ミッドタム徹底ガイド:音作り・チューニング・録音から選び方まで
ミッドタムとは何か
ミッドタム(mid tom)はドラムセットの中間域を担当するタムで、ハイタムとフロアタムの中間のピッチと音色を持ちます。一般的には口径が12インチや13インチのものを指すことが多く、深さ(デプス)はメーカーやモデルによって8インチ前後から10インチ程度が一般的です。ミッドタムはフィルやソロの中でメロディックな役割を果たし、セット全体の音階的なつながりを作る重要なパーツです。
構造と素材が音に与える影響
ミッドタムの音は、シェル材、シェル厚、ベアリングエッジ、フープ、ヘッドの種類といった要素の組み合わせで決まります。
- シェル材: メイプルは温かくバランスの良いミッドレンジ、バーチはアタックが強く明瞭、マホガニーは低域が豊かで太いサウンド。金属やアクリルのシェルはより攻撃的でサステインが長くなる傾向があります。
- シェル厚: 薄めのシェルは共鳴が豊かで倍音が多く、厚めはアタックが早くフォーカスのある音になります。ミッドタムは中厚(5〜7mm相当)のシェルが汎用性が高いです。
- ベアリングエッジ: エッジ形状(45度、30度、ラウンドオーバーなど)はヘッドとシェルの接触の仕方を変え、アタックやサステインに影響します。鋭いエッジはアタック重視、丸いエッジはまろやかな鳴り。
- フープ: トリプルフランジは倍音が豊かで開放的、ダイカスト(ミシガン)フープはピッチ感とフォーカスが増します。
- ヘッド: コーテッド、クリア、2プライなどで音色が変わります。一般にコーテッドやシングルプライはアタックと暖かさ、2プライは耐久性とパンチを与えます。
チューニングと音作りの実践
ミッドタムのチューニングはセット全体のバランスに直結します。基本的にはハイタムより低く、フロアタムより高くチューニングすることが多いですが、ジャンルや個人の好みで変化します。
- 相対チューニング: ハイタム→ミッドタム→フロアタムを4度や5度の間隔で並べるのが一般的ですが、3度や2度などよりメロディックに揃えるケースもあります。チューナーを使うより耳での判断が重要です。
- ラガージング法: 各テンションボルトを対角線上で少しずつ締めていき、ヘッド面の張りを均一にする。チューニングキーで1/4ターン単位で調整し、最後に打面の位置で微調整します。
- ピッチの目安: 数値での指定は楽器やヘッドによって変わるため一概には言えませんが、実践的にはハイタムがスネアの高域から離れすぎないように、ミッドはハイとフロアの懸け橋になる音域に合わせます。
- ダンピング: 過度の倍音を抑えるためにムーングリル、テープ、Oリング、内部マフラーを使用します。ジャズではややドライに、ロックでは少しサスティンを残す調整が好まれます。
レコーディング/マイキングのコツ
ミッドタムの音を録るときは、近接マイクとオーバーヘッドやルームマイクとのバランスが重要です。
- 近接マイク配置: ダイナミックマイク(例:SM57系)をヘッドの軸からややオフセンターに向けて、ヘッドから約2〜5cmの位置に置きます。直接中心を狙いすぎると低域が強くなりがちなので注意。
- 角度と距離: 45度程度の角度で斜めに当てるとアタック感を拾いやすい。距離を離すと部屋の影響が増えるが、位相問題に気をつける。
- 位相とゲーティング: 近接マイクとオーバーヘッド系の位相を確認し、必要なら位相反転で整える。ゲートやコンプでタムのアタックを際立たせることが多い。
- EQとコンプ: 60〜120Hz付近を適度に整え(低域のブーミーさを抑える)、3〜6kHzあたりを少しブーストしてアタックを出す。コンプはアタック重視で短めのアタックタイムを使うと良い。
演奏テクニックと表現
ミッドタムはフィルの核となることが多く、タム奏法のマスタリーが楽曲のドラマを左右します。
- ロールとダイナミクス: ロール(パラディドルやダブルストローク)で音色の変化を作り、アクセントの位置を意識してダイナミクスをつける。
- スティック選び: ティップ形状(丸いティップは明るめ、樽型はフォーカスした中域)と重さでサウンドが変わります。ミッドタムは中庸なスティックが扱いやすい。
- モーションとポジショニング: 腕の高さや角度で打面の反応が変わるため、セッティングはリラックスした自然な高さに合わせる。体幹と腰の動きを活かしたフィルは音の一体感を高めます。
ジャンル別のセッティング例
- ロック/ポップ: ミッドタムはやや低めでサステインを残し、パンチのある音作り。2ミリ厚のヘッドや少量のダンピングがよく使われます。
- ジャズ: 高めでドライなセッティングが好まれ、コーテッドヘッドに少なめのテンション。繊細なタッチとシェルの共鳴を活かす。
- メタル/ヘヴィ系: 明確なアタックと短めのサステインで、タイトにチューニング。ゲートや硬めのヘッドでクリアなスナップを得る。
ミッドタムの選び方とメンテナンス
購入時は音を試奏できるなら必ず叩いてチェックしてください。見た目だけでなくベアリングエッジの状態、ラグやフープのガタ、シェルのひずみやクラックを確認します。中古を買う場合、ヘッドは交換されていることが多いため、シェルの状態とハードウェアの動作が重要になります。
- メンテナンス: 定期的なヘッド交換、テンションの均一化、ラグの緩みチェック。湿度変化で木材が変形しやすいため保管環境にも注意。
- 持ち運び: 振動や衝撃からシェルを守るためにパッド入りのケースに入れる。フープやラグを緩めて持ち運ぶ人もいますが、再チューニングが必要になります。
よくあるQ&A
- Q: ミッドタムは必ず12インチであるべきですか?
A: いいえ。12インチや13インチが一般的ですが、バンドや奏者の好みにより10インチや11インチのミッドレンジとして使われることもあります。
- Q: ダンピングはどの程度が適切ですか?
A: ジャンルと曲のテンポ、楽曲のアレンジによって変わります。過度にダンプすると表現が失われるので、少しずつ調整するのがコツです。
まとめ
ミッドタムはドラムセットの音楽的な接着剤のような存在で、チューニング、ヘッド選び、シェル材、マイキング、演奏テクニックの細やかな調整によって多彩な表現を可能にします。機材選びの際は目的(ジャンル、録音環境、ライブの音量など)を明確にし、試奏と耳による確認を重ねてください。適切なメンテナンスとセッティングで、あなたのセットの中心的な存在となるでしょう。
参考文献
- Remo - Drumhead and Tuning Education
- Evans Drumheads - Tuning Guides
- Drum Workshop (DW) - Drum Construction and Hardware
- Modern Drummer - Articles and Tutorials
- Sound On Sound - Miking Drums


