近接マイク完全ガイド:使い方・配置・音作りの実践テクニック
はじめに — 近接マイクとは何か
近接マイク(クローズマイク)は、音源に非常に近づけて使うマイク技術の総称です。主にライブやスタジオ録音で用いられ、音源の直接音を強調して室内の残響や他の音の混入(ブリード)を抑えるのが目的です。ボーカル、ギターアンプ、ドラム、管楽器など幅広い場面で使われ、適切に使えば明瞭でパンチのある音を得られますが、その性質を理解していないと不自然な低域増強や位相問題などのトラブルを招きます。
近接マイクの原理と注意点(近接効果)
近接マイクを語る上で避けて通れないのが「近接効果(proximity effect)」です。これは指向性(単一指向性)マイクを音源に近づけると低域が相対的に増強される現象で、これはマイク内部の音圧差を利用する構造に由来します。主に単一指向性(カーディオイド、スーパーカーディオイド、フィギュア8など)で顕著に現れ、無指向性マイクではほとんど発生しません。
近接効果はメリットにもデメリットにもなります。ボーカルに厚みを出すために意図的に利用することもできますが、口元に近づけ過ぎると低域が膨らみすぎて濁る、またプラッシブ(p、b)や息のノイズが目立つといった問題を招きます。対処法としては、適切な距離の確保、ハイパスフィルターの使用、マイクのオフアクシス(やや角度を付ける)などがあります。
マイクの種類と近接での挙動
近接で使うマイクを選ぶ際は、カプセルのサイズ、指向性、感度、耐入力(SPL)などを考慮します。
- ダイナミックマイク:耐入力が高く、ライブやギターアンプ、スネアなど高音圧の音源に強い。低域の膨らみはあるが、ロック的なタイトな音作りに向く。
- 大型ダイアフラム・コンデンサ(LDC):暖かく豊かな中低域を持ち、ボーカルやアコースティック楽器で人気。近接効果が強めに出るモデルが多い。
- 小型ダイアフラム・コンデンサ(SDC):高域の分解能が高く、アコースティックギターや打楽器の繊細さを捉えるのに向く。近接でもトランジェントを丁寧に拾う。
- リボンマイク:柔らかく自然な音で、強い近接効果を伴うことがある。高SPLの場所やギターアンプに向ける際は注意が必要(パッシブリボンは特に高SPLで損傷する危険あり)。
基本的な距離と角度の目安
「近接」といっても場面により適切な距離は異なります。以下は一般的な目安です。
- ボーカル:2〜15cm。ポップノイズを防ぐためにポップガードを使用し、口元からの距離で低域の量をコントロール。
- ギターアンプ:1〜20cm。スピーカーの中央に寄せると明るく、エッジ寄りに寄せると低域が抑えられてフィットする。
- アコースティックギター:10〜30cm(12フレット付近を狙う場合)。サウンドホール正面は低域が強いため、フレット付近や上方を狙うとバランスが良い。
- ドラム(スネア):2〜5cm(トップ)/5〜15cm(ボトム)。キック:内部なら2〜10cm、前面のホール側からは5〜20cm。ハイハット:10〜30cmで位相とブリードに注意。
- 管・弦楽器:10〜30cm。楽器のラウドネスと音色の指向性を考え、ややオフ軸にして高域の刺さりを抑える。
楽器別の具体的テクニック
ボーカル
口元からの距離で低域の量をコントロールします。ショートディスタンス(2〜5cm)で厚みを出す場合はハイパスを使って不要な低域をカット。ポップガードやウィンドスクリーンでプラッシブ対策を行い、シビランス(s音)にはディエッサーや適切なマイク選び(滑らかな高域特性)で対応します。マイクを少し上向き・下向きに角度調整することで直接的な息の当たりを避け、プロジェクトごとのEQ処理を容易にできます。
ギターアンプ
スピーカコーンの中心付近は明るく、コーンのエッジは温かみが出ます。近接して中低域を得るか、少し離して部屋の響きを取り入れるかは音楽ジャンルとミックスの方針で決めます。位相干渉を避けるため、複数マイクを使う場合は3:1ルールや位相確認を行います。
アコースティックギター
音源のどの部分を狙うかで音色が大きく変わります。サウンドホール寄りは低域寄り、12フレット付近はバランスが良く、ナット寄りは明るくなる傾向があります。近接で拾う場合は12フレットから10〜20cmを基本に、キャラクターを聴きながら前後させます。
