active Directoryは、ディレクトリサービス、認証、ポリシー管理をWindowsサーバ群に統合したものであり、Windowsクライアントが企業内デスクトップの多数派であったことも相まって、急速に普及しました。
さらに、インターネットとTCP/IPの普及は、かつてのIPX/SPX中心のネットワーク設計を変え、標準プロトコルの移行を促進しました。Novellはこれらの変化に対応するため、TCP/IPサポートの強化、LDAP対応、そして後にはLinuxベースでのサービス提供を行いましたが、既存顧客の移行や新規顧客の獲得で苦戦する場面が増えました。
オープンソースへの舵取り:SUSE買収とOES
2003年、NovellはSUSE Linuxを買収しました。これによりNovellはLinux技術を正式に自社ポートフォリオに取り込み、企業向けLinuxディストリビューションの提供を通じて新たな収益源を模索しました。SUSEの買収は、従来のNetWare中心のビジネスから、Linuxとオープンソースを活用した企業向けソリューションへの戦略的転換を象徴する出来事です。
Open Enterprise Server(OES)は、NetWareの機能をLinux上で提供する選択肢を企業に提示しました。OESはNetWareとSUSEを橋渡しする製品であり、既存のNetWare資産を保持しつつ、より現代的なOS基盤(Linux)へ移行する道筋を示しました。
衰退の要因と企業再編
Novellの市場シェアが徐々に低下した主な要因としては、Windows Serverの普及、Active Directoryによる一体化、インターネットとTCP/IPの標準化、そして迅速に変化する顧客要求に対する対応の遅れが挙げられます。また、市場での競争激化により価格競争やパートナーシップ戦略の重要性が増しました。
経営的には、2000年代後半から2010年代にかけてNovellは構造改革と資産の再配置を進め、最終的には2011年にThe Attachmate Groupによって買収されました。その後、Attachmateを含む買収先の企業群は更に再編され、結果としてNovellの主要資産は異なる企業グループへと移動しました。SUSEについては、その後の再編の中で分離され、別の投資グループに譲渡されるなど、独立性を取り戻す動きがありました。
技術的遺産と現代への影響
Novellが残した技術的遺産は、いまだに企業ITのいくつかの領域で息づいています。NDS/eDirectoryの概念は、現代のID管理やアイデンティティフェデレーションの考え方に通じる部分があり、またNetWare時代に培われたファイルサーバやプリント管理に関する運用ノウハウはレガシー環境の維持に役立っています。
さらに、SUSEの買収とその後のオープンソースへの注力は、エンタープライズLinuxの普及に一役買い、SUSEは独立したLinuxディストリビューションベンダーとして現在でも活動しています。ZENworksやiFolderなどの一部技術・概念は、後続の管理ツールや同期サービスに影響を与えています。
教訓と現代のIT戦略への示唆
Novellの歩みは、技術革新だけでなく、市場動向への迅速な対応、エコシステムの重要性、オープンスタンダードへの適応がいかに重要かを示しています。特に以下の点は現代のIT戦略でも有効です。
- プロトコルや標準が変わるときの早期対応(例:IPXからTCP/IPへ)
- プラットフォームの多様化に伴う相互運用性の確保(例:LDAP、SAMLなどの標準採用)
- オープンソースと商用ソフトウェアのハイブリッド戦略
- 既存顧客の資産(レガシー)を尊重しつつ移行計画を提示することの重要性
まとめ
Novellは、企業ネットワーク時代の黎明期において重要な役割を果たした企業です。NetWareとNDSによって多くの企業の基盤を支え、後年はSUSEの買収を通じてオープンソースへのシフトを図りました。競争環境の変化と市場の標準化により企業としての位置づけは変化しましたが、その技術的・運用的遺産は現在のITインフラやアイデンティティ管理の考え方に影響を残しています。
参考文献
Novell - Wikipedia
NetWare - Wikipedia
Novell Directory Services (NDS) - Wikipedia
SUSE - Wikipedia
The Attachmate Group - Wikipedia
Micro Focus International - Wikipedia(関連買収の記録)
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