音列(おんれつ)とは何か:十二音技法から現代作曲への応用と分析

音列とは――定義と基本概念

音列(おんれつ)は、作曲や分析で用いられる「音の並び(列)」を指す用語で、特に近代以降の無調や十二音技法において中心的な役割を持ちます。最もよく知られるのは十二音技法(twelve-tone technique)で用いられる十二音列で、十二の半音階音を特定の順序で並べたものを基本材料として作品全体を組織します。音列は単に音高の順序を示すだけでなく、それを変形(逆行、反行、逆行反行、転置など)して動機的・和声的素材として用いることで、無調性の統一を図る手段となります。

歴史的背景:誰が、いつ、なぜ音列を使い始めたか

十二音技法の創始者として一般に知られているのはアルノルト・シェーンベルク(Arnold Schoenberg)です。シェーンベルクは1920年代初頭に十二音技法を体系化し、その技術を用いた最初期の代表作にはピアノのための組曲 Op.25(1921–23)が挙げられます。同時期に、ヨーゼフ・マティアス・ホウエル(Josef Matthias Hauer)も独自に十二音の体系を展開しており、両者は独立に十二音的な手法を発展させました。

第二次世界大戦後、ミルトン・バビット(Milton Babbitt)やピエール・ブーレーズ(Pierre Boulez)、カールハインツ・シュトックハウゼン(Karlheinz Stockhausen)らによって、音列の概念は音高のみならず、リズム・強弱・音色など他の音楽的パラメータにも適用される「総合的(トータル)セリアリズム」へと拡張されました。

音列の構造と主要な変形

十二音列を中心に、音列の基本的な操作には以下のようなものがあります。

  • 素朴形(原形:Prime, P)— 初期の並び。
  • 反行(Inversion, I)— 各音程の上下を反転(長2度上は長2度下に)させた形。
  • 逆行(Retrograde, R)— 音列を逆順にした形。
  • 逆行反行(Retrograde-Inversion, RI)— 反行したものを逆順にする(または逆行した形を反行する)。

これらを転置(一定の音程で上下移動)することで、通常は48(12×4)種類の形態が理論的に得られます。作曲家はこの組み合わせを用いて動機の発展や対位法的な構造を作ります。音列の性質として重要なのは「六音集合の組合せ(ヘクサコードの組合せ的性質)」で、2つの六音群が互いに合成して全部で十二音を完成する〈結合性(combinatoriality)〉などが分析上よく議論されます。

音列とピッチクラス理論(集合論的アプローチ)

20世紀後半には、アレン・フォルテ(Allen Forte)らによるピッチクラス集合(pitch-class set)理論が発展し、音列や無調音列の分析に数学的・類型学的手法を導入しました。フォルテは集合の相補性、正規形(prime form)、Forte番号といった概念を提示し、音列を部分集合に分解して比較・分類することで、見かけ上の多様性を体系的に記述しました。これにより、音列同士の関係や不変要素(インヴァリアント)を明示的に扱うことが可能になりました。

作曲技法としての応用:作例と傾向

音列は単なる音高列の羅列に留まらず、構想段階で様々な機能を持ちます。例として:

  • 動機的統一:特定の短い音列素材を作品中に反復・変形して主題的統一を図る。
  • 和声的色彩の規定:音列の内部で頻出する小さな集合が“擬似和音”として機能する。
  • 対位法的配置:原形と反行形を重ねることで対位的な関係を生む。
  • 行動規則としての使用:歌詞・リズム・奏法を音列の各要素に対応させ、シリアルなルールで配分する(総合的シリアリズム)。

作曲上の良い例として、シェーンベルクの『ピアノ組曲 Op.25』、ウェーベルン(Anton Webern)の短く精緻な十二音作品、ベルク(Alban Berg)の『リリック組曲(Lyric Suite)』などがあります。ベルクは十二音技法を採りつつも、伝統的な和声や動機を保持し、聴覚的に「半音階的ではあるが親しみやすい」結果を生んでいます。

音列の設計:実践的なポイント

作曲者が音列を設計するときに考慮すべき点を挙げます。

  • 間隔構成:段階的(隣接半音)な動きと跳躍のバランスを考える。跳躍が多いとフレーズの連続性が失われることがある。
  • 和声的含意の回避または活用:特定の三和音や五度連結が現れると伝統和声的な帰結を暗示するため、意図的に避けるか、逆に利用する。
  • 反復とリズム:同じ音列をそのまま繰り返すのではなく、リズム・オクターブ・アーティキュレーションで差別化する。
  • 部分集合の利用:音列を小さな集合(例:二音、三音、四音など)に分割して動機を作ると聴覚的な親近性が生まれる。
  • 行列(マトリクス)の活用:全ての形態(P, I, R, RI)を一覧できる行列を作ると、作曲時に形態選択が容易になる。

分析上の留意点

音列音楽を分析する際は、単に音列そのものを追うだけでなく、次の点を意識すると深い洞察が得られます。

  • 楽曲内での行列の使用法:その選択が形式やテンポ、フレージングにどう反映されるか。
  • 動機の継承関係:同一または類似の部分集合がどのように連続しているか。
  • テクスチャとオーケストレーション:音列が異なる楽器で提示されることで生じる色彩的効果。
  • 聴覚的焦点:聴者がどの音列要素を「テーマ」として認識するかは、配置や強調に大きく依存する。

音列の現代的展開と多様化

20世紀後半から21世紀にかけて、音列の概念はさらに拡張しました。以下は主な展開です。

  • 拡張音列:十二音に限定しない、微分音や非西洋音階を用いた音列。
  • 多次元シリアリズム:音高・リズム・音量・音色をそれぞれ別の列で統制する試み。
  • アルゴリズム的作曲:コンピュータを用いて音列を生成・変形し、複雑な規則性を実現。
  • ポストセリアルな応用:行為としての音列(例:即興や電子音楽の素材操作)における新たな意味づけ。

実作へのアドバイス:初めて音列を扱う作曲家へ

音列を使うときは、まず小さなスタディ(短いピースや練習)で素材の性格を確認することを勧めます。以下の手順が実用的です。

  • 短い行列を作る(12×4の行列を作成)して、全形態を把握する。
  • 部分集合を抽出して、そこから短いモチーフを作る(反復や変化を試す)。
  • リズムと配器で同じ音列を異なる表情に変える練習をする。
  • 必要ならば、従来の和声や旋律の要素と混成して「ハイブリッド」な語法を試す(ベルクのように)。

結び――音列はルールであり素材でもある

音列は、作曲家にとっての「ルール」と「素材」の二面性を持ちます。ルールとしては作品全体の統一性や構造を提供し、素材としては多様な動機・和声・テクスチャを生み出します。鍵はルールを硬直させず、音楽的判断(聴覚的効果や語法的目的)に基づいて柔軟に使いこなすことです。現代の作曲では、音列は過去のイデオロギー的装置ではなく、豊かな創作の道具として再評価されています。

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参考文献