ハーモニックスケールとは？理論・和声・モード・実践的活用ガイド

2025年12月16日 最終更新日時 : 2025年12月16日 エバープレイ編集部

ハーモニックスケール（ハーモニック・マイナー）とは

ハーモニックスケール（一般的にはハーモニック・マイナースケールを指すことが多い）は、短調（マイナーキー）における重要な音階の一つで、自然短音階の第7音を半音上げたものです。これによりトニックに向かう‘‘導音（leading tone）’’が生まれ、特にV（ドミナント）和音が長三和音（またはドミナント7）になって、強い解決感を作り出せるようになります。例えば、Aハーモニック・マイナーはA–B–C–D–E–F–G#–Aとなります。

構成と音程（インターバル）

ハーモニック・マイナーの半音構成は、全・半・全・全・半・増2度（3半音）・半（2–1–2–2–1–3–1）です。自然短音階との最大の違いは第7音（導音）の上昇で、これが和声的な機能に大きな影響を与えます。また、第6音と第7音の間に増2度（3半音）が生じるため、独特の”オリエンタル”や“中東風”の響きを生むことがよく指摘されます。

自然短音階・旋法的短音階との比較

  • 自然短音階（ナチュラル・マイナー）: 7度が下降（G）しており、和声的にV→iの強いドミナント進行を作りにくい。例：A–B–C–D–E–F–G–A。
  • 旋法的短音階（メロディック・マイナー）: 上行では6度と7度を上げ、下行では自然短に戻すのが伝統的な扱い。ジャズでは上行・下行同一（6度・7度を上げた形）で使うことが多い。
  • ハーモニック・マイナー: 7度のみ上げるため、V和音が長三和音となりドミナント機能が強くなる。増2度の存在により旋律的には扱いに注意が必要だが、和声的には有用。

ハーモニックスケールから作られる和音（トライアド・7th）

ハーモニック・マイナー上の各音を根音とした三和音・四和音を作ると、自然短とは異なる興味深い和音群が現れます（以下はAハーモニック・マイナーを例にした代表例）。

  • 三和音: i（A–C–E：短）、ii°（B–D–F：減）、III+（C–E–G#：増）、iv（D–F–A：短）、V（E–G#–B：長）、VI（F–A–C：長）、vii°（G#–B–D：減）
  • 四和音（7th）: iΔ7（m(maj7): A–C–E–G#）、iiø7（半減7: B–D–F–A）、III+M7（C–E–G#–B）、iv7（D–F–A–C）、V7（E–G#–B–D：ドミナント7）、VIΔ7（F–A–C–E）、vii°7（G#–B–D–F：全減7）

注目すべきはV和音が長三和音（E–G#–B）になり、V→iの機能和声が成立する点と、IIIが増三和音になることで生じる独特の色彩です。またvii°7は全減7（fully diminished seventh）になり、テンションや転調の足がかりとして使えます。

モード（旋法）と代表的な派生音階

ハーモニック・マイナーには自然に7つのモード（各音を始点とするスケール）が存在し、その中にはジャズや民族音楽でよく使われるものがあります。代表的なものを紹介します。

  • 第5モード：フリギアン・ドミナント（Phrygian Dominant） — スパニッシュ・サウンドやフラメンコで頻出。例：Eフリギアン・ドミナント（E–F–G#–A–B–C–D–E）は、フリギア的な短調感に長3度を持ち、非常に強いドミナント色を出す。
  • 第3モード：イオニアン♯5（Ionian #5 / Augmented Ionian） — 長調だが5度が増えていることで響きが拡張される。
  • 第2モード：ロクリアン♮6（Locrian ♮6） — ロクリアン系だが6度がナチュラルになり、特殊な半減和音語法が可能。
  • 第6モード：リディアン♯2（Lydian #2） — リディアン的な増四と、2度が上がっていることで独特の浮遊感がある。

これらのモードはジャズの即興、ロック／メタルのリフ、フラメンコや中東系の旋法に至るまで幅広く応用されます。特にフリギアン・ドミナントはギター音楽で非常にポピュラーです。

ジャンル別の使われ方と歴史的背景

  • 西洋古典音楽: 高度な和声処理のために第7音を上げる慣習が発展。バロックからロマン派にかけて短調のドミナント機能を強化するために広く用いられた。
  • フラメンコ・中東音楽: ハーモニック・マイナー由来のモード（特にフリギアン・ドミナント）は旋律と和声の核。微分音が用いられる伝統音楽とも相性が良い。
  • ジャズ: ドミナントの代替スケールやマイナーコードの即興（m(maj7)やV7→iの解決）に使用。マーク・レビン（The Jazz Theory Book）等の理論書でも詳細に扱われる。
  • ロック・メタル: ダークでエキゾチックな色彩をリフやソロに用いる。増2度や増三和音の不安定さが攻撃的な表現に向く。

作曲・即興での実践的ヒント

  • 基本形としてはトニック（i）とドミナント（V）を強調する進行（例：i–VII–VI–V や i–V–i）でハーモニック・マイナーの色が際立つ。
  • 旋律上、6度→7度の増2度（例えばF→G#）は大きな跳躍になるため、装飾的に使うか、代替経路（クロマチックアプローチ）でつなぐと自然に聴かせやすい。
  • モード選択は和音に合わせて行う。例えばV上ではフリギアン・ドミナント（5度のモード）を使うと即興が決まりやすい。
  • 和声の視点では、III+（増三和音）や全減7（vii°7）を転調の足がかりとして活用すると効果的。

よくある誤解と注意点

  • 「ハーモニックスケール＝常に強く中東的」というのは単純化しすぎ。使い方や和音進行次第でクラシック的、ジャズ的、ロック的と様々な表情を出せる。
  • 旋律上の取り扱いで、増2度の跳躍をそのまま長く使うと不自然に聴こえる場合がある。ソプラノやメロディでは順次進行や補助音で緩和する技術が有効。
  • ジャズではハーモニック・マイナーとメロディック・マイナーが混用されることが多い。どのスケールを使うかは和音の構成音とテンション（9,11,13の扱い）を考慮して決める。

まとめ

ハーモニックスケール（ハーモニック・マイナー）は、短調に強いドミナント機能をもたらし、和声的に多彩な可能性を生み出す音階です。増2度や増三和音、全減7など独特の和音群は、作曲・編曲・即興のいずれにおいても魅力的な表現手段となります。ジャンルを問わず活用できる一方、旋律的な扱いには配慮が必要な点を理解しておくと、より効果的に使えるでしょう。

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