ドラム
ドラムは多数の近接マイクを使うため位相管理が重要です。スネアやタムはヘッドに近づけてアタックを取る一方、オーバーヘッドやルームマイクで全体のバランスと自然な響きを足します。スネアトップは2〜5cm、キックはホール有無により位置調整し、内側のマイクは低域の過剰を避けるために距離を微調整します。
位相とマイク間の関係 — 3:1ルール
近接マイクを複数用いる場合、位相の打ち消し(キャンセル)に注意が必要です。一般的なガイドラインとして「3:1ルール」があり、あるマイクと音源の距離が1であれば、他のマイクは最低3倍の距離を保つことで位相の干渉を最低限にするというものです。これは万能の法則ではありませんが、複数マイクによる位相問題を避けるための実務的な出発点になります。さらに厳密には位相チェック(位相反転でのサウンド比較、波形の揃え、タイムアライメント)を行うことが望ましいです。
プロの調整術:EQ、コンプ、フィルターの使い方
近接マイク収録は後処理が効きやすい反面、低域のコントロールや息・プラッシブ、シビランスの処理が必須です。
- ハイパスフィルター(HPF):ルームノイズや不要な低域をカット。ボーカルなら80Hz前後、楽器により40〜120Hzを目安に調整。
- ローエンドの整形:近接効果で膨らんだ低域は、Qを広めにして帯域を整える。必要ならマルチバンドで特定帯域のみ制御。
- コンプレッション:近接収録はダイナミクスが出やすいので、アタックとリリースを調整して存在感を出す。ボーカルは軽めのコンプから始めるのが安全。
- ディエッサー:シビランスが目立つ場合に使用。
ライブでの実践とフィードバック対策
ライブで近接マイクを使うときは、モニターやスピーカーとの配置が重要です。マイクの指向性を活かしてスピーカーからの音を避ける角度を取る、ゲインを必要最小限にする、イコライザーでハウリング周波数をあらかじめ抑えるなどの対策が有効です。また、近接での収音はハンドリングノイズや衣擦れを拾いやすいので、スタンドやマイクのショックマウント、ポップガードの使用を検討してください。
ブレンド戦略 — 近接と距離録音のバランス
近接録音だけでは生々しさや空間感が失われることがあります。多くのプロは近接マイクとルーム/アンビエンスマイクを組み合わせ、録音時に音色を作り込みます。近接は存在感とアタックを、ルームは自然な倍音と奥行きを担当させ、ミックス時にバランスを調整します。
トラブルシューティング(よくある問題と対処)
- 低域が濁る:近接効果の過剰。マイクを少し離す、HPFを使う、オフアクシスにする。
- プラッシブ・息のノイズ:ポップフィルター、口とマイクの角度を調整、距離を取る。
- 位相の薄さ・こもり:3:1ルールを確認、位相反転やタイムアライメント、不要なマイクのミュートを試す。
- ハウリング(フィードバック):スピーカーとマイクの角度調整、指向性を活かす、ハウリング周波数のEQカット。
まとめ:近接マイクを使いこなすためのチェックリスト
- 目的を明確にする(存在感を出すのか、自然さを残すのか)。
- マイクの種類と指向性を用途に合わせて選ぶ。
- 距離と角度で音色を調整し、近接効果を意図的に使うか抑えるか決める。
- 複数マイク時は位相管理(3:1ルール、位相チェック、タイムアライメント)を行う。
- 不要な低域はHPFで整理し、プラッシブやシビランスには物理的対策とプロセッシングを併用する。
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参考文献
- Shure — Proximity Effect
- Shure — Microphone Techniques
- Sound On Sound — Close miking drums
- Sound On Sound — Miking acoustic guitar
- Sound On Sound — The 3:1 Rule
- Wikipedia — Proximity effect (audio)
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