「non legato」を徹底解説：記譜・演奏法・練習法と楽器別の実践ポイント

2025年12月13日 最終更新日時 : 2025年12月13日 エバープレイ編集部

non legato の基本定義

「non legato（ノン・レガート）」はイタリア語で「レガートではない」を意味し、音と音の間にわずかな切れ目を作る演奏法を指します。完全に短く切るスタッカート（staccato）とは異なり、音の連続性を保ちつつも各音の輪郭を明確にする中間的な音づくりです。日本語では「セミ・スタッカート」や「やや切り気味」と説明されることもありますが、学術的には portato（ポルタート／メッゾ・スタッカート）と混同される場合があるため、記譜や演奏文脈での判断が重要です。

記譜上の表現と見分け方

non legato は楽譜上でいくつかの方法で示されます。

  • 直接の指示語：「non legato」または略して「non leg.」とテキストで書かれることがある。
  • 符頭・符尾の扱い：スラーの有無やスタッカート点、テヌート（tenuto）線（–）などの組み合わせで意図が示される。例えばスラーの下に点を打つ記号（スラー＋ドット）は一般にポルタート（portato）と呼ばれ、non legato に近い効果を生む。
  • 作曲家・時代による慣習：19世紀ロマン派の楽譜では「ポルタート」的な表記がよく見られる一方、近現代では明確に文字で「non legato」と指示することもある。

重要なのは、記譜が示すのは相対的な長さや切れ目の程度であり、演奏者は楽曲の様式やフレージング、同時代の演奏慣習を踏まえて解釈を行う点です。

non legato と類似表現との比較

  • レガート（legato）：音と音を滑らかにつなげ、ほとんど切れ目がない演奏。non legato はこれとは対照的にわずかな分断を伴う。
  • スタッカート（staccato）：音を短く切り離す。non legato はスタッカートほど短くはせず、音の長さは比較的保たれる。
  • ポルタート（portato / mezzo-staccato）：スラーの下に点を付けるなどして表され、softly detached（やわらかく切り離す）ニュアンス。多くの場合、portato と non legato は近い効果を指し得るが、portato は特に弓の交互的な扱いや連続したアクセント感を含意することがある。

楽器別の演奏法のポイント

ピアノ

ピアノでは鍵盤の押鍵と離鍵のタイミングでnon legatoを作ります。レガートでは指替えや指の重ねで音をつなぐが、non legato では次の音へ移る際にわずかにキーを離す時間を作り、音の尾に生じる残響やハーモニクスを自然に残しつつ明瞭さを保ちます。ペダルの使用は楽曲全体の響きを損なわないように注意して行い、持続が必要な箇所では弱い指示の半踏み（una cordaや部分的ダンパー）や短いペダルチェンジで調整します。

弦楽器（ヴァイオリン／チェロ等）

弓遣いが主要な要素です。non legato は短い弓のストロークや弓圧の調整で実現し、音自体はつながって聞こえるが各音の始まりと終わりに明瞭な区切りがあることが望まれます。具体的には：

  • 弓を滑らかに移動させつつ、各音の末尾でわずかに弓を切り替える（短い休止を入れる印象）。
  • ポルタート的な指示なら弓を同じ方向で軽く弓圧を変えながら発音し、連続する音を均一にする。

管楽器（フルート／クラリネット等）

舌（タンギング）の使い方が鍵です。レガートではレガートタンギング（舌の動きを最小限に）やスラーで舌を使わない発音が用いられますが、non legato では軽めのタンギングで毎音の始まりを明確にしつつ、息の流れは途切れさせないようにします。息の支えと柔軟な舌の動きで音の長さを保ちながら「やや離す」感覚を作ります。

声楽

歌唱では喉（声帯）や呼吸のコントロールでnon legatoを実現します。基本は連続した呼気を保ちつつ声帯の閉鎖を短時間ゆるめることで発音の輪郭を作ること。母音の形や共鳴の変化で音の切れ目を作らないよう注意し、言葉の意味やフレージングと一致させます。

実践的な練習法

  • メトロノームを用いて：まずは遅めのテンポで1拍または2拍ごとに軽く切る練習をし、徐々にテンポを上げる。音価を意識して同じ長さの持続感を保つこと。
  • ダイナミクスを変えて：強弱を変えるとnon legatoの表情が変わる。p ではほのかな切れ目、f では明確な輪郭を練習する。
  • 録音して聴く：自分のnon legatoがレガート寄りかスタッカート寄りか、あるいは均質かどうかを確認する。
  • 楽器別エクササイズ：ピアノは指ごとの独立性、弦はボウイングの分割、管はタンギングの軽さを意識した練習を取り入れる。

表現上の効果と使われ方

non legato は音楽表現において以下のような効果をもたらします：

  • フレーズの輪郭を強調し、旋律線を明瞭にする。
  • 軽快さや機敏さ、あるいは語りかけるような親密さを演出する。
  • アンサンブルでは他声部との混濁を避け、和声の輪郭を際立たせるために用いられる。

作曲家の用法例としては、ロマン派の室内楽やオーケストラ作品で室内的な対話を作る際に多用され、近現代作品では色彩的な表現として自由に使われます。楽器の特性と編成によって意図が大きく変わるため、指示がある場合は必ずスコア全体の文脈を参照してください。

記譜の曖昧さと演奏上の決定

同じ「non legato」と書かれていても、楽譜の時代、出版社の校訂、演奏のスタイルによって解釈が分かれることが多い点に注意が必要です。編集版によりポルタートの記号が追加されていたり、逆に指示が削られていたりすることがあります。可能であれば原典版（ファーストエディション）や作曲家の手稿、信頼できる批評版を比較し、指示の意図を検討します。また指揮者やリーダーと解釈を合わせることも重要です。

実例と聴きどころ（短評）

具体的な楽曲でnon legato的表現が光る場面を聴き分けると、演奏解釈が深まります。例としては：

  • 弦楽四重奏の内声部での語り：旋律が比較的短いフレーズで途切れつつも全体は連続する効果。
  • ピアノ小品の対句：右手の旋律が非レガートで語られることで左手伴奏との対比が生まれる場面。
  • 木管合奏の応答：軽いタンギングでフレーズの輪郭を立てる場面。

これらの箇所では、non legato の程度によって曲想が大きく変わります。録音を比較して、演奏者ごとの解釈の違いを聴き分けることを勧めます。

まとめ：non legato を使いこなすために

non legato は単なる「中間の長さ」を示すだけでなく、フレージングやアーティキュレーションを通して作曲家の意図する表情を表す重要な手段です。記譜をそのまま機械的に再現するのではなく、楽曲の様式、演奏する楽器の機能、アンサンブル内での役割を踏まえた上で、微妙な切れ目の度合いをコントロールすることが求められます。練習ではメトロノームや録音を活用し、楽器別のテクニックを磨くことで表現の幅が広がります。

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