ブロステップとは何か――起源・音楽性・プロダクションを徹底解説
ブロステップとは
ブロステップ(Brostep)は、2000年代後半から2010年代前半にかけて、特にアメリカ圏で広まったダブステップの派生形を指す呼称です。一般的には攻撃的で中域寄りの“ギラついた”ベースサウンド、強調されたドロップ、そしてEDMフェスやナイトクラブ向けにデザインされたショック価値の高い瞬発力を持つ点が特徴とされます。用語自体は当初やや蔑称的に用いられることもあり、UK発祥のダブステップの地下的・重低音重視の美学に対する商業化・アメリカナイズの批判を含んでいました。
起源と歴史
ダブステップ自体はロンドン周辺のSOUTH LONDONシーンで2000年代前半に発展しました。Benga、Skream、Digital Mystikz らがサブベースとスペース感を重視したサウンドを作り上げたのが基盤です。一方で2007年以降、UKの影響を受けつつもアメリカや北米、カナダのプロデューサーたちが独自のアプローチで音像を変化させていきます。
2009〜2011年頃、特にフェスティバル文化の拡大とインターネット上での拡散によって、より派手で“衝撃的”なサウンドを前面に出すプロデューサーが注目を浴びました。Skrillex(ソニー・ムーア)やRusko、Flux Pavilion、Doctor P、Excision、Datsik、Borgore などの名が広く知られるようになり、これらの音楽がラジオ、テレビ、映画やゲームのサウンドトラックに取り上げられることも増えました。
音楽的特徴
ブロステップはダブステップと同じテンポ域(おおむね140BPM)を保ちつつも、次のような特徴を持ちます。
- 中高域のフォーカス:伝統的なダブステップが低域のサブベース(サブソニック)で床を揺らすことを重視するのに対し、ブロステップはモジュレーションや波形編集で作る“グロウル”や“スクリーチ”といった中高域の変調音を前面に出します。
- ドロップの重視:イントロ→ビルド→ドロップというEDM的な楽曲構成が多く、ドロップでのサウンドデザインによって聴衆の反応を最大化します。
- 重い利得(ディストーション)と多段処理:ディストーション、波形再合成(resampling)、マルチバンド歪み、フィルタリングを多用して複雑で倍音豊かな音色を作ります。
- リズム処理:ハーフタイム感(スネアが2拍目と4拍目に来る見かけの遅さ)を残しつつも、トレース的なハイハットやトラップ由来のビートが融合されることが多いです。
主要アーティストと代表的作品
以下はブロステップの人気と認知に大きく貢献したアーティストと、聴きどころの一例です。
- Skrillex(ソニー・ムーア) — 2010年前後のEP群(『Scary Monsters and Nice Sprites』等)が世界的注目を集め、ブロステップのイメージを広く定着させました。
- Rusko — UK出身でありつつも、初期からダブステップのサウンドをダイナミックに変化させたプロデューサーの一人。EDMシーンとの橋渡し的存在でした。
- Flux Pavilion / Doctor P — 共に重いシンセリードやメロディックな要素を併せ持つトラックで知られ、クラブやフェスでの支持が高い。
- Excision / Datsik / Zeds Dead / Borgore — 北米・カナダ圏で“より重く、より攻撃的”なサウンドを追求し、ブロステップの派生的スタイルを作り上げました。
プロダクション面での手法
ブロステップのサウンドは高度なサウンドデザイン技術によって支えられています。代表的な手法を挙げます。
- ウェーブテーブル/FM合成:Xfer Serum、Native Instruments Massive、FM系のシンセで複雑な倍音構成を作ることが多いです(ソフトウェア名は一例)。
- サンプルの再処理(resampling):単純な波形やサンプルを何度も加工・録り直して層を重ね、独特のグロウルを生み出します。
- 多段ディストーションとEQ:帯域ごとに異なる歪みを与えることで、聴感上の“攻撃性”を調整します。マルチバンドコンプレッションやサイドチェインも常套手段です。
- 自動化とLFO:フィルターの移動や位相変調を時間軸で細かく自動化し、ダイナミクスと変化を付けます。
- 空間処理:反響やディレイは節度を持って使い、主に中高域のテクスチャを広げる目的で用いられます。過度なリバーブは低域の分離を損なうため注意が必要です。
文化的影響と批評
ブロステップの台頭はダブステップの商業的拡大を象徴しました。大規模フェスのヘッドライナーやメディア露出が増えた一方で、UKのオールドスクールなダブステップ・リスナーからは「サブカル的深みが失われた」「刺激優先で音楽的繊細さが犠牲になった」との批判もありました。こうした論争の中で“bro(陽気で派手な若者文化)”を連想させるネーミングが定着し、ジャンルラベルが持つ価値判断の問題も浮き彫りになりました。
その後の進化と派生
2010年代中盤以降、ブロステップは一過性の流行として語られることもありますが、多くの要素はその後のベースミュージック全般に吸収されました。リディム(Riddim)やフューチャー・ベース、トラップとのクロスオーバー、さらにポップスへの影響など、ブルースプリット的に分岐しながら現在も影響力を保っています。また、プロダクション手法の高度化は、サウンドデザイン全般のクオリティ向上に寄与しました。
聴きどころと入門曲
ブロステップを理解するための入門的な聴取順の一例を示します。各曲のサウンドデザイン、ドロップの構造、リズム処理を比較しながら聴くと特徴がつかみやすいです。
- Skrillex – Scary Monsters and Nice Sprites(EP収録曲群)
- Rusko – Cockney Thug / Hold On
- Flux Pavilion – I Can’t Stop
- Doctor P – Sweet Shop
- Excision – X Rated / Heavy-hittingライブ録音
まとめ:評価と現代的意義
ブロステップはサウンドの攻撃性と即時的なカタルシスを追求することで、エレクトロニック・ダンス音楽の新たな受容経路を開きました。賛否両論あるものの、サウンドデザインやプロダクション技術の面では重要な遺産を残しており、今日の幅広いベースミュージックの表現に影響を与え続けています。音楽としての価値を評価する際は、文化的背景、クラブ/フェスでの機能、そしてサウンドそのものの創造性を総合的に見ることが大切です。
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参考文献
- Dubstep — Wikipedia
- Skrillex — Wikipedia
- Rusko (musician) — Wikipedia
- Flux Pavilion — Wikipedia
- Doctor P — Wikipedia
- Excision — Wikipedia
- Zeds Dead — Wikipedia


