Integrated LUFS徹底解説：測定法・規格・マスタリング実践ガイド

2025年12月13日 最終更新日時 : 2025年12月13日 エバープレイ編集部

Integrated LUFSとは何か

Integrated LUFS（以下しばしば単に「ラウドネス」または「Integrated Loudness」と表記される）は、音声信号の平均的なラウドネスを表す国際的な指標です。LUFS（Loudness Units relative to Full Scale）は、デジタルオーディオにおけるラウドネスの単位で、LKFSと同等に扱われます。Integrated LUFSは作品全体を通して算出される長期的な平均値で、瞬間的な最大音量（ピーク）ではなく、人間の聴感に基づいたエネルギー平均を重視します。

この指標は特に放送やストリーミングのラウドネス正規化に使われ、異なる曲や番組間で音量差を感じさせないための基準として採用されています。測定には周波数重み付けや時間統合、ゲーティングなどのアルゴリズムが組み込まれており、単なるRMSやピーク測定とは異なる精度を持ちます。

規格と背景

Integrated LUFSに関わる主要な規格には、ITU（国際電気通信連合）の推奨である ITU‑R BS.1770 シリーズ と、ヨーロッパ放送連合（EBU）の R128 勧告などがあります。これらはラウドネス計測のフィルタ特性、ゲーティング方法、表示単位（LUFS／LKFS）などを定めています。

放送分野では、地域や国によって目標値が定められており、たとえば欧州の多くは EBU R128 の -23 LUFS を基準にすることが多く、北米の放送基準（ATSC A/85やCALM Act準拠）では -24 LKFS 前後が参照されます。インターネットや配信ではこれらよりもやや高めのターゲット（-14〜-16 LUFS 前後）が一般的です。

「瞬間」「短期」「統合」— 三つの計測窓

ラウドネスメーターでよく出てくる3種類の指標は次の通りです。

  • Momentary（瞬間）: 約400ms 程度の短い窓でのラウドネス。非常に瞬発的な変化を見る。
  • Short-term（短期）: 3秒程度の窓で、音楽のフレーズ単位のラウドネス感を把握するのに適する。
  • Integrated（統合）: トラック／番組全体を通して積算される平均ラウドネス。配信基準や放送規格で用いられる。

Integrated値は流しっぱなしでの測定を行い、時間をかけて最終的な値が算出されます。途中でフェードや無音が長く入ると値が下がるため、ゲーティング（後述）で無音部分を除外するのが一般的です。

ゲーティングの仕組みと意味

EBU R128などの規格では、測定から極端に静かな部分を除外するためにゲーティングを導入しています。ゲーティングには主に二つの閾値が用いられます：絶対ゲートと相対ゲートです。絶対ゲートは非常に低いレベル（-70 LUFS 程度）を下回る信号を除外し、相対ゲートはトラック全体の無ゲートの平均から一定値（標準では約-10 LU）下回る小さな要素を除外します。これにより、例えば曲間の無音や極端に弱いノイズがIntegrated値を下げるのを防ぎます。

真のピーク（True Peak）とインターサンプルピーク

LUFSはラウドネスの尺度ですが、デジタルクリッピングを避けるためにはTrue Peak（真のピーク）にも注意が必要です。True Peakはデジタルサンプル間で復元されるアナログ波形の最大値を推定したもので、デジタルのサンプルピークよりも大きくなる場合があります。多くのプラットフォームがトゥルーピーク上限（例：-1.0 dBTP や -2.0 dBTP）を設けており、マスタリング時にリミッターで管理するのが一般的です。

ストリーミングや放送のターゲット値（目安）

プラットフォームによって正規化ターゲットは異なります。下記は代表的な目安値です（変動する可能性があるため常に各サービスの最新ドキュメントを参照してください）。

  • Spotify: 標準的には -14 LUFS 前後（トラックラウドネスがこれより大きいと自動で下げられる）
  • YouTube: おおむね -13〜-14 LUFS 程度が目安
  • Apple Music（Sound Check）: 約 -16 LUFS 前後の正規化を行う傾向がある
  • Amazon Music / Tidal 等: 多くが -14 LUFS 前後を採用
  • 放送（ヨーロッパ、EBU R128）: -23 LUFS
  • 放送（北米、ATSC/CALM）: -24 LKFS 程度

重要なのは、プラットフォーム側で正規化が行われるためマスタリングで過度にラウドにしても戻されてしまい、結果的にダイナミクスを損なう可能性がある点です。配信向けのマスタリングではターゲットより少し低めのIntegrated値を目標にし、True Peakを十分に余裕を持って管理するのが賢明です。

マスタリングにおける実践的なワークフロー

実際の制作現場での推奨フローは次のようになります。

  • ミックスの段階でメーターを常用し、短期・瞬間の挙動を観察する。
  • 最終マスターを作る前にターゲットプラットフォームを決める（ストリーミング向け／放送向けなど）。
  • マスタリング段階ではIntegrated LUFSの目標を設定し、True Peak を -1〜-2 dBTP 程度に保つ（プラットフォーム基準に合わせる）。
  • ダイナミクスを犠牲にせずにラウドネスを稼ぐには、マルチバンドコンプレッサーやややソフトなリミッティング、またはトランジェントの処理でバランスを取る。
  • 最終チェックは実際の配信形式にエンコード（例：AAC/MP3/YouTube用エンコード）して再測定する。エンコードでラウドネスやピークに微妙な影響が出ることがあるためです。

推奨メーターとツール

代表的なラウドネスメーターとしては次が挙げられます。どれもIntegrated LUFSやLRA、True Peak表示が可能です。

  • Youlean Loudness Meter
  • iZotope Insight
  • Waves WLM Plus Loudness Meter
  • TC Electronic LM2やNUGEN Visualizerなどのプラグイン

これらは実用的で視覚的にも分かりやすく、プロのワークフローでも広く使われています。

よくある誤解と注意点

  • 「LUFSが高い＝良い音」ではない：ラウドネスを上げすぎるとクリッピングや歪み、ダイナミクスの消失を招く。
  • プラットフォームの正規化アルゴリズムは変わる：サービスが基準を変更することがあるため、最新情報を定期的に確認する。
  • Integrated値は曲の長さや無音区間に影響される：フェードや無音の扱いに注意。
  • 測定と実際の聴感は常に一致しない：測定は客観的指標であり、最終的な判断は良好な参照モニタリングとリスニングで行うべき。

まとめ

Integrated LUFSは現代の音声制作・配信において不可欠な指標です。ITUやEBUなどの標準を理解し、ターゲットプラットフォームに応じたIntegrated LUFSとTrue Peakの管理を行うことで、リスナーにとって快適で均一な音量体験を提供できます。マスタリング段階では測定ツールを活用しつつ、音楽的なダイナミクスと音質を優先して調整することが最も重要です。

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