営業利益とは何か|計算式・改善策・業種別の目安を徹底解説

営業利益の定義と重要性

営業利益は、企業の本業(主たる事業活動)から得られる利益を示す会計上の指標です。売上高から売上原価と販売費及び一般管理費(いわゆる販管費)を差し引いたもので、企業の事業収益力や本業の競争力を評価する基本的な尺度となります。経営判断、投資家や金融機関による信用評価、業績管理の基準として広く用いられます。

営業利益の計算式と損益計算書上の位置

基本的な計算式は次のとおりです。

  • 営業利益 = 売上高 - 売上原価 - 販売費及び一般管理費(販管費) + 営業外収益(ただし通常は本業に関連するもののみ営業利益に含む)

損益計算書(PL)では、通常「売上総利益(粗利益)」から販管費を差し引いた段階で営業利益が表示されます。すなわち、売上高 → 売上原価(差引で売上総利益)→ 販管費(差引で営業利益)→ 営業外損益を加減して経常利益、さらに特別損益で税引前当期純利益へと続きます。

用語の整理:営業利益、EBIT、EBITDA、経常利益の違い

  • 営業利益(Operating Income): 本業からの利益。販管費や減価償却費、研究開発費が含まれる。
  • EBIT(Earnings Before Interest and Taxes): 金利・税金控除前利益。営業外収益・費用も含む場合があるが、本業+営業外の本質的営業活動を含めた概念。
  • EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization): 減価償却費・償却費を差し引く前の利益。キャッシュ創出力の指標として使われやすい。
  • 経常利益: 営業利益に営業外収益(受取利息・配当金など)を加え、営業外費用を差し引いたもの。企業の継続的な収益力を示す。

具体的な数値例(簡単なモデル)

売上高: 1,000万円、売上原価: 600万円、販管費: 200万円 の場合、

  • 売上総利益 = 1,000 - 600 = 400万円
  • 営業利益 = 400 - 200 = 200万円
  • 営業利益率 = 200 / 1,000 = 20%

この営業利益率20%は、その企業の本業の利益率を示します。業種によって標準値は大きく異なります(後述)。

営業利益率の見方と業種別の目安

営業利益率(営業利益÷売上高)は収益構造の効率性を比較する際の基本指標です。一般的傾向は以下の通りですが、あくまで目安です。

  • 小売・卸売業: 低め(1〜5%程度)。在庫回転と薄利多売が影響。
  • 製造業: 中程度(5〜15%程度)。製品差別化や原価管理で幅が出る。
  • IT・ソフトウェア、サービス業: 高め(10〜30%程度)。固定費比率やスケールメリットで高収益を出しやすい。
  • 飲食業: 低〜中(3〜10%)。立地や人件費が利益を圧迫。

上記は一般論であり、企業の規模、販売チャネル、ビジネスモデルによって大きく変わります。同業他社、過去の自社推移、市場平均と比較することが重要です。

営業利益を改善する主なアプローチ

営業利益を増やすには、売上の拡大(量・価格・ミックス)と費用の削減(直接費・間接費)の両面から施策を講じる必要があります。

  • 収益面の施策
    • 価格戦略の見直し(値上げの是非、プレミアム商品の導入、バンドル販売)
    • 販売チャネル最適化(高利益チャネルへのシフト、直販比率の向上)
    • 商品ミックス改善(粗利率の高い商品を拡充)
    • 顧客セグメント別のLTV向上(アップセル、クロスセル、リテンション強化)
  • コスト面の施策
    • 購買力強化とサプライヤー交渉による原価低減
    • 業務効率化・自動化(RPA、ERP導入、プロセス改善)による販管費削減
    • アウトソーシングやBPOによる固定費の変動費化
    • 製品設計段階でのコスト削減(コストエンジニアリング)
  • その他
    • 投資判断の見直し(ROIが低い事業の整理・撤退)
    • 税務・会計処理の最適化(合法的な節税や償却計画の見直し)

会計上の注意点と粉飾リスク

営業利益は経営実態を示す有用な指標ですが、会計処理の方法や一時的な要因により変動します。注意点は次の通りです。

  • 販管費への分類(どの費用を販管費に含めるか)で営業利益は変わる。意図的に分類を変更すると営業利益を一時的に操作できる。
  • 減価償却や償却方法(定額法・定率法)、研究開発費の費用処理タイミングにより利益が変動する。
  • 在庫評価(先入先出法、後入先出法)によって売上原価が変わり営業利益に影響する。
  • 一時的な収益(補助金や保険金)や費用(災害損失)を営業外に計上するか特別損益にするかで連続性のある利益比較が困難になる。

したがって、営業利益を評価する際は、注記や会計方針を確認し、継続的な収益力(quality of earnings)を見極めることが重要です。

営業利益とキャッシュフローの違い

営業利益は発生主義に基づく会計上の利益であり、必ずしも現金の動きと一致しません。営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)は、営業利益に以下のような調整を加えたものです。

  • 減価償却費の加算(非現金費用)
  • 売掛金・買掛金・在庫の増減による運転資本の変動

短期的に営業利益は黒字でも、在庫の積み上がりや売掛金の回収遅延で営業CFが逼迫することがあります。資金繰り管理の観点では、営業利益と営業CFの双方を監視する必要があります。

予測モデルとシナリオ分析の実務

営業利益の予測は経営計画や資金計画の基礎となります。実務では以下のアプローチが有効です。

  • トップダウン:市場成長率やシェア目標から売上高を推計し、過去のコスト構造を当てはめて利益を算出。
  • ボトムアップ:製品別・チャネル別に売上単価・数量・原価・販管費を積み上げる方式。より精緻だが時間がかかる。
  • シナリオ分析:ベースケース、楽観ケース、悲観ケースを設定し、価格変動・原材料価格・販売数量などの感度を検証する。
  • 感度分析:営業利益率に対する価格・原価・販管費の寄与度を算出し、優先的に改善すべき施策を特定する。

KPIとの連携とモニタリング

営業利益を改善・維持するためには、以下のKPIを定期的にモニタリングすると効果的です。

  • 売上高成長率、顧客別売上構成、平均単価
  • 売上原価率、仕入れ価格の変動、在庫回転率
  • 販管費比率(販管費÷売上高)、人件費比率、広告費効率(投下費用あたりの売上)
  • 営業利益率、営業CFマージン、ROIC(投下資本利益率)

経営実務上の優先順位と実行のポイント

営業利益改善の取り組みは短期のコストカットだけでなく、中長期の収益基盤強化が重要です。優先順位の例:

  • 短期(3〜6か月): 費用のムダ取り、価格改定交渉、在庫削減。
  • 中期(6か月〜2年): プロセス改革、IT投資による効率化、チャネル最適化。
  • 長期(2年以上): 製品ポートフォリオの見直し、研究開発・ブランド投資による差別化、海外展開の戦略的投資。

経営層は各施策の影響を数値化(NPV、ROI)し、短期的な利益改善と長期的な競争力強化のバランスを取ることが求められます。

まとめ(チェックリスト)

  • 営業利益は本業の収益力を示す基本指標。損益計算書の中で非常に重要な位置を占める。
  • 計算上の処理(販管費の分類、減価償却、在庫評価など)により見かけ上の増減が生じるため、注記や会計方針を確認すること。
  • 改善は売上拡大とコスト削減の両面で実施。短期・中期・長期の施策を組み合わせる。
  • 営業利益だけでなく営業キャッシュフローやROICなど他指標と併せて評価することが重要。

参考文献