スタッカティッシモ(staccatissimo)を深掘り:記譜・演奏・歴史・実践テクニック
スタッカティッシモとは何か — 定義と語源
スタッカティッシモ(staccatissimo)は、イタリア語の「staccato」の最上級形で、「非常に短く切る」「極端に離して演奏する」ことを意味する音楽記号・奏法用語です。一般的に「スタッカート(staccato)」よりも極端に短く、音をより明確に切り離すことを示します。記譜上は点(・)よりも強調されたウェッジ記号(小さな三角形や下向きの楔)や短い縦線などで示されることが多いですが、作曲家や時代、版によって記号はさまざまです。
記譜法:記号とその意味
一般的なスタッカティッシモの表現方法は以下の通りです。
- 楔(wedge/chevron):上向きまたは下向きの小さな三角形。最も典型的な表記で「極短」を示す。
- 短い縦線や斜線:時に縦に近い短い棒で示されることがあり、奏者には切りの鋭さを指示する。
- 点(スタッカート)と組み合わせた表記:作曲家が特別なニュアンスを求める場合、点の代わりに楔を使うか、両者を補助的に使うことがある。
注意点として、出版社や時代によって同一の記号が異なる意味合いで用いられる場合があるため、原典や版の注釈を確認することが重要です。
歴史的・様式的背景
バロック期から古典派、ロマン派、近現代に至るまで、短く切る演奏の概念は存在しましたが、スタッカティッシモという明確な表記やその解釈は時代や国によって変化してきました。バロック期にはアーティキュレーションの規則は現代ほど厳密には定まっておらず、演奏慣習に依存する部分が大きかったのに対し、19世紀以降は記譜が細分化され、作曲家がより細かく意図を示すようになりました。
20世紀になると、特に近現代作曲家はスタッカティッシモを含むさまざまなアーティキュレーションを実験的に用い、奏者に明確な音色変化や機械的な切れ味を求めることが増えました。StravinskyやBartókなどの作品では、短い断続的な音がリズムや色彩の主要要素として使われる例が多くみられます。
楽器別の演奏テクニック
ピアノ
ピアノでのスタッカティッシモは、鍵盤を速やかに離すことで音の短さを作り、サスティンペダルをほとんど使わない(または使わない)ことが基本です。指先・手首の素早いリリース、指を軽く離す感覚、そして必要なら打鍵の重量を調整して即座に音を切ることが求められます。ペダルを使用すると短さが失われるため、ペダル操作は慎重に。近代作品では作曲家が特定の相対長(例:音価の25%程度)を想定している場合もありますが、普遍的な比率は存在しません。
弦楽器(ヴァイオリン・チェロなど)
弦楽器ではスタッカティッシモはボウイングによって実現されます。非常に短いボウイング(鋭い下・上向きのストローク)、あるいはオフ・ザ・ストリングのスピッカート的な技法が用いられます。曲想によっては軽くスピッカートさせてオフ・ザ・ストリングにし、さらに短くするか、ボウの中ほどや先端を使って短く鋭い音を作ります。重音やダブルストップの場合、ボウの角度や力加減の調整が鍵です。
管楽器(フルート、クラリネット、トランペットなど)
管楽器では舌の位置・アタックの速さ、息の切り方で短さを作ります。舌で明確に音を切るタンギング(たとえばシングルタンギングやダブルタンギング)を鋭くし、息を素早く止めることで音を短くするのが一般的です。金管では唇の切れ、リード楽器ではリードの反応やアンブシュアのコントロールが重要になります。
声楽
歌唱においてはブレスと口腔の形を使って音を短く切る必要があり、語尾を切ることでスタッカティッシモ的な効果が得られます。声の明瞭さと音の切れを優先するため、響きをすぐに遮断する技術が要求されます。
解釈のポイントと誤解しやすい点
- スタッカートとの相違:スタッカティッシモはスタッカートよりさらに短くする指示だが、実際の長さは作曲家・時代・楽器によって変わる。普遍的な長さの比率は存在しない。
- ポルタート(portato)との混同:点とスラーの組合せで示されるポルタートは「やや切るが連続感を残す」奏法で、スタッカティッシモとは別物。見た目が似ることがあるため版をよく読む必要がある。
- 強調やアクセントとの違い:楔記号は時にアクセントや強調と混同されることがあるが、本来は音の長さ・切れを指示する。作曲家が両方を同時に意図する場合は別途アクセント記号が併記されることが多い。
現代の記譜・出版・制作における注意点
現代の楽譜作成ソフト(Sibelius、Finale、Doricoなど)はスタッカティッシモ用の記号を標準で備えていますが、フォントやレンダリングによって形状が異なるため、印刷物やPDFでの見え方に注意が必要です。また、デジタル配信やMIDIでの表現では単にアーティキュレーションのオン/オフだけでは音の短さが十分に再現されない場合があるため、ダイナミクスや音長の直接制御(ノートオフのタイミング調整)を併用することが望ましいです。
演奏家のための実践練習法
- メトロノームを使って短い音価の発声・打鍵を反復し、一定の切れを体得する(例:四分音符をテンポ60で、各拍に複数の短い音を入れて練習)。
- スコア読みの際は作曲家の他の指示(ダイナミクス、アーティキュレーション、フレーズ線)を総合的に判断し、スタッカティッシモがその場面でどう機能するかを考える。
- 他の奏者と合わせる場合、音の終わり(切れ)を合わせることがアンサンブルの肝。短い音の開始・終了を合わせる練習を重ねる。
ジャンル別の使われ方
クラシック音楽ではフレーズの輪郭付けやリズムの明瞭化に、ジャズ/ポピュラーではリズムのグルーヴやアクセントの強化に利用されます。現代音楽ではサウンド・エフェクトやリズム素材として極端な短さが意図的に用いられることがあり、電子音や打楽器的な扱われ方をする例も増えています。
まとめ:楽譜の指示を読み、音楽的に解釈する
スタッカティッシモは「非常に短く切る」という明確な概念を示しますが、その具体的な実現方法は楽器や時代、作曲家の意図によって幅があります。記号を見たらまず版や原典の注釈を確認し、曲全体の文脈や他のアーティキュレーションと合わせて解釈することが大切です。実践的には、奏者は自分の楽器に合ったテクニックを磨き、アンサンブルでは切れのタイミングを合わせることに重点を置くべきでしょう。
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参考文献
- Staccatissimo — Wikipedia (英語)
- Oxford Music Online / Grove Music (エントリ検索)
- IMSLP — Articulation カテゴリ
- Dolmetsch Online — Musical Terms
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