Amazon RDS徹底解説:仕組み、運用、移行、ベストプラクティスまで

概要:Amazon RDSとは何か

Amazon Relational Database Service(RDS)は、AWSが提供するフルマネージドのリレーショナルデータベースサービスです。サーバーやストレージのプロビジョニング、パッチ適用、バックアップ、スナップショット、障害時のフェイルオーバーなど、データベース運用の多くの作業を自動化・簡素化します。対応エンジンにはAmazon Aurora、MySQL、PostgreSQL、MariaDB、Oracle Database、Microsoft SQL Serverが含まれます。

主要コンポーネントとアーキテクチャ

RDSは以下の主要要素で構成されます。

  • DBインスタンス:データベースエンジンが稼働する仮想インスタンス。インスタンスタイプによりCPU、メモリ、ネットワーク性能が決まる。
  • ストレージ:汎用SSD(gp3/gp2)、プロビジョンドIOPS(io1/io2)、マグネティックなど。ストレージはインスタンスから分離され、スナップショットで保存可能。
  • DBパラメータグループとオプショングループ:データベース設定と拡張機能の管理。
  • マルチAZ構成:HAを提供するためのスタンバイインスタンス。同一リージョン内別アベイラビリティゾーンに同期レプリケーションで配置される。
  • リードレプリカ:読み取り処理を分散するためのレプリカ。エンジンにより実装や挙動が異なる。

バックアップと復旧

自動バックアップは有効化すると、RDSが定期的にフルバックアップと継続的なトランザクションログを取得してポイントインタイムリカバリを提供します。スナップショットはユーザー主導で実行する手動バックアップで、削除するまで保持されます。Auroraではストレージレイヤーが継続的にスナップショットを取り、ボリュームは自動でスケールする設計です。

高可用性とディザスタリカバリ

RDSの高可用性は主にマルチAZ配置で実現します。マルチAZでは同期レプリケーションによりプライマリ障害時に自動でスタンバイへフェイルオーバーします(エンジンやエディションによる実装差はあります)。Auroraはクラスタストレージを用い、データは複数のAZに複製されており、障害からの復旧が高速です。

クロスリージョンレプリケーションやスナップショットのコピーを用いることで、地域障害に備えたDR(ディザスタリカバリ)を構築できます。Aurora Global Databaseは低レイテンシでのクロスリージョンリードレプリカを提供します。

スケーリング戦略

RDSのスケーリングは主に垂直スケール(インスタンスサイズ変更)と水平スケール(リードレプリカやシャーディング)に分かれます。ストレージは多くのケースでオンラインで拡張可能です。Aurora Serverless v2やプロビジョニングRDSの組み合わせにより、コスト効率とパフォーマンスを両立できます。

パフォーマンス管理

パフォーマンスの可視化にはCloudWatch、Enhanced Monitoring、Performance Insightsが使えます。Enhanced MonitoringはOSレベルのメトリクスを取得し、Performance InsightsはSQLレベルで負荷の原因(トップSQL)を特定します。プロビジョンドIOPSやgp3のI/Oチューニング、適切なインデックス設計、クエリ最適化が不可欠です。

セキュリティ

セキュリティは複数層で実装します。ネットワークレベルではVPC、サブネット、セキュリティグループでアクセス制御を行い、パブリックアクセスを限定します。データはKMSによる暗号化で保護でき、保存時の暗号化と転送時のTLSをサポートします。IAMと連携した管理者アクセス制御や、特定エンジンでのIAM DB認証も利用可能です。監査ログや拡張ログはCloudWatch LogsやS3へ送って保管・分析できます。

運用・管理上のポイント

  • メンテナンスウィンドウ:RDSは自動パッチ適用のタイミングを設定可能。重要な更新はテスト環境で事前検証する。
  • パラメータ管理:パラメータグループでエンジン設定を管理。変更が即時反映されるものと再起動が必要なものがある。
  • 監視:CloudWatchアラームとログ監視で容量・I/O・接続数の異常を早期検知。
  • バックアップ戦略:自動バックアップ+定期スナップショットでデータ保持ポリシーを確立。

移行と互換性

既存オンプレミスや他クラウドのデータベースからRDSへ移行する場合、AWS Database Migration Service(DMS)がよく使われます。DMSは継続レプリケーションでダウンタイムを最小化しつつデータ移行を行えます。ただし、エンジン間の機能差や拡張機能の互換性(例:Oracle固有機能や拡張PostGISなど)には注意が必要です。

ライセンスとコストに関する注意点

OracleやSQL Serverはライセンス込みのインスタンスとBring Your Own License(BYOL)の両方を選べます。AuroraやMySQL、PostgreSQL、MariaDBはライセンスフリーです。コストはインスタンスサイズ、ストレージタイプ、IOPS、データ転送、スナップショットストレージなどで決まります。リザーブドインスタンスやSavings Plansを活用すると長期利用で大幅な削減が可能です。

よくある制約と落とし穴

  • スーパーユーザー権限が制限される:RDSはマネージドサービスのため、ルート相当の完全なOS/DB権限は提供されない(ただし必要な管理権限は提供)。特定の拡張やカスタムモジュールの導入が制限される場合がある。
  • インスタンスの変更時のダウンタイム:垂直スケールや一部の変更は再起動を伴うため、フェイルオーバーやメンテナンスウィンドウの計画が必要。
  • ストレージ上限:RDS(MySQL/PostgreSQL等)の一般的なストレージ上限は64TiB、Auroraは最大128TiBまで自動拡張するなど、エンジンごとに差がある。

実運用向けベストプラクティス

  1. 可観測性の確保:CloudWatch、Enhanced Monitoring、Performance Insights、ログ集約を必ず導入する。
  2. 冗長性の確保:重要システムはマルチAZ化、リージョン冗長化が可能な場合はスナップショットやクロスリージョンレプリケーションを導入する。
  3. バックアップポリシー:RPO/RTOに基づいた自動バックアップ設定と定期的なリカバリーテストを実施する。
  4. セキュリティ設計:最小権限のアクセス制御、KMSでの暗号化、ネットワーク分離を徹底する。
  5. コスト最適化:適切なインスタンスタイプ選定、ストレージクラスの見直し、リザーブドインスタンス/Savings Plansの活用。

実践例とユースケース

RDSは典型的なトランザクション系システム、Webアプリケーションのバックエンド、分析用の準OLAPクエリ、BIツールのデータソースなど広範なワークロードに使われます。読み取り負荷が高い場合はリードレプリカ、書き込み負荷が高い場合はアプリケーションレイヤーでのシャーディングやAuroraのスケーリング機能を検討します。

まとめ

Amazon RDSはリレーショナルデータベース運用の多くを自動化し、可用性・バックアップ・監視などの基盤機能を提供します。ただしマネージドゆえの制約やエンジン固有の制限、運用設計の重要性は変わりません。RDSを効果的に使うには、アーキテクチャ設計、監視、バックアップ、セキュリティとコスト管理をバランスよく設計することが重要です。

参考文献

Amazon RDS 公式ページ

Amazon RDS ユーザーガイド(AWS ドキュメント)

Amazon Aurora の概要(AWS ドキュメント)

RDS ストレージの詳細と制限(AWS ドキュメント)

AWS Database Migration Service(DMS)公式ページ

Amazon RDS の機能一覧(AWS)

IAM DB 認証とセキュリティ(AWS ドキュメント)

Amazon RDS Proxy(接続プーリング)