エピック・トランスの起源と音作り──壮麗さを生む構造と代表曲ガイド
エピック・トランスとは
エピック・トランス(Epic Trance)は、トランスという広義の電子音楽の中でも、劇的で壮大なスケール感を重視した表現を持つスタイルを指す呼称の一つです。長いビルドアップ、オーケストラ的なパッドやストリングス、荘厳なブレイクダウンとカタルシスを生むクライマックスを特徴とし、リスナーの感情を高揚させる“アンセム性”が強調されます。厳密に定義されたひとつのジャンルというよりは、アップリフティング・トランスやアンセム・トランス、プログレッシヴ・トランスと要素が重なり合うスタイルの総称として使われることが多いです。
歴史と発展
トランス自体は1990年代初頭にクラブ/レイブ文化から派生しましたが、1990年代後半から2000年代にかけてフェス文化や大型クラブセットの隆盛とともに「大規模で感情に訴える」楽曲作りの流れが顕著になります。この時期、長尺で劇的な構成を持つトラックやリミックスが“アンセム”として支持され、ラジオ番組やDJセットで何度もプレイされることで大衆的な認知度が高まりました。
その後の2000年代中盤以降、DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)とサンプル/プラグインの発達により、オーケストラ的テクスチャや豪華なサウンドデザインを比較的容易に取り入れられるようになり、“エピック”な表現はプロダクション面でも拡張されました。
音楽的特徴
- 構成:イントロ→ビルド→ブレイクダウン→ビルド→ドロップ/クライマックスというドラマ性のある長めの構成が多い。ブレイクダウンでテンポ感や音数を落とし、メロディや質感で感情を溜める手法が定番です。
- メロディとコード:シンプルで覚えやすいフック(リード・メロディ)を重視。コード進行はしばしばメジャー中心で希望感や荘厳さを演出することが多いが、モーダルな転調やマイナーの要素を入れてドラマ性を高めることもあります。
- サウンドデザイン:ストリングスやブラス、合唱サンプルといったオーケストラ的要素をシンセで再現・重ねる手法が目立つ。巨大なリバーブとレイヤーによる広がり、ステレオワイドニング、ディレイやホール系エフェクトを多用します。
- BPM帯:伝統的なトランスの範囲(概ね130〜140 BPM)に入ることが多いが、楽曲の性格によって前後します。テンポよりも“高揚感の演出”が重視されます。
- ダイナミクス:長いビルドアップによる緊張と解放の対比があり、ミックスやマスタリングで明確なダイナミックレンジを意識した作りが好まれます。
制作と音作りのポイント
エピック感を出すための実践的な制作上の工夫は以下の通りです。
- レイヤリング:リード音色を複数重ね、異なる倍音構造やフィルター特性を組み合わせて存在感を作る。
- オーケストラル・サンプルの併用:ストリングスやブラス、合唱のサンプルをシンセ音と混ぜることで有機的な厚みを得る。
- リバーブ/ディレイの活用:大きな空間感を演出するために広いホール系リバーブやテンポ同期ディレイを使う。
- フィルターとイコライジング:ブレイクダウンではローパスやハイパスで音数を削ぎ、クライマックスで一気に開放することでインパクトを作る。
- サイドチェインとコンプレッション:キックとの干渉を調整しつつ、グルーブ感とパンチを両立させる。マルチバンド・コンプレッサーで帯域毎に制御すると混濁を防げます。
- 自動化とモジュレーション:フィルターのカットオフ、ディレイフィードバック、リバーブ量などを細かく自動化することでドラマを演出します。
代表的なアーティストとトラック(一例)
「エピック」と呼ばれる表現を取り入れたトラックは、トランスの主要アーティストたちのレパートリーに多く見られます。以下はジャンルの感触を掴むための代表例です(必ずしもそのアーティストが“エピック・トランス”専門という意味ではありません)。
- Tiësto — 「Adagio for Strings (Tiësto Remix)」:オーケストラ音源をトランスに落とし込み、劇的な展開を強調した好例です。
- Binary Finary — 「1998 (Paul van Dyk Remix)」:アンセム性の高いメロディが特徴。クラシックなトランス・アンセムとして知られます。
- Paul van Dyk — 「For an Angel」:エモーショナルでメロディックなトランスの代表的トラックの一つ。
- Armin van Buuren、Ferry Corsten、Above & Beyondなど:フェスやラジオでプレイされるアンセム性の強いトラック群は、エピックな要素を内包することが多いです。
ライブ/フェスにおける位置付けと文化的影響
エピック・トランス的な楽曲は、大規模フェスや屋外イベント、ラジオのスペシャルセットでの“盛り上げる”役割を担うことが多いです。視覚演出(ライティング、映像)と強く結びつき、曲の盛り上がりと合わせて観客の一体感を作る点が特徴です。また、映画音楽的な要素を取り入れることで、映画・ゲームのサウンドトラック制作に影響を与えるケースも散見されます。
聞き方と楽しみ方の提案
エピック・トランスを楽しむには、以下のような聞き方が向いています。
- ヘッドフォンで細部のレイヤーを確認する:リバーブやディテールが多いため、ヘッドフォン再生での発見が多い。
- アルバム/セットを通して聴く:単曲だけでなく、DJミックスやセット全体を通じての“盛り上がりの設計”を体感するのが面白い。
- ライブ映像と合わせて観る:映像と音の同期による感情の高まりを体験することで、エピックさの効果は一層強まります。
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参考文献
- Trance (music) — Wikipedia
- Trance Genre Overview — AllMusic
- Adagio for Strings (Tiësto song) — Wikipedia
- 1998 (Binary Finary song) — Wikipedia
- For an Angel — Wikipedia
- Trance — Resident Advisor (genre overview)
- Discogs Search: "Epic Trance"


