NFVOとは何か?役割・仕組み・導入のポイントを徹底解説
概要:NFVO(NFV Orchestrator)とは
NFVO(Network Functions Virtualization Orchestrator、一般にはNFVオーケストレータ)は、ETSIが提唱するNFV(Network Functions Virtualization)アーキテクチャのMANO(Management and Orchestration)階層における中核要素のひとつです。NFVOはネットワークサービス(Network Service:NS)全体のライフサイクル管理とリソースのコーディネーションを担い、VNF(Virtualized Network Function)や複数のVIM(Virtualized Infrastructure Manager)、VNFM(VNF Manager)と連携して、サービスのオンボーディング、インスタンシエーション、スケーリング、更新、終了などを自動化します。
NFVOの主な役割と責務
- サービスライフサイクル管理:NSの設計書(NSD:Network Service Descriptor)に基づき、サービスの作成、インスタンス生成、構成変更、スケールイン/アウト、終了を制御します。
- マルチドメインリソースオーケストレーション:複数のVIM(クラウド、仮想化基盤、コンテナ基盤等)に跨るリソースの予約と割当てを調整します。これにはリソース最適化(配置、帯域、遅延制約の考慮)も含まれます。
- カタログ管理:NSDやVNFD(VNF Descriptor)、VNFパッケージなどのカタログを管理し、オンボーディング/削除のワークフローを提供します。
- OSS/BSSインタフェース:運用支援システム(OSS/BSS)との連携を行い、サービス要求や課金・顧客データと同期します。
- ポリシー及び自動化:スケーリングや障害復旧をトリガするポリシーエンジンを備え、閉ループ(closed-loop)自動化により運用効率を高めます。
アーキテクチャと主要コンポーネント
実装により呼び名は異なりますが、一般的にNFVOは次のような機能ブロックで構成されます。
- カタログ/オンボーディング機能:NSD/VNFDの登録、バリデーション、バージョン管理を行います。
- リソースオーケストレータ:VIM間でのリソース確保、配置計画(placement)、ネットワーク接続設定を実行します。
- ライフサイクル管理(LCM)エンジン:インスタンス生成、スケール、アップグレード、スナップショット、削除などのワークフローを制御します。
- ポリシー・コンポーネント:SLAや運用ルールに基づく自動判断を行います。
- インベントリ/データベース:稼働中のサービス構成、リソース使用状況、履歴情報を保持します。
- インタフェース層:VNFM、VIM、OSS/BSS、SDNコントローラ等とのAPI接続を提供します。
典型的なワークフロー
例としてNSのインスタンシエーションフローを簡潔に示します。
- 1) オンボーディング:NSD/VNFDがカタログに登録される。
- 2) リクエスト受理:OSS/BSSや運用者からNSの生成要求が届く。
- 3) リソース検討と予約:リソース要件(CPU、メモリ、ストレージ、ネットワーク)を評価し、適切なVIMを選択してリソースを確保。
- 4) VNFM呼び出し:必要なVNFごとに対応するVNFMを呼び出してVNFのライフサイクルを管理。
- 5) ネットワーク接続構成:SDNコントローラ等を介してサービスチェーンやネットワーク接続を設定。
- 6) 検証とサービス公開:正常性チェックを行い、サービスを運用状態へ移行。
標準とインタフェース
NFVOの動作は主にETSI NFVのMANO仕様に準拠します。ETSIではNSDやVNFDといった情報モデルや、NFVOとVNFM/VIM間のリファレンスポイントを定義しています。実運用ではこれら仕様に基づくAPIやYAML/TOSCAベースの記述が使われ、互換性とベンダー間の相互運用性を高める役割を果たしています。
代表的な実装例(オープンソース・商用)
- OSM(Open Source MANO):ETSI発のオープンソースプロジェクトで、現代的なNFVO機能を提供します。
- ONAP(Open Network Automation Platform):より大規模のエンドツーエンド自動化プラットフォームで、NFVO相当の機能を含みます。
- OpenStack TackerやOpen Sourceプロジェクト、商用ベンダーのNFVO製品:運用要件に合わせた選択肢が存在します。
クラウドネイティブ時代のNFVOの変化
コンテナ化・クラウドネイティブなVNF(CNF)が普及する現在、NFVOは従来の仮想マシン中心のVIMに加えて、Kubernetesなどのコンテナオーケストレータと統合する必要があります。実務ではKubernetesをVIMの一部として扱うか、または専用のCNFオーケストレータを介して連携する設計が増えています。これにより、デプロイメントモデルやライフサイクル管理の手法(Helm、Operatorパターン等)を取り込む必要が出てきました。
導入上の課題とベストプラクティス
NFVO導入には技術・運用の両面で課題があります。主要なポイントは以下の通りです。
- 相互運用性の確保:標準に準拠したNSD/VNFDを用い、テストや検証を事前に行うことが不可欠です。
- スケーラビリティと高可用性:NFVO自体の冗長化、状態同期、分散配置を考慮します。
- マルチクラウド/マルチドメイン:複数VIMや行政・事業者境界を跨ぐ場合の認証、課金、パフォーマンス保証の設計が必要です。
- セキュリティ:APIの認可・認証、通信の暗号化、役割ベースアクセス制御(RBAC)、サプライチェーンの検証が重要です。
- 運用自動化と監視:テレメトリ、アラート、ヘルスチェックとポリシー連携による閉ループ運用の導入が運用コストを下げます。
セキュリティとガバナンス
NFVOはサービス全体を操作する強力な権限を持つため、セキュリティ対策は不可欠です。API認証(OAuth2、mTLS等)、ログ監査、脆弱性スキャン、コンポーネント間の最小権限設計、そしてサードパーティVNFの署名検証・サプライチェーン管理が推奨されます。またコンプライアンスやSLAを満たすための監査機能と報告機能も重要です。
観測性とトラブルシューティング
効率的な運用には観測性が重要です。NFVOはメトリクス、ログ、トレース、アラートを収集し、VNFM/VIM/SDNコントローラと連携してサービスの健全性と性能を把握します。PrometheusやGrafana、ELKスタックなどの一般的なツールと統合することで、迅速な障害検出と原因分析が可能になります。
将来動向
将来の潮流としては以下が挙げられます。
- より強いクラウドネイティブ適合:Kubernetesネイティブな制御平面との深い結合。
- AI/MLを用いた自動化:異常検知や予測スケーリング、最適配置への応用。
- エッジ分散化への対応:低遅延サービスのための小型NFVOやフェデレーション機能。
- オープンAPIとエコシステムの拡大:ベンダー間の相互運用を促進する標準化の継続。
まとめ
NFVOはNFV/MANOの中核であり、ネットワークサービスを自動化・最適化するための司令塔です。オンプレ・クラウド・エッジに跨る複雑なリソース配分、ライフサイクル管理、運用自動化、セキュリティといった多面的な要件を満たすため、導入計画では標準準拠、スケーラビリティ設計、観測性・セキュリティ対策、そして将来のクラウドネイティブ化への対応を総合的に検討することが重要です。
参考文献
- ETSI — Network Functions Virtualisation (NFV)
- OSM (Open Source MANO) — ETSI
- ONAP (Open Network Automation Platform)
- OpenStack — Tacker等のNFV関連プロジェクト
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